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労使関係の安定は企業の持続的成長に不可欠です。近年、日本でのストライキ発生件数は減少傾向にありますが、労働環境の変化や社会情勢により、今後増加する可能性も否定できません。ストライキのリスクを理解し、適切な対策を講じることは、企業の健全な運営において重要な課題です。
本記事では、ストライキの基本知識や実施するメリット・デメリット、ストライキが起こった際の対策までご紹介します。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次
ストライキとは、労働者が労働条件の改善や維持などの要求を実現するために、集団で労務の提供を拒否する行為です。日本語では「同盟罷業」や「同盟罷工」とも呼ばれ、一般的に「スト」と略されます。
ストライキの主な目的は、使用者側に圧力をかけて労働条件等に関する要求を認めさせることです。労働者が団結して労働を拒否すると、企業の業務に支障をきたすため、経営側との交渉を有利に進める状況を狙います。
ただし、ストライキには労働者側にもデメリットがあります。ストライキ期間中は賃金が支払われないため、労働者にとっても痛みを伴う戦いとなるでしょう。
ストライキにはさまざまな形態がありますが、主に以下のように分類されます。
これらの他にも、ゼネラル・ストライキ(ゼネスト)、ハンガー・ストライキ(ハンスト)、政治スト、同情ストなどです。山猫ストと呼ばれる、組合指導部の承認を得ずに一部の組合員が独自に行うストライキもあります。ストライキの種類は、目的や規模、実施方法によって異なり、労働者の要求や状況に応じて選択されます。
ストライキを行う権利は、日本国憲法第28条に基づく団体行動権によって保障されています。正当なストライキを行った結果、使用者側に損害が生じたとしても、労働者は損害を賠償する責任を負いません。
ただし、ストライキが正当であるためには、以下のような要件を満たす必要があります。
上記の要件を満たさないストライキは違法となり、損害賠償請求や差止仮処分、刑事処分などのおそれがあります。例えば、暴力を伴うストライキや、純粋に政治的な目的で行われるストライキは正当性を認められません。
正当なストライキであれば、労働者は解雇や不利益な取り扱いから保護されます。これは、労働者の団体行動権を実質的に保障するために重要な原則です。
日本では、公務員のストライキは原則として禁止されています。国家公務員法第98条第2項および地方公務員法第37条第1項により、公務員の争議行為が明確に禁止されています。
この禁止の理由は、公務員が国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することが求められているためです。公務員のストライキは、公務の停止を引き起こし、国民生活に重大な影響を与える可能性が大きいです。
ただし、一部の公務員(例:公営企業の職員)には制限付きで争議権が認められている場合もあります。公務員のストライキ権については、憲法で保障された労働基本権との関係で、社会的な議論が続いています。
代償措置として、人事院勧告制度などが設けられており、公務員の労働条件の維持・改善が図られています。しかし、この制度の実効性については批判もあり、公務員の労働基本権のあり方は今後も重要な課題となっています。
ストライキを実施するには、適切な手順を踏む必要があります。
まず、労働組合の総会や大会で、ストライキ実施の決議を行います。この決議には、組合員の過半数の賛成が必要です。
次に、争議行為の予告を行います。公益事業の場合、10日前までに労働委員会と使用者に通知しなければなりません。一般の事業でも、事前の予告が望ましいとされています。
その後、使用者側への通告が必要です。ストライキの日時や場所、参加人数などを明確に伝えます。労働組合内部では、ストライキに向けた準備を開始します。参加者の役割分担や、ピケッティングの方法などを決定します。
最後に、決定した日時にストライキの実施です。参加者は職場に出勤せず、または職場放棄を行います。ストライキ中は、組合の指示に従った行動が重要です。
ストライキには労働者にとって重要なメリットがあります。主なメリットは以下の3点です。
それぞれ説明します。
ストライキの最大のメリットは、労働条件や待遇改善の可能性が高まることです。労働者が団結して業務を停止すると、使用者側に強い圧力をかけられます。その結果、賃上げや労働時間の短縮、福利厚生の充実など、具体的な改善につながる可能性が高まります。
例えば、過去の成功事例では、ストライキ後に大幅な賃上げが実現したケースや、長時間労働の是正が進んだケースがありました。有給休暇の取得促進や育児・介護支援制度の充実など、働き方に関する改善も実現しやすくなっています。
ストライキは最後の手段ですが、それを背景に置いた交渉によって、労働者の要求が真剣に検討される機会が生まれます。
ストライキを通じて、労働者の団結力が強化されるというメリットがあります。共通の目標に向かって行動すると、労働者間の連帯感が深まり、組織としての一体感が生まれるでしょう。
団結力は、ストライキ後の職場環境にもプラスの影響を与えます。労働者同士のコミュニケーションが活発になり、職場の問題に対して協力して取り組む姿勢が育つ可能性が大きいです。労働組合の組織力強化にもつながり、将来的な労使交渉においても有利に働く可能性があります。
ストライキを通じて労働者の権利意識が高まり、より良い労働環境を目指す継続的な取り組みにつながる状況も期待できます。
ストライキを実施すると、労働者側の交渉力が大幅に向上します。業務停止による経済的損失を避けたい使用者側は、労働者の要求をより真剣に検討せざるを得なくなります。
交渉力の向上は、ストライキ中だけでなく、その後の労使交渉にも好影響を与えるでしょう。労働者側が実際にストライキを実行する意思と能力を示すと、将来的な交渉においても使用者側はより慎重に対応するようになります。労働条件の改善や労働者の権利保護につながる可能性が高まります。
ストライキの実施や準備過程を通じて、労働者側の交渉スキルや組織力も向上し、より効果的な交渉が可能になるでしょう。
ストライキには労働者側にとってデメリットもあります。主なデメリットは以下の3点です。
それぞれ説明します。
ストライキの最大のデメリットは、その期間中の賃金が支払われないことです。労働者が労務の提供を拒否している以上、使用者側には賃金支払いの義務がありません。長期化すれば労働者の生活に大きな影響を与える可能性があります。
例えば、数週間にわたるストライキでは、参加者は1か月分以上の給与を失う可能性があります。これは多くの労働者にとって深刻な経済的打撃です。家賃や食費、ローンの支払いなど、日常生活に直接的な影響が出る恐れがあります。
ストライキ後に賃上げなどの要求が実現したとしても、失った賃金を取り戻すには相当の時間がかかる場合があります。そのため、ストライキを決行する際は、この経済的リスクを十分に考慮しなければなりません。
ストライキは職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。ストライキに参加する労働者と参加しない労働者の間に軋轢が生じやすくなり、使用者側との関係も一時的に悪化する可能性が高くなります。
職場の雰囲気悪化は、ストライキ終了後も長期にわたって影響を及ぼす可能性も大きいです。チームワークの低下や生産性の低下につながる恐れがあり、最悪の場合、退職者が増加するなどの事態に発展する可能性もあります。
ストライキ参加者と非参加者の間で感情的な対立が生じると、日常の業務遂行にも支障をきたす可能性があります。このような状況を避けるためには、ストライキ実施前後のコミュニケーションと、職場の和解プロセスが重要となるでしょう。
ストライキは、特にそれが公共サービスに影響を与える場合、世間からの批判を受ける可能性があります。公共交通機関のストライキは、多くの市民の日常生活に直接的な影響を与えるため、批判の対象になりやすいです。
医療や教育分野でのストライキも、患者や生徒に不利益をもたらすとして非難される可能性があります。また、経済への悪影響を懸念する声も上がりやすく、特に長期化した場合はその傾向が強まるでしょう。
このような世論の批判は、労働組合の社会的信頼を損なう可能性があり、長期的には労働運動全体にマイナスの影響を与える恐れがあります。ストライキを実施する際は、その必要性と影響を慎重に検討し、適切な情報発信が重要です。
日本では、他の先進国と比較してストライキの発生件数が極めて少ない状況が続いています。この背景には、日本特有の労使関係や文化的要因が影響しています。
日本の企業では労使協調路線が定着しており、労働組合と経営側が対立するよりも話し合いで解決を図る傾向が強いです。終身雇用制度や年功序列制度の名残から、労働者が会社への帰属意識を持ちやすく、過度な対立を避ける傾向があります。
1970年代以降、春闘の形骸化や労働組合の組織率低下により、ストライキの実施が困難になってきました。近年では非正規雇用の増加も、労働者の団結力低下に拍車をかけています。
結果として、2022年の労働争議件数は397件、そのうちストライキなどの争議行為を伴うものはわずか35件にとどまっています。この数字は、日本の労使関係の特徴を如実に表しているといえるでしょう。
厚生労働省「令和4年労働争議統計調査の概況 」2023.8
近年の日本では大規模なストライキは減少傾向にありますが、2024年3月に注目すべき事例がありました。全国の医療機関の労働組合が加盟する大規模な労働組合連合会が、全国一斉ストライキの実施した事例です。
このストライキは、医療従事者の賃上げを求めて行われ、全国140以上の組合が参加しました。首都圏のある病院では、看護師ら数十人が短時間のストライキを行い、「他の産業と同等の賃上げを」と訴えました。
医療現場では、低賃金による人材流出が問題となっており、このストライキは医療従事者の待遇改善を求める切実な声を反映したものといえます。ただし、患者への影響を最小限に抑えるため、必要最低限の職員を残すなどの対応がとられました。
このストライキは、医療従事者の労働条件改善の必要性を社会に広く訴える機会となっています。
ストライキは労働者の重要な権利ですが、実施にあたっては法的・倫理的な制約があります。以下の3点に特に注意が必要です。
それぞれ説明します。
ストライキは、労働組合の総意に基づいた実施が重要です。労働組合法では、ストライキなどの争議行為を行う場合、組合員の直接無記名投票または決議機関の決議が定められています。
この手続きを経ずにストライキを行うと、正当な争議行為とみなされず、法的保護を受けられない可能性があります。組合員の意思を無視したストライキは、組合内部の分裂を招く恐れも大きいです。
そのため、ストライキの実施前には、組合員全体の意見を十分に聴取し、民主的な手続きを経た決定が不可欠です。この過程を通じて、ストライキの目的や方法について組合員の理解と支持を得られます。
ストライキにおいて、暴力行為は厳しく禁止されています。これには物理的な暴力だけでなく、脅迫や威嚇なども含まれます。暴力行為を伴うストライキは、正当な争議行為とはみなされず、刑事罰の対象となる可能性も大きいです。
例えば、ストライキに参加しない労働者への嫌がらせや、会社の設備を故意に破壊するような行為は許されません。また、ピケッティング(職場封鎖)を行う際も、他の労働者の出入りの物理的な妨害は違法です。
ストライキは平和的に行われるべきであり、暴力行為は労働運動の正当性を損なうだけでなく、社会的支持も失います。労働組合は、ストライキ参加者に対して、平和的な行動を徹底するよう指導する必要があります。
ストライキは、労働条件の維持改善を目的とするものであり、純粋に政治的な目的は認められていません。政治ストライキは、労働組合法で保護される正当な争議行為とはみなされません。
例えば、特定の政党や政策を支持するためのストライキや、政府の外交政策に反対するためのストライキなどは、労働条件の改善とは直接関係がないため、違法となる可能性が高いです。
ただし、労働政策や労働法制の改正など、労働条件に直接影響を与える政治的問題については、一定の範囲内でストライキの実施が認められる場合もあります。しかし、その場合でも、純粋に労働条件の改善を目的としている状況を明確にする必要があります。
ストライキは企業にとって大きな損失となるため、未然に防ぐ姿勢が重要です。ここでは、ストライキを防ぐために企業が取るべき3つの対策を紹介します。
それぞれ説明します。
ストライキを防ぐ最も重要な対策は、社員の声に耳を傾ける姿勢です。定期的なアンケートや面談を実施し、労働条件や職場環境に関する不満や要望を把握が大切です。
労働組合との定期的な対話の機会も効果的でしょう。労使間のコミュニケーションを密にすると、問題が大きくなる前に解決できる可能性が高まります。
匿名で意見を提出できる仕組みを作ると、より率直な意見を集められます。社員の声を真摯に受け止め、可能な限り改善策を講じると、ストライキ防止につながります。
労働環境の改善は、ストライキ防止に大きな効果があります。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
これらの取り組みにより、社員の満足度が向上し、ストライキの発生リスクを低減できます。
公平で透明性の高い人事制度は、社員の不満を軽減し、ストライキを防ぐ重要な要素です。以下のような施策が効果的です。
上記の施策により、社員の不満や不信感を軽減し、ストライキのリスクを低下できます。
最後に、ストライキに関するよくある質問に回答します。
ストライキとボイコットは、どちらも労働者の権利を主張する手段ですが、その方法と目的に違いがあります。
ストライキは、労働者が集団で労務の提供を拒否する行為です。主に労働条件の改善や賃上げなどを目的とし、直接的に企業の生産活動に影響を与えます。
一方、ボイコットは特定の商品やサービスの購入・利用を拒否する行為です。労働者だけでなく、一般消費者も参加でき、企業に間接的な圧力をかけます。
ストライキが労働者と使用者の直接的な対立であるのに対し、ボイコットは消費者の力を利用した間接的な抗議手段といえます。
ストライキは原則として、一人では行えません。ストライキは労働組合などの団体が組織的に行う集団的な行為であり、個人で行う場合は単なる欠勤や職場放棄とみなされる可能性が高いです。
労働組合法では、ストライキなどの争議行為を行う場合、組合員の直接無記名投票または決議機関の決議によることが定められています。つまり、組織的な意思決定と行動が必要となります。
個人で労働条件に不満がある場合は、まず労働組合や上司、人事部門への相談が適切です。
日本では、一部の職種でストライキが法律で禁止されています。主に以下の職種が該当します。
これらの職種では、公共の安全や秩序の維持に直接関わる重要な役割を担っているため、ストライキが認められていません。ただし、労働条件の改善を求める権利自体は保障されており、別の形での交渉や要求が可能です。
ストライキは労働者の重要な権利ですが、企業にとっては大きな損失となります。適切な労務管理と公正な人事制度の構築が、ストライキ防止の鍵となります。労使間のコミュニケーションを密にし、従業員の声に耳を傾けることで、問題の早期発見と解決が可能になります。
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「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。
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