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医療法人や病院のM&A(合併・買収)は、高齢化社会の進展や後継者不足問題を背景に年々増加しています。しかし、医療法人特有の制度や非営利性の確保など、一般企業のM&Aとは異なる特徴があるため、適切な知識と準備が必要です。
本記事では医療法人M&Aの基本的な知識から実施スキーム、メリット・デメリット、そして成功のための重要ポイントまで、医療機関の経営者や関係者が知っておくべき情報を詳しく解説します。
<この記事で紹介する5つのポイント>
目次
医療業界は高齢化社会の進展とともに大きな変革期を迎えています。特に医療法人においては後継者不足や経営環境の変化から、M&Aによる事業承継が注目されています。
医療サービスの継続性を確保しながら、経営資源の効率的な活用を実現するための選択肢として、医療法人M&Aの重要性が高まっています。
医療業界は、日本標準産業分類によると「医師又は歯科医師等が患者に対して医業又は医業類似行為を行う事業所及びこれに直接関連するサービスを提供する事業所」と定められています。
具体的には、病院、一般診療所、歯科診療所のほか、助産・看護業、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所、カイロプラクティック療法業やリフレクソロジーなどを行う事業所、歯科技工所、臨床検査業を提供する事業所などが含まれます。
医療サービスを提供する多様な事業形態が医療業界を構成しており、国民の健康を守る重要な社会インフラとして機能しています。
医療法人は、医療法に基づいて設立される法人であり、「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団」と定義されています。
この制度は資金集積を容易にする目的で創設されましたが、「非営利性」が徹底されています。営利目的の開設は許可されず、出資者への配当も禁止されています。現在、出資持分のある医療法人の新設はできず、平成19年4月以降は持分なし医療法人のみが設立可能となっています。
「クリニック」や「医院」は診療所の通称です。医療法によれば、診療所は「医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって、患者を入院させるための施設を有しないもの又は十九人以下の患者を入院させるための施設を有するもの」と定義されています。
一方、病院は「二十人以上の患者を入院させるための施設を有する」医療機関とされ、20床以上が病院、無床または19床以下が診療所として区分されます。病院は診療所に比べて構造設備等に関する規制がより厳重であり、また歯科医業のみを行う診療所は「歯科診療所」、それ以外は「一般診療所」と分類されています。
このように、入院施設の有無や規模によって医療機関の分類が明確に定められています。
日本の医療業界の市場規模は厚生労働省の2021年度概算医療費によると44.2兆円に達しています。
これは国の高齢化進展を背景としており、特に総人口の5.3%を占める団塊世代が75歳を迎える「2025年問題」により、医療費の増加ペースはさらに加速すると予想されています。後期高齢者(75歳以上)の一人当たり医療費は75歳未満の約4倍といわれており、財政面での懸念が強まっています。
一方、厚生労働省は国民健康保険制度維持のため、診療報酬のマイナス改定や薬価基準引き下げなど医療費抑制策を実施しており、病院経営は厳しい状況にあります。世界保健機関(WHO)の定義では65歳以上を「高齢者」とし、日本の厚生労働省は65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と分類しています。
医療業界では、人口動態の変化や制度改革によって経営環境が大きく変化しており、医療法人の存続と発展のための選択肢としてM&Aの重要性が高まっています。単なる事業の売買だけでなく、医療サービスの質向上や地域医療の継続性確保という社会的使命も含めた戦略的な意思決定として捉えられています。
医療法人のM&Aが注目される背景には「事業承継」「経営の安定化」「設備や施設の老朽化」「政策的背景」など複合的な要因があります。特に医師の高齢化や後継者問題は深刻であり、地域医療の存続の観点からも事業承継は喫緊の課題となっています。医療法人特有の制度的要件と社会的使命から、M&Aは単なる事業売買ではなく、地域医療の継続性を確保するための重要な選択肢として位置づけられています。
厚生労働省の調査によると、診療所の医師の平均年齢は60.4歳(2022年)と高齢化が進行しており、跡継ぎがいないケースが増加しています。帝国データバンクの調査では、2023年の病院・医療の後継者不在率は65.3%と全業種平均の53.9%を上回り、医業の承継や地域医療の存続が危機的状況にあります。
参照元:
厚生労働省|令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
こうした背景から、第三者への承継を選択する医療法人が年々増加しています。後継者となる若手医師が不足する中、M&Aによる事業承継は医療サービスの継続性を確保するための現実的な選択肢となっています。特に地方の医療機関では医師の高齢化と後継者不足が深刻で、地域住民の健康を守るためにもM&Aによる事業承継の重要性が高まっています。
後継者不在による事業承継を目的としたM&Aのほかに、経営の安定化を目指した医療法人による合併や買収も増加しています。
医療法人は制度が比較的新しいこともあり、いわゆる老舗やガリバー的存在が少ない業界です。例えば全国で71の病院を運営する徳洲会グループでさえ、業界シェアはわずか数%程度といわれています。このような状況下で、業界シェア上位の医療法人グループが経営基盤強化のために買収を活発化させています。
経営資源の共有や診療分野の補完、地域でのネットワーク拡大などにより、医療サービスの質向上と経営効率化を同時に追求する動きが見られます。このような戦略的M&Aは、医療提供体制の強化という社会的意義も併せ持っています。
国内にある病院の多くが、病床数を規制する1985年の医療法改正以前に建設されました。築40年以上が経過し、施設の建て替え需要が急増しています。現代の医療水準に見合った設備を整備するには多額の資金が必要ですが、こうした資金繰りに苦しむ医療機関に対して、資金力のある法人やファンドが買収するケースが増えています。
医療機器の高度化や施設の快適性向上など、良質な医療サービス提供のための設備投資は不可欠です。しかし、特に中小規模の医療法人では自己資金だけでの更新は困難な場合が多く、M&Aによる資金調達は施設や設備の刷新を実現する有効な手段となっています。患者のニーズに応える近代的な医療環境整備という点でも、M&Aは重要な役割を果たしています。
厚生労働省は「地域医療構想」として2025年に向けて病床を4つの機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)に分化・連携を進めることで、資源の効率的配分と良質な医療サービス提供体制の再構築に取り組んでいます。
少子高齢化で医療や介護に携わる人材が減少する中、効果的かつ効率的な資源配置が社会的に求められています。また、地方財政の厳しい状況から公立病院を民間に売却する動きも水面下で広がっています。厚生労働省は表立ってM&Aを推進していませんが、実情としては規模の大小を問わず生き残りをかけた再編が進行しています。このような政策的背景のもと、医療法人M&Aは単なる経営統合ではなく、地域医療の持続可能性を高めるための手段として重要な意味を持っています。
医療法人のM&Aは、関わるすべてのステークホルダーにさまざまなメリットをもたらします。譲渡者、譲受者、そして地域社会や患者にとって、適切に実施されたM&Aは多くの価値を創出する可能性があります。それぞれの立場から考えられるメリットを詳しく見ていきましょう。
医療法人を第三者に譲渡する際、譲渡者はさまざまなメリットを享受できます。まず、通院患者を守ることができるという点が重要です。長年通院している患者が急に診療を受けられなくなる事態を避け、継続的な医療サービスを確保できます。
また、スタッフの雇用を継続できるため、長年働いてきた従業員の生活基盤が守られます。経営者自身にとっても、個人保証していた借入金の保証から解放される可能性があり、退職金を得られるメリットもあります。
さらに、経営や労務から解放されることで臨床に集中できるようになったり、引退してセカンドライフを歩むことができるようになります。個人で医療機関を閉鎖する場合と異なり、建物の取り壊しや原状回復が必要なくなるため、それらにかかる費用や手間も節約できます。
こうした多面的なメリットが、医療法人のM&Aを選択する大きな理由となっています。
医療法人のM&Aで譲受者となる側にも多くのメリットがあります。医師やスタッフをそのまま雇用できることは大きな利点で、人材確保が困難な医療業界において即戦力となる人材を得られます。施設や設備もそのまま引き継げるため、新規開業と比べて初期投資を抑えることが可能です。患者基盤もそのまま引き継げるため、開業直後から安定した収益を見込むことができます。
また、地域での知名度や近隣病院との関係性も引き継ぐことができ、地域医療ネットワークにスムーズに参入できます。既存の施設・設備をそのまま利用できるため、新規開業に比べて準備期間を短縮でき、開業までの機会損失を最小限に抑えられます。
そのほか、新規開業に比べて全体的なコストを削減できる点も大きなメリットです。譲受者はこれらのメリットを生かして、より効率的かつ効果的な医療サービスを迅速に展開することができます。
医療法人のM&Aは患者や地域社会にも大きなメリットをもたらします。もっとも重要なのは、同じ場所に引き続き通院できる
点です。特に高齢者や慢性疾患の患者にとって、長年通い慣れた医療機関が存続することは安心感につながります。
また、地域の雇用が維持されることで、医療従事者の生活基盤が守られるだけでなく、地域経済にも好影響を与えます。さらに、地域医療が維持されることで医療過疎地域の発生を防ぎ、住民の健康を守る体制が継続されます。医療機関が廃業した場合、近隣の医療機関に患者が集中し医療サービスの質が低下するリスクがありますが、M&Aによる事業承継はそうした事態を防ぐことができます。
地域全体の医療提供体制を維持するという観点からも、医療法人のM&Aは重要な役割を果たしています。患者や地域社会にとって、医療アクセスの継続性確保は最大のメリットといえるでしょう。
医療法人のM&Aにはメリットだけでなく、各関係者にとってのデメリットも存在します。慎重な検討なしにM&Aを進めると、想定外の問題に直面する可能性があります。譲渡者、譲受者、患者や地域社会それぞれの観点からデメリットを理解することが、よりよいM&A実現への第一歩となります。
医療法人の譲渡において、譲渡者側にもいくつかのデメリットが存在します。経営方針が変わる可能性があるため、長年培ってきた医療機関の理念や文化が変化する可能性があります。これは創業者として心理的な負担となることがあるでしょう。
また、事業承継への準備に想像以上の手間がかかることも多く、譲渡に向けた書類作成や交渉に多くの時間と労力を費やす必要があります。さらに、承継までに時間がかかる可能性があり、交渉から実際の引き渡しまでの期間が長引くことで、その間の経営維持に負担を感じることもあります。特に医療法人特有の行政手続きの煩雑さにより、予想以上に時間がかかるケースも少なくありません。
最適な譲渡先を見つけるまでの期間も不確定であり、その間の精神的ストレスや時間的コストも考慮する必要があります。譲渡後に患者やスタッフとの関係に変化が生じる可能性もデメリットとして考慮すべき点です。
M&Aで医療法人を買収する譲受者にとってもデメリットは存在します。建物や設備の老朽化が進んでいる場合、買収後に予想外の改修や修繕が必要になる可能性があります。診断機器やシステムの更新にも追加コストがかかることがあるでしょう。
また、前からの経営方針や運営方針を急に変えることが難しい場合があり、改革を進める上での障壁となることがあります。さらに、医師やスタッフが経営変更を受け入れられず離職するリスクもあります。特に中核を担う医師が退職した場合、診療体制に大きな影響が出る可能性があります。買収前には分からなかった患者層や地域特性との相性問題が表面化することもあり、想定していた診療方針や経営戦略の見直しが必要になる場合もあるでしょう。
医療法人特有の行政手続きや許認可取得の煩雑さも譲受者にとって負担となります。これらのデメリットを最小化するためには、買収前の詳細な調査と綿密な移行計画が不可欠です。
M&Aによる医療法人の事業承継は、患者や地域社会にとってもデメリットをもたらす可能性があります。もっとも大きな変化として、病院の雰囲気や診療方針が変わってしまう可能性があります。長年通院してきた患者にとって、突然の変化は戸惑いや不安を生じさせることがあるでしょう。特に慢性疾患の管理や高齢患者の診療においては、診療方針の一貫性が重要なため、急激な変化は患者の治療方針に混乱をもたらす可能性があります。
また、新しい経営者の方針により、これまで行われていた特定の診療科目やサービスが縮小・廃止されるリスクもあります。医師やスタッフの入れ替わりにより、長期にわたる患者と医療者の信頼関係が途切れてしまうケースも懸念されます。
地域医療における連携体制にも影響が出る可能性があり、近隣の医療機関との関係性が変化することで、地域全体の医療提供体制に調整が必要になる場合もあるでしょう。これらの変化を最小限に抑えるためには、承継過程での丁寧な情報提供と患者ケアの継続性確保が重要です。
医療法人や病院のM&Aにおける相場は、一般的な企業のM&Aとは異なる特徴を持っています。相場を知る上で重要なのは、持分ありか持分なしかという医療法人の種類の違いです。
持分ありの医療法人の場合、出資持分が相続財産となり相続税の課税対象となります。一方、持分なしの医療法人では、持分譲渡ができないため退職金として対価を受け取るケースが多く、その上限額は「最終報酬月額×勤続年数×3倍」と税務上で定められています。
医療法人のM&A取引は非公開で行われることが多いため取引相場は不透明ですが、医療法人の価値算定においては、いくつかの代表的な手法が用いられます。一般的には「法人の時価純資産額」に「営業権(のれん代)」を加算する方法が採用されることが多いようです。地域に密着した小規模な診療所では、過去の類似事例をもとに相場観を形成することも行われています。
業務の性質上、M&A仲介会社などの専門家に相談することで、より正確な相場観を得ることができるでしょう。
医療法人の価値を算定する方法には、定まった絶対的な評価手法は存在せず、複数のアプローチを組み合わせることが一般的です。主な評価方法として、「時価純資産価額方式」があります。これは医療法人の保有する資産から負債を差し引いた価値に、無形の価値であるのれん代(営業権)を加えるものです。しかし、医療施設や医療機器という特殊な資産は単なる不動産や保有資産とは異なり、換金性の評価が難しいという特徴があります。
また、加重平均資本コスト(WACC)を用いたDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)も用いられますが、小規模病院ではなじまないという意見もあります。「マーケットアプローチ」として過去の取引事例を参考にする方法や、「インカムアプローチ」として将来の収益予測から現在価値を算出する方法も活用されます。
結局のところ、医療法人も事業会社のM&Aと同様、売り手と買い手双方の思惑を加味した落としどころを探り、最終的な譲渡価額が決定される点は共通しています。複数の評価手法を組み合わせることで、より客観的かつ公正な評価につなげることが重要です。
医療法人や病院のM&Aを実施するにあたっては、さまざまなスキーム(手法)があります。医療法人特有の制度的背景や法的制約を踏まえながら、最適なM&Aスキームを選択することが成功への第一歩となります。
各スキームには特徴やメリット・デメリットが存在するため、譲渡側と譲受側の状況や目的に応じた適切な選択が求められます。
医療法人や病院のM&Aスキームは、譲渡主体と譲渡対象によって分類できます。譲渡主体としては、個人事業主から医療法人への承継、医療法人から個人事業主への承継、医療法人から医療法人への承継の3パターンに大別されます。譲渡対象については、法人格丸ごとが対象となるか、特定の事業のみが対象となるかで分類されます。
出資持分の定めがない社団医療法人の場合、譲渡する財産がないため「社員の交代」という手続きになります。一方、出資持分ありの医療法人では、出資持分譲渡(あるいは払戻し)、事業譲渡、合併のいずれかのスキームが用いられます。
医療法人の「社員」とは株式会社における「株主」に相当する存在であり、一般の従業員とは異なる点に注意が必要です。譲渡側と譲受側の事情や希望、スキームの特性などを踏まえて、最適な方法を選定していくことが重要となります。各スキームには手続きの複雑さや期間、コストなどさまざまな要素が異なるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に選択する必要があるでしょう。
医療法人のM&Aスキームには、合併、事業譲渡、出資持分譲渡と役員等交代の3つの主要な手法があります。
合併は2つ以上の法人を1つに統合するもので、新設合併と吸収合併がありますが、原則として吸収合併が用いられます。合併のメリットとしては、間接コストの合理化、人材配置の流動化、同一医療圏内での病床移動が可能になることなどが挙げられます。一方、組織文化の統合が難しくリスクが集中化するというデメリットもあります。
事業譲渡は、特定の事業に関する資産等を一括してほかの法人に譲渡するもので、閉鎖と開設を同時に行うため行政の理解が前提となります。出資持分譲渡および役員等交代は、社員総会で議決権を持つ社員と、理事会に相当する理事および理事長を交代させる方法です。医療法人格は存続したまま、経営権のみが移転します。
これらのスキームはそれぞれ、行政手続き、病床引継ぎの可否、ガバナンスへの影響、手続きにかかる期間などが異なるため、医療法人の状況や譲渡・譲受側のニーズに合わせて最適な方法を選択する必要があります。専門家のサポートを受けながら進めることが望ましいでしょう。
医療法人や病院のM&Aを成功させるためには、医療業界特有の事情や手続きを理解し、適切な準備と対応が必要です。一般企業のM&Aとは異なる点を認識し、専門家のサポートを受けながら進めることで、円滑な事業承継を実現することができます。
医療サービスの継続性を確保しながら経営移転を進めるためのポイントを解説します。
医療法人のM&Aを成功させるためには、医療業界特有の特性を理解することが重要です。代表的な4つのポイントとして、診察内容(科目)、患者(カルテ)数、スタッフ数、スタッフの引継ぎが挙げられます。
診療科目は医療法人の特性を大きく左右する要素であり、買収後に採算性が悪化するケースもあるため、診療内容の継続性と収益性を慎重に検討する必要があります。患者数はその法人の収益性を判断する重要な指標で、特に慢性疾患を扱うクリニックは、定期的な通院が見込まれるため安定した収入が期待できます。現在の患者数だけでなく、地域の人口動態も考慮し、将来的な患者数の予測も行うことが大切です。
スタッフ数については、慢性的な人手不足に直面している医療業界で、どれだけの人材を確保できるかを把握することが成功の鍵となります。また、スタッフの引き継ぎがスムーズに行われることは、サービスの継続性確保と人員配置基準の遵守のために不可欠です。
これらの特性を踏まえたうえで、M&Aの戦略を立てることが成功への道となります。
医療法人のM&Aでは、監督省庁の許認可を取得することが必須ですが、医療法人の種類によって監督官庁が異なり、必要な手続きも変わってきます。例えば、社団法人と財団法人では求められる手続きが異なり、また持分ありと持分なしの医療法人でも手続きは大きく変わります。
M&A実施時に必要となる許認可には、都道府県への定款変更や役員変更の申請、保健所への開設届、厚生局への保険診療関連の届出、支払い基金への診療報酬振込先変更、法務局での法人名や理事長変更などの登記があります。特に社団医療法人の場合、社員総会の決議や理事会の承認など、内部手続きも重要です。一方、財団医療法人では評議員会の承認なども必要となるでしょう。
これらの手続きを適切に行わなければ、M&A後の医療提供に支障をきたすおそれがあります。医療法人ごとに異なる複雑な手続きを正確に実施するためには、専門的な知識を持った法務担当者やM&A仲介業者のサポートを受けることが不可欠です。
医療法人には「出資持分あり」と「持分なし」の二種類があり、このタイプの違いがM&Aの手法や価値評価に大きく影響します。
「持分あり」の医療法人では、出資者の財産権が認められており、出資持分の払戻請求が可能です。例えば、設立時に1,000万円を出資し、法人の時価が1億円に成長した場合、理論上は1億円の払戻請求が可能となります。これにより持分譲渡によるM&Aが実現します。一方、「持分なし」の医療法人は平成19年4月1日以後に設立されたもので、財産権がなく残余財産の帰属先は国や地方公共団体等となります。基金拠出型医療法人の場合、1,000万円を出資して法人価値が1億円に成長しても、財産として受け取れるのは拠出した1,000万円のみです。
M&Aを検討する際は、まず自身の医療法人が持分ありか持分なしかを確認し、それに応じた適切なスキームを選択することが重要です。
医療法人のM&Aでは、承継候補が決定した後も、実際の譲渡・承継の実行までにはさまざまな行政手続きが必要となります。クリニック(個人事業)を譲渡する場合には、厚生局への保険医療機関廃止届、保健所への診療所廃止届、税務署への個人事業廃止届などが必要です。一方、医療法人を承継する場合には、法務局への医療法人変更登記申請書(理事長変更登記)、都道府県への役員変更届、厚生局への保険医療機関届出事項変更届などの提出が求められます。
これらの申請には、理事会議事録、社員総会議事録、辞任届、就任承諾書、印鑑証明書、医師免許証の写しなど多数の書類が必要となります。また、病院とクリニックでは必要な手続きが異なり、地域ごとに特性があるため、事前に保健所や医務課と連携して正確な手順を確認することが重要です。
これらの手続きを円滑に進めるためには、医療業界に詳しい専門家のサポートを受けることをおすすめします。手続きの遅延や不備によって医療サービスの提供が中断されないよう、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
医療法人のM&Aは、後継者問題や経営環境の変化に対応し、地域医療を守るための重要な選択肢です。適切なスキームの選択と専門的な知識に基づいた手続きが成功の鍵となります。特に、持分の有無による違いや複雑な行政手続きなど、医療法人特有の事情を理解した上で進めることが肝要です。
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