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多くの日本企業において、従業員の福利厚生の一環として導入されている「通勤手当」。日々の通勤にかかる費用負担を軽減し、従業員の生活を支える重要な制度です。しかし、その支給は法律で義務付けられているわけではなく、支給方法や金額、そして税金の取り扱いには企業ごとにルールが定められています。
特に、所得税が課税されない非課税限度額の存在や、多様化する働き方に合わせた運用など、企業の人事労務担当者が押さえておくべきポイントは少なくありません。この記事では、通勤手当の基本的な知識から、関連する費用との違い、支給のメリット・デメリット、非課税制度の詳細、さらには導入や運用における注意点まで、幅広く解説していきます。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次
通勤手当とは、従業員が自宅から会社(勤務場所)までの通勤にかかる費用を、会社が補助する目的で支給する手当のことです。日本の労働基準法などで支給が義務付けられている法定の手当ではありませんが、多くの企業が従業員の福利厚生の充実や人材確保の観点から、就業規則等で定めて支給しています。支給額の算定方法や上限額、支給形態(給与と合わせて支払うなど)は、各企業の裁量に委ねられています。
ただし、税法上、一定の限度額までは所得税が非課税となる措置が設けられています。この非課税限度額を超える部分は給与所得として課税対象になるため、企業は制度の設計や運用において、この点を考慮する必要があります。
「通勤手当」と「通勤交通費」という言葉は、しばしば同じような意味で使われますが、厳密には異なるニュアンスを持つことがあります。一般的に「通勤手当」は、通勤にかかる費用を補助する目的で、給与の一部として定額や一定のルールに基づいて定期的に支給されるものを指します。これは福利厚生としての性格が強く、必ずしも従業員が実際に支払った交通費(実費)と一致するとは限りません。
一方、「通勤交通費」は、従業員が通勤のために立て替えた実費そのものを指し、後日経費として精算される場合に用いられることがあります。ただし、実務上はこの区別があいまいなことも多く、「通勤手当」として実費相当額を支給する企業も少なくありません。
重要なのは名称ではなく、支給される金銭が給与所得として扱われるか、経費として処理されるか、そして所得税の非課税規定が適用されるかどうかです。
通勤手当と旅費交通費は、どちらも移動に伴う費用ですが、その目的と税法上の扱いにおいて明確な違いがあります。通勤手当は、従業員が自宅と定められた勤務場所との間を日常的に往復するために支給されるものです。これは福利厚生の一環であり、給与所得として扱われますが、一定額までは非課税となります。
これに対して、旅費交通費は、出張や顧客訪問、研修への参加など、通常の勤務地を離れて会社の業務命令に基づき移動する際に発生する交通費や日当、宿泊費などを指します。これは「業務遂行に直接必要な経費(実費弁償)」と見なされ、原則として全額非課税で処理されます。
つまり、通勤手当は「日常の通勤」、旅費交通費は「業務上の移動」という、発生の背景が根本的に異なる費用です。
会社が通勤手当制度を設けることには、いくつかのメリットとデメリットが存在します。
主なメリットとしては、従業員のエンゲージメント向上が期待できる点が挙げられます。通勤費用の負担軽減は従業員の経済的安定に寄与し、企業への満足度や定着率を高める効果が見込めます。また、求職者に対するアピールポイントとなり、人材獲得競争において有利に働く可能性もあります。非課税限度額内であれば従業員の所得税負担が増えず、企業側も一定条件下で社会保険料の算定基礎から除外できる場合があります。
一方、デメリットとしては、企業側のコスト負担が直接的に増加することが挙げられます。従業員数が増えれば、その総額は無視できないものになります。加えて、通勤経路の妥当性の確認、距離に応じた計算、非課税限度額の管理、支給処理など、人事労務部門の事務的な負担が増大することも考慮すべき点です。公平性を担保するための制度設計と運用にも配慮が必要です。
通勤手当は給与の一部として支給されますが、その全額に所得税がかかるわけではありません。通勤という行為が、従業員にとって業務の準備段階であり、実費弁償的な性質を持つことから、政策的な配慮により、所得税法で一定の上限額まで税金がかからない「非課税限度額」が定められています。この制度があるため、従業員は限度額までの通勤手当を、所得税や復興特別所得税を引かれることなく受け取ることができます。また、原則として社会保険料の算定基礎からも除外されます。
ただし、企業が支給する通勤手当がこの非課税限度額を超過した場合、その超過分は通常の給与と同様に課税対象となり、源泉徴収や社会保険料の計算に含める必要が出てきます。したがって、企業は各従業員の通勤実態に合わせて、この非課税ルールを正しく適用することが求められます。
通勤手当の非課税となる上限額、すなわち非課税限度額は、従業員が利用する通勤手段によって異なります。主に、電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合、マイカーや自転車などの交通用具を利用する場合、そしてこれらを組み合わせて利用する場合の3つのパターンに分けられ、それぞれに非課税となる金額の計算方法や上限が定められています。企業は、従業員から提出された通勤経路や手段に関する情報に基づき、これらの区分に従って正確に非課税額を算出しなければなりません。この上限額を超えて支給される手当は課税対象となるため、従業員の手取り給与額だけでなく、所得税や住民税、さらには社会保険料の負担額にも影響を及ぼします。以下では、それぞれの通勤パターンに応じた非課税上限額の詳細を解説します。
電車、バス、モノレールなどの公共交通機関を利用して通勤する従業員に対する通勤手当の非課税限度額は、その通勤に通常必要とされる運賃等に相当する額と定められています。具体的には、通勤のための運賃、時間、距離などの事情を考慮して、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合の、1カ月あたりの通勤定期券などの金額が基準となります。
ただし、この金額には上限があり、1月あたり15万円を超えることはできません。したがって、月々の定期代等が15万円以下であればその全額が非課税となり、15万円を超える場合は、15万円までが非課税で、それを超える部分については給与所得として課税されます。新幹線通勤も、経済的合理性が認められれば対象となりますが、グリーン料金は含まれません。
自家用車やオートバイ、自転車といった交通用具を使って通勤する従業員への通勤手当については、公共交通機関とは異なり、片道の通勤距離に応じて非課税限度額が段階的に設定されています。国税庁によって定められたこの限度額は、例えば片道2km未満の場合は全額課税(非課税枠0円)、2km以上10km未満は月額4,200円、10km以上15km未満は月額7,100円、といった具合に、距離が伸びるにつれて非課税枠が大きくなります。上限は片道55km以上の場合で月額31,600円です。ここでいう通勤距離は、一般に利用が合理的と認められる通勤経路に沿った長さで判断されます。なお、従業員が個人的に契約している駐車場の料金を会社が手当として支給する場合、それはこの距離に応じた非課税枠とは別であり、原則として給与課税の対象となる点には注意が必要です。
自宅から最寄り駅までは自転車を利用し、そこから電車で会社まで通勤するといったように、公共交通機関とマイカーや自転車などの交通用具を組み合わせて通勤する従業員もいます。このようなケースにおける通勤手当の非課税限度額は、それぞれの手段に応じた非課税額を合算して計算します。
具体的には、まず公共交通機関を利用する区間の1カ月分の経済的かつ合理的な運賃(定期券代相当額など)を算出します。次に、マイカーや自転車などで通勤する区間の片道距離に応じた非課税限度額(前述の距離区分に基づく額)を算出します。そして、これら2つの金額の合計額が、その従業員の1カ月あたりの非課税限度額となります。ただし、この合計額が15万円を超える場合は、15万円が上限となります。つまり、併用する場合でも、公共交通機関のみの場合の最高限度額を超えることはできません。
通勤手当制度を運用する上では、さまざまな疑問や確認事項が生じます。
例えば、制度を新たに設ける際にどのようなルールを定めればいいのか、パートタイマーや契約社員などの非正規雇用者にはどのように対応すべきか、従業員の引っ越しや通勤ルート変更があった場合はどう処理するのか、そして近年急速に普及したリモートワーク環境下では通勤手当をどう扱うべきか、といった点が挙げられます。
これらの具体的なケースに対して、法令や判例、社会的な動向を踏まえつつ、自社の状況に合わせて適切に対応していくことが、労使間のトラブルを防ぎ、公平で納得感のある制度運用を実現するために不可欠です。以下では、これらの頻繁に寄せられる質問について解説します。
通勤手当の支給は法律上の義務ではないため、企業が任意で導入する際には、その支給に関する詳細なルールを明確に定めた社内規程を作成することが極めて重要です。多くの場合、就業規則本体に規定するか、別途「通勤手当支給規程」といった形で独立させます。規定すべき項目としては、支給対象者の範囲、支給の条件(通勤距離、経路、手段など)、手当の計算方法(実費か定額か、上限など)、申請・変更手続きの方法、支給日、不正受給時の措置、そして非課税限度額の取り扱いなどが考えられます。これらのルールを具体的に定め、全従業員に周知することで、混乱を防ぎ、公平な運用を図ることができます。
パートタイム労働者や有期雇用労働者(契約社員など)といった非正規社員に対する通勤手当の支給については、「パートタイム・有期雇用労働法」に定められた「同一労働同一賃金」の原則を遵守する必要があります。この原則に基づき、職務内容や責任の程度、配置転換の範囲などが同じ正社員と比較して、通勤手当を含むあらゆる待遇において、不合理な差異を設けることは禁止されています。したがって、正社員に通勤手当を一律に支給している場合、原則として、同様の業務に従事する非正規社員にも、雇用形態の違いのみを理由に不支給としたり、不利な条件を設定したりすることはできません。もし待遇差を設ける場合は、職務内容等の違いに基づく客観的かつ合理的な理由を説明できるようにしておく必要があります。
従業員が転居したり、利用する交通機関を変更したりすることによって、通勤経路や通勤方法が変わることは、日常的に起こり得ます。このような変更が発生した場合、会社はあらかじめ定められた手続きに従って、通勤手当の額を適切に見直す必要があります。通常、就業規則や通勤手当に関する規程の中で、従業員に対して通勤経路等に変更が生じた際には速やかに会社に届け出ることを義務付けています。会社は提出された情報に基づき、新しい経路や手段での合理的な費用を算出し直し、それに応じて通勤手当の支給額を改定します。非課税限度額の再計算も必要です。支給額の変更をいつから適用するか(例:届出受理日の翌月給与から、など)についても、規程で明確にしておくことが、スムーズな運用と公平性の確保につながります。
リモートワーク(テレワーク)の普及に伴い、通勤手当のあり方を見直す企業が増えています。従業員が完全在宅勤務となり、オフィスへの通勤がまったく発生しなくなった場合、通勤の実態がないため、多くの企業では通勤手当の支給を停止しています。一方で、週に数日出社し、残りは在宅勤務といったハイブリッド型の勤務形態をとる従業員に対しては、対応が分かれます。出社日数に応じて、実際にかかった交通費を実費精算する方式を採用する企業が多いようです。この場合、通勤手当ではなく、立替経費(旅費交通費など)として処理されることが一般的です。あるいは、従来の定期代分支給から出社日数割合に応じて減額したり、在宅勤務手当を新設して通勤手当は実費精算に切り替えたりするケースもあります。いずれにせよ、働き方の実態に合わせて就業規則等を改定し、従業員に不利益が生じないよう配慮しつつ、公平なルールを整備することが肝要です。
通勤手当は、法定義務ではないものの、日本の多くの企業で採用されている重要な福利厚生制度です。従業員の通勤に伴う経済的負担を軽減し、人材の確保・定着や従業員満足度の向上に貢献します。しかし、その運用にあたっては、通勤手段に応じた所得税の非課税限度額を正確に把握し、超過分は課税対象として適切に処理する必要があります。また、同一労働同一賃金の観点から非正規社員への対応にも配慮が求められ、通勤経路の変更やリモートワークといった働き方の変化にも柔軟に対応できるルール作りが不可欠です。企業は、これらの点を総合的に考慮し、自社の実情に合った公平かつ明確な通勤手当制度を構築・運用していくことが、健全な労務管理を行う上で重要となります。
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