日本の労働市場において、女性の非正規雇用の割合が高い状況が続いています。この記事では、女性の非正規雇用が増加した背景や、正規雇用が増加しない原因を多角的に分析し、企業が取るべき対策について詳しく解説します。女性の雇用状況に関心がある方や、企業の人事担当者にとって、現状を理解し改善策を考える上で有益な情報をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
<この記事で紹介する3つのポイント>
- 女性の非正規雇用の割合が高い現状と、その背景にある複合的な要因
- 女性の正規雇用が増加しない具体的な原因と、社会構造的な問題
- 企業が女性の正規雇用を増加させるための具体的な取り組み方法
女性の非正規雇用の割合
女性の非正規雇用の割合は、男性と比較して非常に高い状況にあります。2023年の労働力調査によると、女性の非正規雇用労働者の割合は53.2%に達しており、男性の22.5%と比べて2倍以上の水準です。
年齢階級別に見ると、この傾向はさらに顕著になります。20代後半から30代前半にかけては正規雇用が多いものの、35歳以降になると非正規雇用の割合が急激に増加します。特に45歳から54歳の年齢層では、非正規雇用が正規雇用を上回る状況です。
このような状況は、いわゆる「L字カーブ」と呼ばれる現象を生み出しています。女性の正規雇用比率が30代以降で急速に低下する傾向を示すこのカーブは、日本の労働市場における女性の雇用形態の大きな特徴です。
なぜ女性の非正規雇用は増えたのか
女性の非正規雇用が増加した背景には、複数の要因が絡み合っています。
- 労働者の選択:多くの女性が自ら非正規雇用を選択しているケースが少なくありません。総務省の労働力調査によると、非正規雇用を選んだ理由として最も多かったのは「自分の都合のよい時間に働きたいから」というものでした。仕事と家庭生活のバランスを取りやすい働き方を求める女性のニーズを反映しています。
- 家計補助的な就労:「家計の補助・学費等を得たいから」という理由も多く挙げられています。主たる生計維持者ではない立場で働く女性が多いと捉えてよいでしょう。
- 家事・育児との両立:「家事・育児・介護などと両立したい」という理由も上位に挙がっています。依然として家庭内の責任が女性に偏っている日本社会の現状を反映していると言えます。
- 制度的要因:税制や社会保障制度の仕組みも、女性の非正規雇用を増加させる一因です。配偶者控除や社会保険の扶養者制度は、一定の収入以下に抑えるインセンティブとなり、結果的に非正規雇用を選択させる要因となっています。
- 労働市場の変化:1986年の労働者派遣法施行以降、企業側の柔軟な雇用ニーズと相まって、非正規雇用の機会が増加したことも要因と見ていいでしょう。
女性の正規雇用が増加しない原因は?
女性の正規雇用が増加しない背景として、社会構造や企業文化、個人の意識などが考えられます。いずれも長年にわたって形成されてきたものであり、簡単には解消できない根深い問題です。改善するためには、社会全体での意識改革や制度の見直し、企業の積極的な取り組みなど、多面的なアプローチが必要でしょう。特に働き方改革の推進や育児・介護支援制度の充実、女性のキャリア形成支援など、具体的な施策を着実に実行していくことが大切です。
女性の正社員採用が少ない可能性は、近年改善傾向にあるものの、依然として深刻な社会課題となっています。その理由を見ていきましょう。
- 採用時の偏見:一部の企業では「女性は結婚や出産で退職する可能性が高い」という偏見がまだ残っており、男性よりも女性の正社員採用を控える傾向がありました。近年はこの状況は徐々に改善されつつあります。
- 業種による偏り:製造業など、従来男性中心とされてきた業種では、女性の正社員採用が少ない傾向が見られます。一方で、医療・福祉や教育など、女性の正社員採用が増加している業界もあるのです。
- 学歴の影響:近年は女性の高学歴化が進み、大学・大学院卒の女性の正規雇用は増加傾向です。しかし、学歴による雇用機会の差は依然として存在しています。
- 企業規模による差:大企業は女性の正規雇用の増加幅が大きい傾向があるのに対して、中小企業ではまだ女性の正社員採用が進んでいない可能性があります。
女性活躍推進法の施行や社会的な意識の変化により、状況は徐々に改善されつつあります。しかし、女性の正社員採用が男性に比べて少ない事実は厳然として存在しているのです。
結婚や出産が退職理由として多いことは、女性の正規雇用が増加しない大きな要因の一つです。
- 就業継続の難しさ:2000年代までは、約半数の女性が出産時に退職しており、出産前から無職の女性と合わせると、7割が出産後に非就業となっていました。
- 育児と仕事の両立の困難さ:長時間労働や硬直的な勤務体系など、日本の職場環境が育児と仕事の両立を難しくしている面があります。特に、保育施設の不足や待機児童問題も、女性の就業継続を阻む要因のひとつです。
- 男性の家事・育児参加の遅れ:男性の育児参加が進み、育児休業取得率も近年上昇傾向にあるとはいえ、依然として家事や育児の負担は女性に偏っています。
- 職場の理解不足:一部の職場では、育児中の従業員に対する理解や支援が不足しており、結果的に退職を選択せざるを得ない状況を生んでいます。
しかし、近年この状況にも変化が見られます。育児・介護休業法の改正により、短時間勤務制度や看護休暇などの制度が整備され、出産後も就業を継続する女性が増加してきました。現在では出産後も就業を継続する女性は約6割に達しており、改善傾向にあります。
女性が昇進を希望しない、あるいは希望できないという問題も、女性の正規雇用が増加しない要因の一つとして挙げられます。
- 長時間労働への懸念:管理職になると労働時間が長くなる傾向があり、家事や育児との両立の難しさを懸念して、昇進を希望しない女性が多いです。特に、課長級の女性比率が低いのは、この点が影響している可能性があります。
- ロールモデルの不足:管理職や役員に女性が少ないため、キャリアアップのロールモデルがほとんどいません。昇進のイメージが持ちにくく、昇進意欲が高まらない可能性があります。
- 評価基準の問題:一部の企業では、長時間労働や転勤の可否などが昇進の評価基準となっており、育児などの制約がある女性が不利な状況が生じています。
- 自己評価の低さ:女性は自身の能力を過小評価する傾向があるという研究結果もあり、昇進意欲の低さにつながっている可能性は捨てきれません。
- 職場の雰囲気:男性中心の職場文化や、無意識のバイアスが存在する環境では、女性の昇進が難しいです。
これらの要因が複合的に作用し、女性の正規雇用の増加を妨げている可能性があります。しかし、近年の調査では、制度の整備や社会的な意識の変化により、特に20代の女性正社員の間で自己成長や能力向上への意欲が高いことが示されています。企業側も女性管理職の登用に積極的になりつつあり、徐々に状況は変化してきていると言えるでしょう。
今後、さらなる取り組みを通じて、女性がより活躍できる労働環境の整備が期待されます。
企業が女性の正規雇用を増加させるための取り組み
女性の正規雇用を増加させるために、企業は多角的なアプローチを取る必要があります。採用段階からの取り組みや就業継続支援、キャリア開発支援など、様々な施策を組み合わせることが重要です。様々な施策を総合的に実施することで、女性が長期的にキャリアを継続し、能力を発揮できる環境が整備されれば、結果として正規雇用の女性が増加するだけでなく、企業の生産性向上や革新的なアイデアの創出にもつながります。施策を効果的に推進するためには、定期的な実態調査や従業員の声を聞く機会を設け、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善していくことが重要です。
社内の意識改革は、女性の正規雇用を増加させる上で最も重要な取り組みの一つです。
- 経営層のコミットメント:社長をはじめ経営層が女性活躍推進の重要性を理解し、明確なメッセージを発信することが重要です。経営戦略の一環として位置づけることで、全社的な取り組みにつながります。
- 管理職の教育:中間管理職向けに、無意識のバイアスに関する研修や、多様性マネジメントのスキルアップ研修を実施することで、女性社員の能力を適切に評価し、育成する環境が整います。
- 男性社員の意識改革:男性社員に対しても、ワークライフバランスの重要性や、家事・育児参加の必要性に関する啓発活動が必要です。男性への育休取得促進の働きかけなど、職場全体の意識改革が必要でしょう。
- キャリア形成支援:若手女性社員向けにキャリアデザイン研修を実施し、長期的なキャリア形成を支援します。また、社内外のメンター制度を導入し、キャリアアップのロールモデルを提示することも効果的です。
- 評価制度の見直し:長時間労働や転勤の可否ではなく、生産性や成果を重視した評価制度に移行します。育児などの制約がある社員も、公平に評価される環境が整います。
柔軟な働き方を可能にする制度の導入は、女性の正規雇用継続に大きく寄与します。
- テレワークの推進:在宅勤務やサテライトオフィスの活用を進めることで、通勤時間の削減や育児との両立が容易になります。
- フレックスタイム制の導入:コアタイムを設定しつつ、始業・終業時間を柔軟に選択できるようにします。保育園の送迎など、プライベートのニーズに対応しやすいため、社員がより働きやすくなるでしょう。
- 短時間正社員制度:育児期の女性社員のキャリア継続支援の一環として、フルタイムより短い勤務時間で正社員として働ける制度を導入します。
- 育児・介護との両立支援:法定を上回る育児・介護休業制度や、短時間勤務制度を整備します。また、復職支援プログラムを充実させ、スムーズな職場復帰をサポートします。
- 配偶者転勤時の両立支援:配偶者の転勤に伴う退職を回避できるよう、転居を伴う異動の免除や、遠隔地でのテレワーク勤務を認める制度を導入します。
業務を特定の個人に依存せず、チームで共有できる環境を整備することで、多様な働き方を受け入れやすくなります。
- 業務の可視化:各職務の内容や進捗状況を明確化し、チーム全体で共有できるシステムを導入します。急な休暇取得時にも他のメンバーがカバーしやすくなるでしょう。
- マルチスキル化の推進:社員が複数の業務をこなせるよう、計画的な教育・研修を実施します。チーム内での業務の融通が利きやすくなります。
- IT化・ペーパーレス化の推進:クラウドサービスの活用やペーパーレス化を進め、どこからでも必要な情報にアクセスできる環境を整備します。テレワークの推進に取り組みやすいです。
- ジョブローテーションの実施:定期的に部署や職務の異動を行い、社員の幅広いスキル獲得を促進します。組織全体の柔軟性が高まる効果が得られます。
- プロジェクト型の業務体制:従来の縦割り組織に加え、プロジェクト型の業務体制を導入します。これにより、部署を越えた協力体制が構築され、柔軟な人材活用が可能になるでしょう。
これらの取り組みを総合的に実施することで、女性が長期的にキャリアを継続できる環境が整備され、結果として正規雇用の増加につながることが期待されます。ただし、これらの施策は女性だけでなく、全ての社員にとって働きやすい環境づくりにつながるものです。企業全体の生産性向上や人材確保にも寄与する施策として、取り組む価値は大きいでしょう。
まとめ
女性の非正規雇用の割合が高い状況は、個人の選択、社会制度、企業文化など様々な要因が絡み合って生じています。この問題を解決するには、社会全体での意識改革と制度の見直し、そして企業による積極的な取り組みが不可欠です。特に企業においては、社内の意識改革、フレキシブルな働き方の導入、業務シェアの環境づくりなど、多面的なアプローチが求められます。女性の正規雇用増加だけでなく、企業の生産性向上や革新的なアイデアの創出にもつながる可能性があるだけに、実行によって離職率低下などの効果が得られるかもしれません。
継続的な実態調査とPDCAサイクルによる改善を通じて、すべての社員にとって働きやすい環境を整備していくことが重要です。
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