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近年、クリニック院長の高齢化が進み、医院の開設者または法人の代表者の平均年齢は62歳に達しています。後継者不在の問題も深刻で、医療業界では約68%のクリニックで後継者が決まっていない状況です。地域医療を支えてきたクリニックが廃院に追い込まれるケースも増加しており、2023年度には診療所の休廃業・解散件数が580件に上りました。一方で、開業を目指す若手医師にとって、ゼロからの開業は多額の初期投資とリスクを伴います。こうした課題を解決する手段として注目されているのが、クリニックの事業承継です。本記事では、事業承継の全体像から具体的な流れ、売り手・買い手双方のメリットとデメリット、さらにクリニックの価値を高めるポイントまで体系的に解説します。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次

クリニックの事業承継とは、既存のクリニックの事業を譲り受けることを指します。単なる不動産や医療機器の譲渡ではなく、来院している患者やそのカルテ、前クリニックから従業員、地域での信頼といった無形資産も含めた経営権の移転が行われます。
事業承継の形態には、親族への承継と第三者への譲渡の2つがあります。親族への承継は、院長の子どもや妻・兄弟などに家業として引き継ぐ方法です。一方、第三者への譲渡は、M&A仲介会社などを通じて広く後継者を探す方法となります。
日本医師会の調査によると、近年では第三者への譲渡をするケースが増加傾向にあります。特に後継者不在に悩む院長にとって、第三者への譲渡は有力な選択肢です。適切な後継者が見つかれば、地域医療の継続と譲渡益の確保を同時に実現できます。ただし、承継には法務・税務・財務など専門的な知識が必要となるため、早期からの準備と専門家への相談が欠かせません。

クリニックを譲渡する院長側には、複数のメリットがある一方で、慎重に検討すべきデメリットも存在します。譲渡を決断する前に、双方を十分に理解しておく必要があります。
譲渡によって得られる最大のメリットは、長年築いてきた事業価値を適正に評価され、その対価を老後資金として確保できる点です。また、経営に伴うさまざまなリスクから解放され、第二の人生を安心してスタートできます。さらに、廃院ではなく承継を選ぶことで、長年通院してくれた患者や共に働いてきたスタッフの生活を守ることができます。
一方、デメリットとしては、譲渡価格の決定や条件交渉の難しさが挙げられます。売り手と買い手の希望が一致しないケースも多く、交渉が長期化することもあります。また、譲渡益には所得税や住民税が課税されるため、税務上の負担も考慮しなければなりません。加えて、長年経営してきたクリニックから離れることへの心理的な喪失感を抱く院長も少なくありません。
これらのメリットとデメリットを比較検討し、自身の状況に照らして最適な判断を下すことが重要です。
クリニックの事業承継では、施設や設備だけでなく、患者基盤やブランド価値も評価対象となります。適正な価格で譲渡できれば、まとまった資金を得られます。これを老後の生活資金や新たな活動の原資として活用できる点は、譲渡を選択する大きな理由です。廃院を選んだ場合は資産価値が大幅に目減りするため、事業承継は経済的に合理的な選択といえます。
クリニック経営には、診療報酬改定への対応、スタッフ管理、設備投資、患者トラブルなど、多岐にわたるリスクが伴います。高齢になるほど、これらの負担は心身ともに重くなっていきます。事業承継によって経営権を譲渡すれば、こうしたリスクから完全に解放されます。健康面での不安がある場合や、別の活動に時間を使いたい場合には特に有効な選択です。
廃院を選択すると、長年通院してくれた患者は新たな医療機関を探さなければならず、特に高齢患者や慢性疾患患者にとっては大きな負担となります。
また、共に働いてきたスタッフも職を失います。事業承継を選べば、患者は継続して同じ場所で医療を受けられ、スタッフの雇用も維持されます。地域医療への貢献と社会的責任を果たせる点は、大きなメリットといえるでしょう。
事業承継における譲渡価格の算定には、明確な基準が存在しません。売り手側は長年の努力を評価してほしいと考える一方、買い手側は将来の収益性を重視します。この認識のズレが交渉を難航させる要因です。
また、診療方針の継続や患者への説明方法、スタッフの処遇など、価格以外の条件面でも調整が必要となり、交渉が長期化するケースも珍しくありません。
クリニックの譲渡によって得た利益には、所得税と住民税が課税されます。個人クリニックの場合、不動産は分離課税、医療機器や営業権は総合課税として扱われます。分離課税では譲渡資産の保有期間によって税率が異なり、長期譲渡所得でも約20%の税負担が発生します。
手元に残る金額は譲渡価格から大きく目減りするため、事前に税理士と相談し、節税対策を含めた資金計画を立てておく必要があります。
長年にわたって経営してきたクリニックは、院長にとって単なる職場ではなく、人生そのものです。患者との関係、スタッフとの絆、地域社会での役割など、多くの思い出と誇りが詰まっています。
経営権を手放すことで、これらすべてから離れなければならない喪失感は、想像以上に大きいものです。引退後の生活設計を事前に描いておくことが、心理的な準備として重要です。

クリニックを承継する医師側にも、新規開業と比較した明確なメリットがある一方で、承継特有のリスクやデメリットが存在します。承継を検討する際には、これらを総合的に判断することが求められます。
承継による開業の最大のメリットは、ゼロから立ち上げる場合と比べて初期投資を大幅に抑えられる点です。既存の患者基盤やスタッフ、設備をそのまま活用できるため、開業直後から安定した収益を見込めます。また、前院長が築いた地域での信頼とブランドを引き継げるため、集患活動の負担も軽減されます。
一方、デメリットとしては、譲渡価格や引継ぎ条件をめぐる交渉の難しさがあります。売り手側の希望と買い手側の予算が合致しないケースも多く、妥協点を見つけるまでに時間を要することがあります。
また、前院長の診療方針やスタッフの働き方など、既存の体制をそのまま引き継ぐことになるため、自分の理想とは異なる部分も受け入れなければなりません。さらに、事業承継には法務・税務の専門知識が必要となり、専門家への相談費用も発生します。
これらのメリットとデメリットを慎重に比較し、自身のキャリアプランに照らして最適な選択をすることが重要です。
新規開業では、土地・建物の取得、内装工事、医療機器の購入など、初期投資に数千万円から億単位の資金が必要です。さらに開業後は集患に時間がかかり、軌道に乗るまで赤字が続くリスクもあります。事業承継であれば初期投資を大幅に圧縮でき、既存患者がいるため開業初日から収益を確保できます。経営の不確実性を大きく低減できる点が魅力です。
承継するクリニックには、すでに患者データベース、診療記録システム、医療機器、内装設備などが整っています。スタッフも業務に習熟しており、受付から会計までの運営体制が確立されています。これらの経営資産をそのまま活用できるため、運営の立ち上げがスムーズです。前院長から診療ノウハウや地域特性の情報を引き継げる点も、大きなアドバンテージとなります。
長年営業してきたクリニックは、地域住民から信頼され、一定の患者基盤を持っています。この信頼とブランドを引き継げば、新規開業時に苦労する認知度向上や集患活動の負担が大幅に軽減されます。また、地域の医療機関との連携関係もすでに構築されているため、紹介患者の受け入れや他院への紹介もスムーズです。地域医療の継続という社会的意義も果たせます。
事業承継では、売り手と買い手の間で譲渡価格への認識が大きく異なることがあります。売り手は無形資産も含めた高い評価を期待する一方、買い手は将来のリスクを考慮して慎重になります。価格面だけでなく、診療方針の継続性、スタッフの処遇、患者への説明方法など、さまざまな条件面での調整も必要です。交渉が長期化すると、双方の負担が増大します。
承継したクリニックには、前院長の診療スタイルやスタッフの働き方が定着しています。これを急激に変更すると、患者離れやスタッフの退職を招くリスクがあります。一方、自分の理想とする医療を実現するためには、ある程度の変革が必要です。この両立は容易ではなく、承継後の経営戦略を慎重に練る必要があります。また、老朽化した設備の更新費用が予想外に発生することもあります。
事業承継には、契約書の作成、デューデリジェンス、許認可の承継手続きなど、複雑な法務対応が必要です。また、取得した事業に対する税務処理や、将来の事業税・消費税の取り扱いなど、税務面でも専門知識が求められます。これらを適切に処理するため、弁護士や税理士などの専門家に依頼する必要があり、相応の費用が発生します。準備不足は後々のトラブルにつながるため、専門家への投資は不可欠です。

クリニックの事業承継は、準備段階から最終的な引継ぎ完了まで、通常6か月から1年以上の期間を要します。各段階で適切な対応を行うことが、スムーズな承継の鍵となります。
まず準備段階では、承継の意思決定と専門家への相談から始まります。M&A仲介会社や税理士、弁護士などに早期に相談し、全体の進め方を確認することが重要です。次に、クリニックの企業価値を算定し、必要な資料を整備します。財務諸表、患者データ、スタッフ情報など、買い手候補が判断材料とする資料を準備します。
その後、仲介会社を通じて買い手候補を探索し、面談や条件交渉を進めます。双方の条件が概ね合意できれば、基本合意書を締結し、買い手側によるデューデリジェンスが実施されます。この段階で財務・法務・労務などの詳細なチェックが行われます。
最終的に条件が固まれば、最終契約を締結し、代金決済と経営権の移転を行うクロージングへと進みます。クロージング後も、一定期間は引継ぎサポートを行い、患者やスタッフへの説明、診療方針の引継ぎなどを丁寧に実施します。
各段階を確実に進めることで、トラブルを回避し、円滑な事業承継を実現できます。
事業承継を検討し始めたら、まずはM&A仲介会社や税理士に相談しましょう。承継のスケジュール、必要な準備、税務上の注意点などを専門家から助言を受けることで、全体像が明確になります。また、自院の強みや課題を整理し、承継に向けた改善点を洗い出します。早期の相談ほど選択肢が広がり、有利な条件での承継が可能となります。
専門家の協力を得て、クリニックの企業価値を算定します。過去数年分の財務諸表、患者数の推移、診療圏の分析、設備の状況などを基に評価を行います。同時に、買い手候補に提示する資料を作成します。経営状況が正確に伝わる資料を用意することで、交渉がスムーズに進みます。この段階での丁寧な準備が、適正な価格での譲渡につながります。
仲介会社を通じて、承継を希望する医師を探します。候補者が見つかれば、面談を行い、互いの意向や条件を確認します。診療方針、スタッフの処遇、患者への対応など、具体的な引継ぎ内容について話し合います。複数の候補者と並行して交渉することもあります。信頼関係を築きながら、双方が納得できる条件を見つけていくプロセスです。
交渉が進み、主要な条件について合意できれば、基本合意書を締結します。これは法的拘束力を持たない場合が多いですが、双方の誠実な交渉を確約するものです。その後、買い手側が専門家を起用してデューデリジェンスを実施します。財務、法務、労務、設備など、あらゆる面から詳細な調査が行われます。この結果によって、最終的な譲渡価格や条件が調整されます。
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件を確定して譲渡契約書を締結します。契約書には、譲渡価格、支払方法、引継ぎ期間、競業避止義務など、詳細な条件が記載されます。契約締結後、代金決済と同時に経営権の移転が行われます。これをクロージングと呼びます。その後、一定期間は前院長が新院長をサポートし、患者やスタッフへの引継ぎを丁寧に行います。

事業承継を有利に進めるには、クリニックの企業価値を高めておくことが重要です。価値が高いほど、より多くの買い手候補が現れ、好条件での譲渡が可能となります。
企業価値を高めるためには、まず経営データを整理し、財務状況や患者数の推移を明確に示せるようにします。透明性の高い経営情報は、買い手の信頼を得る基盤となります。次に、診療体制を安定させ、院長不在でも運営できる仕組みを構築します。特定の医師に依存しない体制は、承継後のリスクを低減します。
また、患者基盤の維持・拡大も重要です。継続的な来院患者が多いほど、安定した収益が見込めるため、評価が高まります。スタッフの教育とマネジメントを強化し、優秀な人材が定着している状態を作ることも価値向上につながります。さらに、老朽化した設備の更新や電子カルテの導入など、最新のシステムを整備しておくことで、承継後の投資負担を軽減できます。
これらの改善には時間がかかるため、事業承継を検討し始めたら、早期に着手することをおすすめします。
財務諸表、患者数の推移、診療科目別の収益、スタッフの給与体系など、経営に関するデータを整理しましょう。数値で示せる情報が多いほど、買い手は判断しやすくなります。また、顧問税理士と協力して、税務申告が適正に行われていることを確認します。透明性の高い経営情報は、信頼の証となり、交渉を有利に進める材料です。
院長一人に依存した診療体制では、承継後のリスクが高いと判断されます。複数の医師による診療体制や、看護師・事務スタッフの役割分担を明確化し、組織として機能する仕組みを作りましょう。マニュアルの整備や定期的なミーティングの実施など、標準化された運営体制があれば、買い手は安心して承継できます。
定期的に通院する患者が多いほど、安定した収益が見込めます。慢性疾患の管理や予防医療の充実など、継続来院を促す取り組みを強化しましょう。また、ホームページの充実やSNSでの情報発信など、新規患者の獲得にも力を入れます。患者数の増加傾向が示せれば、将来性が評価され、譲渡価格の向上につながります。
優秀なスタッフが定着しているクリニックは、承継後の運営がスムーズです。定期的な研修の実施、明確な評価制度の導入、働きやすい職場環境の整備など、スタッフが長く働きたいと思える体制を作りましょう。離職率が低く、スタッフの満足度が高い状態は、買い手にとって大きな魅力となり、企業価値を高めます。
老朽化した医療機器や古い電子カルテシステムは、承継後に更新費用が発生するため、マイナス評価となります。可能な範囲で設備の更新や、最新の予約システム、電子カルテの導入を進めましょう。初期投資は必要ですが、承継時の評価額向上と、買い手の負担軽減につながり、結果的にスムーズな承継を実現できます。

クリニックの事業承継を成功させるには、信頼できるM&A仲介会社の選択が不可欠です。仲介会社は買い手候補の探索から交渉、契約締結までを支援する重要なパートナーとなります。
仲介会社を選ぶ際には、まず医療・クリニック分野での実績を確認しましょう。一般企業のM&Aとクリニック承継では、必要な知識や進め方が大きく異なります。医療業界特有の法規制や診療報酬制度、地域医療の特性を理解している会社を選ぶことが重要です。
次に、担当者の専門知識と対応力を見極めます。初回相談時の説明の丁寧さや、質問への回答の的確さから、担当者の能力を判断できます。また、報酬体系と費用の透明性も重要なチェックポイントです。着手金、中間金、成功報酬の金額と支払時期を明確に確認しましょう。
最後に、複数の仲介会社に相談し、比較検討することをおすすめします。各社の提案内容やサポート体制を比べることで、自分に合った会社を見つけられます。
クリニック承継の実績が豊富な仲介会社は、医療業界特有の課題やノウハウを熟知しています。ホームページで過去の成約事例や取扱件数を確認しましょう。診療科目や地域、クリニック規模など、自院に近い事例があれば、より適切なサポートが期待できます。実績の少ない会社では、想定外のトラブルが発生するリスクがあります。
初回相談時に、担当者が医療法や診療報酬制度について的確に説明できるか確認しましょう。また、こちらの状況を丁寧にヒアリングし、具体的な提案をしてくれるかも重要です。レスポンスの速さや、疑問に対する回答の明確さも、今後の信頼関係を築けるかの判断材料となります。担当者との相性は、長期にわたる承継プロセスを円滑に進める鍵です。
仲介会社の報酬体系は、着手金、中間金、成功報酬の組み合わせが一般的です。各段階での費用と、成功報酬の算定方法を明確に確認しましょう。不明瞭な費用体系や、後から追加費用が発生する可能性がある会社は避けるべきです。契約前に、総額の目安を提示してもらい、納得した上で依頼しましょう。
最低でも2〜3社に相談し、提案内容やサポート体制を比較しましょう。各社の強みや得意分野は異なるため、自分のニーズに合った会社を選ぶことが重要です。また、担当者との相性も大切です。長期にわたるパートナーシップとなるため、信頼でき、気軽に相談できる担当者がいる会社を選びましょう。焦らず慎重に検討することが、成功への第一歩です。
クリニックの事業承継は、地域医療を守りながら、売り手と買い手の双方にメリットをもたらす有効な選択肢です。売り手は譲渡益の確保と経営リスクからの解放を実現でき、買い手は開業リスクを抑えて安定したスタートを切れます。ただし、承継には専門的な知識と丁寧な準備が必要です。早期から経営データの整理や診療体制の安定化に取り組み、クリニックの価値を高めておくことが重要です。また、信頼できるM&A仲介会社を選び、専門家のサポートを受けながら進めることで、スムーズな承継を実現できます。事業承継を検討されている方は、まずは専門家への相談から始めてみてはいかがでしょうか。
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