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労働安全衛生の理解を深めることは、より安全な職場環境をつくるために必須の項目です。
経営者や人事担当者は、労働災害(労災)の定義や種類、労災保険の仕組み、企業の責任と対策など、幅広い内容を知っておかなければなりません。
本記事では、労災について詳しく解説します。労災保険給付の種類や労災認定の手続き、労災が発生した場合の会社対応まで解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次
労働災害(労災)は、労働者が業務上または通勤中に被った負傷や疾病、障害、死亡を指します。労働者の安全と健康を脅かす重大な問題であり、企業にとっても大きな損失をもたらす可能性がある災害です。
労災に含まれるのは、工場での作業中の事故やオフィスでの転倒、長時間労働による過労死、通勤途中の交通事故などです。労災が発生した場合、労働者本人だけでなく家族や企業にも深刻な影響を及ぼすため、事前にリスクを把握して適切な対策を講じることが重要です。
労災は業務災害と通勤災害に大別され、それぞれ災害が起こった場所や経緯が異なります。
業務災害とは、仕事中や業務に起因して発生した事故や病気のことです。工場で機械に挟まれる事故やオフィス内での転倒などが該当します。
一方で通勤災害は、自宅から職場への合理的な経路を利用している際に発生した事故が対象です。自宅から駅までの移動中や職場への通勤途中で起こった交通事故などが含まれます。
ただし、通勤途中に寄り道をしたり、中断したりした場合は、行為が合理的でないと判断される可能性があります。
労災保険は正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、契約社員、派遣社員などにも適用されます。企業で働くすべての労働者が労災保険の対象となるため、企業はこれらの従業員にも適切な安全対策を講じる必要があります。
労働時間や勤務日数に関係なく1日でも雇用された従業員は、労災保険の適用対象となります。労災の制度によって、さまざまな雇用形態でも安心して働ける環境が整えられることが期待されています。
「労働者災害補償保険法」に基づき、労働者を一人でも雇用している事業主は労災保険に加入する義務があります。労働者災害補償保険法は、万が一の場合でも従業員が受けられる医療費や休業補償などを保障するために設けられています。
加入しない場合には罰則が科されることもあるため注意が必要です。保険料は全額事業主負担となり、金額は業種ごとに異なる保険料率によって算出されます。企業規模によって負担感は異なるものの、安全な職場環境を提供するために必要不可欠な制度です。
労災保険では、労災にあった労働者や遺族に対してさまざまな給付が行われます。主な給付内容は以下の通りです。
それぞれ詳しく解説します。
療養(補償)給付は、労働者が業務上または通勤中に負傷したり病気になったりした場合、治療費をカバーする制度です。労災によって医療機関で治療を受ける場合、費用の自己負担がなくなります。療養給付には診察料だけでなく入院費用や手術費用も含まれます。
薬剤費や治療に必要な材料費も対象となるため、高額な医療費が発生した場合でも安心して治療を受けることが可能です。ただし、療養給付を受けるためには指定された医療機関で治療を受ける必要があります。事業主や従業員は事前にどの医療機関が指定されているか確認しておくのも重要です。
休業(補償)給付とは、労働者が業務上または通勤中に負傷した結果として休業した場合、期間中の収入を保障する制度です。
休業給付は休業4日目から支給され、平均賃金の60%相当額になり、特別支給金として20%相当額も上乗せされるため合計80%相当額となります。
休業給付により、一時的な収入減少による生活への影響を軽減できる仕組みです。休業給付を利用する際は事前に申請手続きが必要で、休業期間中も医師による診断書や報告書などの書類を提出する必要があります。
障害(補償)給付とは、労働者が仕事上または通勤中に負傷し、結果として障害が残った場合に支払われる制度です。障害給付では障害等級によって年金または一時金として支払われます。
障害等級は第1級から第14級まであり、それぞれ障害の程度によって分類されています。障害が重度な第1級から第7級は一時金もしくは年金、それよりも障害が重くない第8級から第14級は一時金による支給です。
障害給付は障害年金として定期的に支払われるため長期的な生活支援にも寄与します。障害者自身だけでなく、その家族にも一定程度の経済的安定感を提供するのにつながります。
遺族(補償)給付とは、労働者が仕事上または通勤中に死亡した場合、遺族への経済的支援を目的とした制度です。
遺族年金または遺族一時金のほか、葬儀費用などの葬祭料が支払われます。遺族年金については遺族の範囲や人数によって金額が異なります。
遺族給付によって亡くなった方への感謝だけでなく、生き残った家族へのサポートも目的の一つです。遺族は経済的困難から救済されることで、新たな生活へのスタートラインにつながります。
労災にはその他にも介護(補償)給付や二次健康診断等給付など、さまざまな種類の給付があります。
介護(補償)給付は、重度障害者として常時介護を必要とする場合に支援してもらえる介護費用です。二次健康診断等給付では定期健康診断で異常所見があった場合、その後行う二次健康診断および特定保健指導の費用を保障します。
種類の給付制度によって、異なる状況下でも被災者およびその家族へのサポート体制が整えられています。
労災認定には「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要素が重要です。
業務遂行性とは企業側からの指揮命令下による作業の遂行です。一方で業務起因性とは、傷病などと作業の間にある因果関係になります。2つの要素を満たすことで初めて認定対象となります。
具体的にはどんな状況下でどんな事故・病気になったか詳細情報を把握しておく必要があります。労災認定の手続きには一定期間かかり、期間中も適切な対応策を講じるのが重要です。
労災と認められる具体的な事例には、以下のようなものがあります。
実際の労災認定は個々の状況に応じて判断されます。不合理な行動によって発生した事故の場合には認定外となりますので注意しましょう。認定外とならないために、各ケースごとの詳細な状況確認および記録保存も重要になります。
労災申請の流れと必要書類は以下の通りです。
必要書類は、以下の通りです。
申請から給付決定までの期間を長引かせないためにも、早期の申請と正確な書類作成が重要です。
労災認定が降りるまでは、通常2〜3ヶ月程度かかります。
ただし複雑な案件の場合、さらに時間を要する可能性があるため余裕を持つことが大切です。労災認定が降りるまでの間も治療の継続は可能ですが、さまざまな補償が事後的支払いになる点について注意しましょう。
認定申請自体も災害の発生日の翌日から2年の期限があるため、早めの対応を心掛けてください。状況によって異なる可能性がありますが、認定が降りた翌日から3ヶ月間は認定結果に対する不服申し立ても可能です。
労災が発生した場合、企業はさまざまなデメリットを背負うことになります。
それぞれ詳しく解説します。
労働契約法第5条において、事業者は労働者の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負うことが定められています。
安全配慮義務を怠り、労災が発生した場合、事業者は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。損害賠償の範囲は、労災保険でカバーされない部分(休業損害や慰謝料など)に及ぶこともあるため、企業にとって大きな経済的負担です。
さらに、重大な安全配慮義務違反があった場合、刑事責任を問われるケースもあります。賠償金の支払いや刑事責任を避けるためには、日頃から従業員の安全教育や作業環境の改善に取り組み、積極的な安全対策を講じることが重要です。
労働災害が発生した際に、企業が労災申請をさまたげたり、労災を隠ぺいしようとしたりする行為を「労災かくし」といいます。労災かくしは労働基準法違反となり、罰則の対象です。
具体的には、以下のような行為が「労災かくし」に該当します。
労災かくしの行為が発覚した場合、企業には50万円以下の罰金が科される可能性があります。社会的信用の失墜にもつながり、企業イメージの低下や取引先との関係悪化など、間接的な損失も大きくなります。
労災かくしを防ぐためには、労災発生時の適切な対応手順を明確化し、従業員に周知徹底するのが重要です。
労災の発生により、企業の労災保険料率が上昇し、経営に影響を与える可能性があります。労災保険料率は、各企業の過去3年間の労災保険給付実績に基づいて決定されます。
労災が多発する企業は、メリット制と呼ばれる仕組みにより、通常よりも保険料率が上がる可能性が高いです。企業の固定費が増加し、収益に影響を与えます。
さらに労災の発生は、生産性の低下や代替要員の確保、設備の修繕など、さまざまな追加コストを発生させます。追加コストが重なることで、企業の財務状況に大きな影響を与える可能性もあるでしょう。
労災を防ぐためには、企業が積極的に安全対策を講じる必要があります。労災を防ぐための4つの主な対策は以下の通りです。
それぞれ解説します。
安全衛生教育を定期的に実施し、従業員の安全意識を高めることが重要です。新入社員教育や定期的な安全講習会、職場ごとの安全ミーティングなどを実施します。
教育内容には一般的な安全知識だけでなく、各職場や業務に特有の危険要因とその対策、適切な保護具の使用方法、緊急時の対応手順などを含みます。ベテラン従業員から若手従業員への仕事内容を伝達する内容に、安全に関するノウハウも含めると効果的です。
ヒヤリ・ハット事例の共有や、過去の労働災害事例の分析なども、実践的な教育として有効です。教育は一度きりではなく、定期的に繰り返し実施すると、従業員の安全意識を常に高い水準に保てます。
日々の業務中で、安全を最優先する習慣をつけましょう。作業開始前の安全確認や定期的な安全パトロール、安全スローガンの掲示などを通じて、常に安全を意識する環境を作ります。
定期的に安全行動を評価・表彰する制度を設けることで、従業員の安全意識を高められます。経営層や管理職が率先して安全活動に参加し、安全の重要性を示すことも効果的です。
さらに安全に関する提案制度を設けると、従業員から改善アイデアを取り入れられ、全員参加型の安全活動を推進できます。「安全第一」の文化を定着させるには時間がかかりますが、継続的な取り組みによって、従業員一人ひとりが自然に安全を意識して行動するようになります。
設備の定期点検や作業環境の改善を行い、安全な職場環境の維持を図りましょう。
機械設備の定期的な保守点検や作業場所の整理整頓、適切な照明や換気の確保、騒音や有害物質の管理などを徹底して行います。非常時に備えて、避難経路の確保や消火設備の点検、救急用品の配置なども忘れずに行いましょう。
職場の安全性を高めるためには、センサーによる危険検知システムや、IoTを活用した設備の異常検知システムなど最新の技術を積極的に導入することも効果的です。
安全な職場づくりは一朝一夕にはできませんが、継続的な取り組みによって、労災のリスクを大幅に低減できます。
リスクアセスメントを実施し、潜在的な危険を事前に特定して対策を講じることが重要です。リスクアセスメントとは職場に潜む危険性や有害性を見つけ出し、除去・低減するための手法で、以下の手順で実施します。
リスクアセスメントは、定期的に実施するだけでなく、新しい設備の導入時や作業方法の変更時にも行うべきです。過去のヒヤリ・ハット事例や労働災害事例を分析し、類似の危険が他の場所に潜んでいないか確認するのも効果的です。
さらに、従業員からの危険報告を奨励し、現場の声を積極的に取り入れることで、より実効性の高いリスク管理が可能になります。危険を事前に察知し、適切な対策を講じることで、労災の発生を未然に防げます。
労災が発生した場合、会社は迅速かつ適切な対応を取る必要があります。対応は主に以下の3つです。
適切な対応は、被災者の救護や二次災害の防止だけでなく、法的責任の軽減や社会的信用の維持にもつながります。
労災が発生した場合、最優先すべきは被災者の救護で、以下の手順で対応します。
労災保険の手続きや治療費の立て替えなど、被災者が安心して治療に専念できるようサポートすることも重要です。職場復帰に向けたリハビリテーションプログラムの提供や、必要に応じて配置転換などの対応も検討します。
従業員のケアが適切に行えると、被災者の早期回復と職場復帰を支援し、同時に他の従業員の不安を軽減できます。
労災が発生した場合は事業主に労働基準監督署への報告義務があり、以下の手順で対応します。
報告や調査対応が適切に行えると、法的責任を果たすとともに、労働基準監督署との良好な関係を維持できます。調査結果を真摯に受け止め、改善に活かすことで、より安全な職場づくりにもつながります。虚偽の報告や調査妨害は厳しく罰せられるため、常に誠実な対応を心がけることが重要です。
労災の再発を防ぐためには、事故原因を徹底的に分析し、効果的な再発防止策を立案・実施することが重要です。具体的には以下の手順で対応します。
再発防止策の立案と実施は、同様の事故を防ぐだけでなく、職場全体の安全性を向上させる機会でもあります。経営層だけでなく従業員を積極的に参加させることで、安全意識の向上と安全第一の習慣化にもつながります。再発防止策の実効性を高めるためには、経営層のコミットメントと十分な資源(人員・予算)の確保が不可欠です。
最後に、労災に関してよくある質問に回答します。
労災で休職した場合の給与補償金額は、休業4日目から支給が開始されます。補償額は給付基礎日額の80%となり、内訳は休業(補償)給付が60%、休業特別支給金が20%です。
給付基礎日額は、原則として労災発生日前3ヶ月間の賃金総額を暦日数で割った金額です。例えば、月給25万円の労働者の場合、給付基礎日額は約8,153円となり、1日あたりの補償額は約6,522円(8,153円×80%)です。
ただし、年齢階層別の最低・最高限度額が設定されているため、実際の支給額は限度額の範囲内で調整されます。また、休業中に一部就労した場合は、就労分の賃金を控除した金額が基準となります。会社からの賃金支払いがある場合は対象外となるため、注意が必要です。
労災でケガや病気をした場合の病院受診の流れは以下の通りです。
これらの手続きを行うと、医療費の自己負担なしで治療を受けられます。ただし、労災指定医療機関以外で受診した場合は、一旦費用を支払い、後日請求する形になります。
また、通院のための交通費は別途請求可能です。症状が軽微でも、将来の補償に備えて必ず医療機関を受診し、領収書や診断書などの記録を残すことが重要です。
労災とは、労働者の安全と健康に深刻な影響を及ぼす問題です。企業は労災保険への加入や安全対策の実施を通じて、従業員の安全を最優先に考える職場文化を築く必要があります。
具体的には、従業員教育の徹底やリスクアセスメントを行い、労災発生時には迅速な対応を心がけるのが重要です。適切な対応を取ることで、労災を未然に防ぎ、企業の生産性向上や社会的信用の維持につながります。
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