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時間外労働について正しく理解することは、労働者の権利を守り、企業の法令遵守を確保する上で非常に重要です。本記事では、時間外労働の定義から上限規制、残業代の計算方法まで説明します。長時間労働について気になる人事労務担当者や労働者の方は、ぜひご覧ください。
<この記事で紹介する3つのポイント>
時間外労働は、法定労働時間を超えて行われる労働のことです。残業と混同されることがありますが、法律に基づく明確な定義があります。時間外労働を理解する上で、以下の2つのポイントについて把握することが重要です。
それぞれ説明します。
法定労働時間と所定労働時間は、労働時間を規定する上で重要なポイントです。両者の違いを理解することは、時間外労働を正確に把握し、適切な労務管理を行う上で不可欠です。
それぞれ説明します。
法定労働時間とは、労働基準法で定められた1日および1週間の最長労働時間のことです。労働者の健康を守り、ワークライフバランスを確保することを目的に、1日8時間、1週間40時間と定められています。法定労働時間を超えて労働させる場合は割増賃金を支払わなければなりません。
具体的には、1日9時間労働した場合、8時間までは通常賃金、9時間目は時間外労働として割増賃金の対象となります。法定労働時間は労働者の健康や生活を守る上で重要な労働基準の一つと言えるでしょう。
所定労働時間とは、各企業が就業規則や労働契約で独自に定める労働時間のことです。企業の業務内容や労働環境に応じて、効率的な労働時間を設定するために作られたルールであり、法定労働時間の範囲内であれば、以下のように柔軟に設定することが可能です。
所定労働時間を超えても法定労働時間の上限内であれば、割増賃金の対象とはならないため、注意しましょう。
時間外労働は、法定労働時間を基準に判断されるため、1日8時間、1週間40時間を超えた労働が時間外労働になります。労働者の健康と生活を守ることを目的に、法定労働時間を超えて労働させることを法律で禁止しています。
ただし、労使間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、法定労働時間を超えて労働させることが可能です。
例えば、所定労働時間が1日7時間の会社で9時間の労働を行った場合、以下のように考えます。
時間外労働に関する法律は、労働者の権利を守り、適切な労働環境を確保するために重要です。企業は以下の4つの法律や規制を遵守する必要があるため、理解が必要です。
それぞれ説明します。
36協定とは時間外労働を命じる場合に労使間で交わす取り決めです。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」ですが、労働基準法第36条であることから「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
労働基準法では1日8時間、週40時間を超える労働を禁止しており、法定労働時間を超えて従業員に残業を命じる場合、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
例えば、36協定では以下の内容を定めた上で、従業員への周知が必要です。
36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合、労働基準法違反となり罰則の対象となる可能性が高く、1年ごとに更新する必要があるため、労使間で十分に協議を行うことが重要です。
時間外労働の上限規制は、長時間労働を防ぐために設けられた重要な制度です。上限規制前は時間外労働に関する厳格な規制がなかったため、長時間にわたり時間外労働をさせることが可能でした。
しかし、従業員の健康を害し、生産性の低下や離職率の上昇につながる可能性があるため、2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業に適用されています。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間までとされており、特別な事情で時間外労働が必要な場合は、以下のように定められています。
上記の上限を超えて時間外労働させた場合、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となる可能性があるため、必ず遵守しましょう。
特別条項付き36協定は、通常の上限規制を超えて時間外労働を行わせる必要がある場合に労使間で締結される協定です。業務の繁忙期や突発的な事態への対処によって長時間労働が認められていますが、あくまで臨時的な特別の事情がある場合にのみ、特別条項付き36協定を適用できます。
また、特別条項付き36協定を締結しても、以下の上限はいかなる理由があっても必ず守らないといけません。
特別条項を適用する場合でも、従業員の健康管理には十分な配慮が必要です。特別条項を適用する際は、労使間で十分な協議が必要であり、安易に適用することは避けるべきでしょう。
時間外労働を行った対価として、通常の賃金に割増率を乗じた割増賃金を支払う必要があります。法定労働時間を超えて働いた従業員に対して、適切な報酬を支払うことが法律で定められているからです。割増賃金は従業員を補償すると同時に、過度な時間外労働を抑制する効果もあります。
基本的には時間外労働の割増率は25%以上と定められており、その他にも以下のような割増率が定められています。
このように、企業は正確な労働時間管理を行い、適切に割増賃金を計算・支払わなければなりません。
時間外労働に対する残業代の計算方法は、労働制度によって異なります。適切な残業代を支払うためには、各制度の特徴を理解し、正確な計算を行わなければなりません。
本章では以下の労働制度別の残業代計算方法を説明します。
通常の時間外労働における残業代は、法定労働時間を超えた労働に対して支払われます。労働基準法で定められた1日8時間、週40時間を超える労働に対しては、割増賃金を支払う必要があるからです。
例えば、1日の所定労働時間が7時間の会社で9時間働いた場合、8時間目までは通常賃金、9時間目が時間外労働として割増賃金の対象となりますが、所定労働時間ではなく法定労働時間が基準となるため、注意が必要です。通常の時間外労働における残業代は、以下の3種類に分類されます。
時間外手当は、法定労働時間を超えて働いた時間に対して支払われる手当です。長時間労働の抑制や労働者の健康を守ることを目的に、労働基準法では法定労働時間を超える労働に対して、賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
例えば、時給1,000円の従業員が2時間の時間外労働を行った場合、以下のように計算されます。
1,000円 × 1.25 × 2時間 = 2,500円
また、1ヶ月60時間を超える時間外労働については、割増率が50%以上に引き上げられるため、労働時間に注意しましょう。
休日手当は、法定休日に労働した場合に支払われる手当です。法定休日とは、労働基準法で定められた最低限の休日のことで、労働基準法では週1日または4週間を通じて4日以上の休日を与えることが義務付けられています。法定休日に長時間労働を行った場合は通常の賃金の35%以上の割増賃金を支払う必要があります。
例えば、時給1,000円の従業員が法定休日に6時間労働した場合は、以下のように計算されます。
1,000円 × 1.35 × 6時間 = 8,100円
ただし、法定休日以外の休日労働については、時間外労働として扱われるため、割増率が25%に下がります。
深夜手当は、午後10時から午前5時までの深夜時間に労働した場合に支払われる手当です。深夜時間での労働は生活リズムの乱れによる心身の不調や労災につながりやすいため、労働基準法では、深夜労働を行った場合、賃金の25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。
例えば、時給1,000円の従業員が深夜に3時間の労働をした場合、以下のように計算されます。
1,000円 × 1.25 × 3時間 = 3,750円
深夜労働が時間外労働や休日労働と重なる場合、それぞれの割増率を加算して計算しなければなりません。
変形労働時間制における時間外労働の計算は、一定期間を平均して法定労働時間を超えた部分が対象です。変形労働時間制は、繁忙期と閑散期で労働時間に差がつき、単純に1日8時間・週40時間の長時間労働すべてが時間外労働にならない場合があるため、業務効率化や労働時間の適正化を図ることができます。
例えば、1年単位の変形労働時間制を採用している場合、1年間の総労働時間が2,085.5時間(365日÷7日×40時間)を超えた部分が時間外労働となります。
また、変形労働時間制を採用する際は、労使協定の締結と労働基準監督署への届出や各期間における労働時間の上限や対象となる労働者の範囲なども明確に定めなければなりません。
フレックスタイム制とは労働者が仕事と生活のバランスをとりながら効率的に働くことができる制度の一つです。労働者が始業・終業時刻を自由に決められるため、日々の労働時間ではなく、一定期間の総労働時間で管理するため、労働者は自身のライフスタイルに合わせて柔軟に働くことができます。フレックスタイム制における時間外労働は、清算期間における総労働時間が法定労働時間を超えた部分が対象です。
例えば、1ヶ月の清算期間を設定している場合、以下の計算式で時間外労働を算出します。
フレックスタイム制を導入する際は、コアタイムの設定や清算期間の長さなど、詳細な運用ルールを定めた上で導入し、時間外労働が発生した際の計算は注意しましょう。
裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に適用される制度です。労働時間の配分も労働者の裁量に委ねられ、1日のみなし労働時間を守ることを前提に、労働時間を労働者が調整できるため柔軟な働き方ができます。裁量労働制における時間外労働は、みなし労働時間を超えて労働した場合に発生します。
例えば、1日のみなし労働時間を8時間と定めている場合、8時間を超えて働いたとしても、原則として時間外労働とはなりません。
ただし、深夜労働や休日労働を行った場合は、別途割増賃金を支払う必要があります。裁量労働制を導入する際は、対象業務や労働者の範囲、みなし労働時間などを労使協定で定める必要があります。
固定残業代制は、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給に含めて支払う制度です。残業時間の予測が可能な職種や恒常的に一定の残業が発生する業務に適しており、労使双方にとって残業代の計算や支払いの手間を軽減できるメリットがあるため、恒常的に残業が発生する職種などで採用されることがあります。
例えば、月20時間分の残業代を基本給に含めて支払う場合、20時間を超える残業に対しては別途残業代を支払わなければなりません。固定残業代制を導入する際は、労働条件通知書等で固定残業代の金額や対象となる時間外労働の時間数を明示する必要があります。実際の残業時間が固定残業時間を下回った場合でも、固定残業代を返還する必要はありませんが、運用には十分な注意が必要で、不適切な運用は労働基準法違反となる可能性があります。
時間外労働に対する残業代の計算方法は、給与形態によって異なります。適切な残業代を支払うために、各給与形態の特徴を理解し、正確に計算することが求められます。本章では以下の給与形態別の残業代計算方法について説明します。
月給制における残業代計算は、月給を基に1時間あたりの通常の賃金額を算出してから行います。月給には所定労働時間分の賃金が含まれており、時間外労働に対する割増賃金を別途計算する必要があるためです。
例えば、月給25万円・所定労働時間が1日8時間・月20日勤務で残業が発生した場合、以下のように計算します。
月給制の場合、固定残業代制を採用している企業もあるため、労働条件通知書等で確認することが重要です。
日給制の従業員の残業代計算は、日給を基に1時間あたりの賃金額を算出して行います。日給は1日の所定労働時間に対する賃金であり、所定労働時間を超える労働に対して割増賃金を計算しなければなりません。日給12,000円、所定労働時間が1日8時間で残業が発生した場合、以下のように計算します。
日給制の場合、1日の所定労働時間を超えた時点で残業代が発生するため、労働時間の管理に注意しましょう。
時給制の従業員の残業代計算は、時給をそのまま基礎賃金として計算します。時給は1時間あたりの賃金が明確に定められており、割増率を乗じるだけで残業代を算出することが可能です。時給1,200円で残業が発生した場合、以下のように計算します。
残業代の計算:1,200円 × 1.25(割増率) × 残業時間数
時給制の場合、法定労働時間を超えた時点で残業代が発生するため、パートタイムやアルバイト従業員の労働時間管理も重要です。
年俸制の従業員の残業代計算は、年俸から1時間あたりの賃金額を算出して行います。年俸には基本給と諸手当が含まれ、時間外労働に対する割増賃金を別途計算する必要があります。年俸600万円・所定労働時間が1日8時間・年間所定労働日数が240日で残業が発生した場合、以下のように計算します。
年俸制の場合、残業代込みの年俸制を採用している企業もあるため、労働条件を確認することが重要です。
時間外労働に関して、多くの方が疑問に思うポイントがあります。本章では、よくある質問と回答について紹介します。
時間外労働と残業の違いは、以下のような違いがあります。
時間外労働は労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働を指し、残業は所定労働時間を超える労働を指しますが、必ずしも法定労働時間を超えているとは限らない点が特徴のひとつです。時間外労働は法律に基づいて割増賃金の支払いが必要ですが、残業は必ずしもそうではありません。2つの違いを理解した上で適切な労務管理を行う必要があります。
時間外労働と休日労働は、労働を行う日によって区別されており、具体的な違いは、以下のとおりです。
法定休日とは労働基準法において労働者に与えられている休日のことで、1週間に1回の休日を与えるよう使用者に義務付けられています。法定休日である日曜日に働いた場合、働いた労働時間に関わらず全て休日労働となり、35%以上の割増賃金を支払う必要があります。このような違いを正確に把握した上で、適切な労務管理と給与計算を行わなければなりません。
2024年時点で、時間外労働の上限規制に大きな変更はありません。上限規制は2019年4月から大企業に、2020年4月から中小企業に適用されており、2024年に新たな変更予定はなく、以下のような上限規制が適用されています。
ただし、一部の業種で猶予措置が設けられていた建設業、自動車運転業務、医師等については、段階的に適用されています。企業は自社の業種に適用される最新の規制を常に確認し、遵守しなければなりません。
今回は時間外労働に関する基礎知識と実務上の注意点について説明しました。企業は、適切な労務管理を行い、従業員の健康と権利を守るとともに、法令遵守を徹底することが重要です。
また、従業員も自身の労働条件や権利について理解を深め、適切な労働環境を維持するために積極的に関わることが求められます。時間外労働に関する法律や規制は、社会情勢に応じて変わる可能性があるため、最新の情報を常に確認し、必要に応じて専門家に相談しましょう。
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