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近年、顧客からの理不尽な要求や暴言といった「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が深刻な社会問題となっています。本記事では、カスハラの定義や正当なクレームとの違い、具体的な事例を解説します。さらに、企業が取るべき対策や従業員が身を守るための実践的な対処法まで、網羅的にご紹介します。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次

近年、顧客や取引先から受ける理不尽な要求や嫌がらせ行為、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が深刻な社会問題となっています。現在、カスハラを直接定義する法律はありませんが、厚生労働省は「要求内容の妥当性に照らし、要求を実現する手段・態様が社会通念上不相当で、労働者の就業環境が害されるもの」と示しています。
SNSの普及で顧客の発言力が増したことなどを背景に問題が顕在化し、従業員の離職や企業の生産性低下、ブランドイメージの悪化など、深刻な影響を及ぼすケースが増えています。本章では、カスハラの基本的な定義から、社会問題化した背景、企業や従業員に与える具体的な影響までを解説します。
現在、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントと異なり、カスタマーハラスメント(カスハラ)を直接定義した法律は存在しません。しかし、厚生労働省が公表した「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、その定義が示されています。
具体的には、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とされています。この定義は、要求内容の妥当性だけでなく、その伝え方や態度が社会的に許容される範囲を超えているかどうかを重視している点が特徴です。
カスハラが近年社会問題として注目されるようになった背景には、複数の要因が考えられます。その一つが、SNSの普及です。SNSを通じて誰もが企業や店舗を容易に批評できるようになった結果、顧客側の発言力が増大し、企業側が過剰な要求に屈しやすい構図が生まれやすくなりました。
また、社会全体でハラスメントに対する問題意識が高まる中で、これまで見過ごされがちだった顧客からの迷惑行為も、新たなハラスメントの類型として認識されるようになったことも大きな要因といえるでしょう。このような流れを受け、東京都では「カスタマー・ハラスメント防止条例」が制定されるなど、行政レベルでの対策も進んでいます。
カスハラは、対応した従業員個人だけでなく、企業全体や他の顧客にも深刻な悪影響を及ぼします。従業員は、理不尽な要求や暴言によって精神的ストレスを抱え、モチベーションの低下や業務効率の悪化を招きます。これが深刻化すると、燃え尽き症候群(バーンアウト)や精神疾患を発症し、休職や離職に至るケースも少なくありません。
企業にとっては、従業員の離職による人材確保コストの増大や、カスハラ対応にリソースを割かれることによる生産性の低下につながります。さらに、他の顧客がカスハラの現場を目撃すれば、不快感から店舗イメージが悪化し、顧客満足度の低下や信頼の喪失を招くリスクも存在します。

企業にとって、顧客からの意見はサービス改善につながる貴重な財産ですが、そのすべてを受け入れるべきとは限りません。従業員を守り、健全な企業活動を維持するためには、企業の成長に貢献する「正当なクレーム」と、断固として拒絶すべき「カスハラ」を明確に見分けることが不可欠です。
その境界線はどこにあるのでしょうか。判断の鍵となるのは、「要求内容に妥当性があるか」と、「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か」という2つの基準です。本章では、この2つの判断基準を基に、具体的な線引きのポイントを詳しく解説していきます。
顧客からの申し出が正当なクレームか、あるいはカスハラかを判断する最初の基準は、要求内容に妥当性があるかどうかです。企業はまず、顧客の主張する内容について事実関係を確認し、自社に過失がなかったかを検討する必要があります。例えば、提供した商品に不備があった、サービスの案内に誤りがあったなど、企業側に何らかの落ち度があり、顧客の主張に合理的な根拠が認められる場合は、正当なクレームとして真摯に対応すべきです。
一方で、事実無根の言いがかりをつけたり、法的な根拠なく過剰な補償を求めたりするなど、要求そのものに妥当性がない場合は、カスハラとして毅然とした対応が求められます。
たとえ顧客の要求内容に一定の妥当性が認められる場合でも、その要求を実現するための手段や態度が社会通念上、不相当であればカスハラに該当する可能性があります。クレームはあくまでサービスの改善や問題解決を目的とする合理的な意見伝達ですが、カスハラは従業員や企業に不必要な負担を与える行為そのものが目的化している場合があります。具体的には、長時間にわたる執拗な説教、従業員の人格を否定するような暴言、机を叩くなどの威嚇行為、暴力、土下座の要求などが挙げられます。
これらの行為は、クレームの内容が正当なものであったとしても、その手段が社会的に許容される範囲を逸脱しており、カスハラと判断されるべきものです。
一口にカスハラと言っても、その手口や態様は多岐にわたります。どのような行為がカスハラに該当するのかを具体的に知ることは、適切な対策を講じるための第一歩です。例えば、従業員の人格を否定する「暴言」や「誹謗中傷」、恐怖心を与える「威嚇・脅迫」、長時間にわたり従業員を拘束する行為などが挙げられます。
さらには、義務のない「土下座の要求」や法外な「金銭の要求」、立場を利用した「セクシュアルハラスメント」、SNSでの誹謗中傷なども典型的な事例です。本章では、現場で起こりうるこれらのカスハラ行為を具体例と共に紹介し、その問題点を明らかにします。
従業員の人格を否定するような暴言や侮辱は、カスハラの典型例です。具体的には、「ババア!」「役立たず!」といった言葉で罵倒したり、能力や人格について不適切な表現で繰り返し攻撃したりする行為が該当します。また、公然の場で「この会社の対応は最悪だ」などと事実と異なる情報を流布し、企業や従業員の名誉を傷つける発言も問題となります。
これらの行為は、対応する従業員の精神を深く傷つけ、職場全体の雰囲気を悪化させる深刻なハラスメントです。企業としては、このような言動に対しては、たとえ自社に非があったとしても、明確に拒絶する姿勢を示す必要があります。

相手を怖がらせて要求を無理やり通そうとする威嚇や脅迫も、悪質なカスハラ行為です。例えば、大声で怒鳴りつけたり、机や壁を叩いたり蹴ったりして恐怖心を与える行為が挙げられます。さらに、「名前は覚えたからな」「お前の店の接客を動画にとってSNSで拡散するぞ」といった発言は、相手の身体や名誉に害を加えることを示唆する脅迫とみなされる可能性があります。
また、「組の者には、もう話をつけておいたから」のように、反社会的勢力との関係をほのめかして従業員を畏怖させるケースも存在します。こうした行為は、従業員の安全を脅かすだけでなく、刑法の脅迫罪に該当する可能性もある犯罪行為です。
問題解決の範疇を明らかに超えた、執拗で継続的な要求や長時間の拘束もカスハラの一種です。「要求を受け入れるまで帰らないぞ」などと言って店舗やオフィスに居座り続けたり、何時間にもわたって電話を切りF39させなかったりする行為がこれに該当します。
このような行為は、対応する従業員の時間を不当に奪い、他の顧客へのサービス提供や本来の業務を妨害します。また、身体的に解放されない状況は従業員に大きな精神的疲労を与え、正常な判断能力を失わせる原因にもなりかねません。営業時間を過ぎても退去しない場合は、刑法の不退去罪が成立することもあります。
謝罪の意を示している従業員に対し、その場で土下座を強要する行為は、個人の尊厳を著しく踏みにじる悪質なカスハラです。例えば、「ほら、今すぐここで土下座しろよ!」といった直接的な要求や、「誠意を見せろ」という言葉で暗に土下座を強要するケースなどが考えられます。
このような要求は、社会通念上、謝罪の形式として明らかに度を超えており、従業員に義務のないことを行わせる行為です。たとえ企業側に何らかの非があったとしても、土下座の要求は決して許されるものではありません。このような行為は刑法の強要罪に該当する可能性があり、企業は従業員を守るために断固として拒否する必要があります。
企業の過失に対して、社会通念を逸脱した金銭や物品、サービスを要求する行為もカスハラに分類されます。例えば、わずかな不手際に対して「慰謝料、百万は払ってもらうよ」と法外な金銭を要求したり、「今回のことは公にしたくないよね?『それなりの誠意』を見せろ」と金品を脅し取ろうとしたりするケースです。
また、顧客自身が商品をわざと壊した上で「商品が壊れていた」とクレームをつけ、新品との交換や返金を迫る詐欺的な行為も存在します。こうした金銭や過剰な見返りを要求する行為は、恐喝罪や詐欺罪といった犯罪に該当する可能性があり、企業は安易に要求に応じてはなりません。
顧客という立場を利用して、従業員に対して不適切な性的言動を行うことも、カスハラの一形態であるセクシュアルハラスメントに該当します。具体的には、必要のない身体的接触、容姿やプライベートに関する不快な発言、執拗な連絡先の要求、性的な要求などが含まれます。
これらの行為は、性別に関わらず、従業員の尊厳を傷つけ、精神的に深刻なダメージを与えます。特に、顧客からの行為であるため従業員が拒絶しにくいという側面があり、企業側が積極的に介入し、従業員を守るための対策を講じることが不可欠です。相談窓口では、被害者の性別に配慮して同性の相談員が対応するなど、きめ細やかなケアが求められます。

スマートフォンの普及に伴い、SNSやインターネット上で企業や従業員を誹謗中傷する形のカスハラが増加しています。店舗での対応に不満を持った顧客が、その場で「お前の店の接客、動画にとってSNSで拡散するぞ!」と脅迫したり、事実無根の内容や従業員の個人情報をインターネット上に投稿したりするケースがこれにあたります。
一度ネット上で拡散された情報は完全に削除することが難しく、企業の評判(レピュテーション)に長期的なダメージを与える可能性があります。また、従業員が個人攻撃の対象となり、私生活にまで影響が及ぶ危険性もはらんでいます。このような行為は、名誉毀損罪に問われる可能性のある悪質なものです。
もし実際にカスハラの現場に直面してしまった場合、従業員個人の判断で対応するのは非常に危険です。パニックにならず、自身の安全を確保しながら事態の悪化を防ぐためには、あらかじめ定められた手順に沿って冷静に対処することが求められます。まずは通常のクレームと同様に真摯に話を聴き、決して一人では対応せず、記録係を置くなど複数人で役割分担をすることが重要です。
また、会話の録音や、対応の打ち切り、上司や専門部署へのエスカレーションといった具体的な行動も必要となります。本章では、現場で即座に役立つ実践的な対処法を、具体的なステップに沿って解説します。
顧客から厳しい申し出があった際に、最初から「カスハラだ」と決めつけて対応することは事態を悪化させる危険があります。まずは通常のクレーム対応と同様に、冷静かつ誠意ある態度で接することが基本です。具体的には、まず相手の心情を理解しようと努め、不便をかけたことに対してお詫びの言葉を伝えます。その上で、何が問題になっているのか、顧客の主張を傾聴し、事実関係を正確に確認することが重要となります。
感情的にならずに基本手順を踏むことで、顧客が「クレーマー扱いされた」と感じるのを防ぎ、不要なトラブルの拡大を回避できます。冷静な初期対応が、その後の円滑な問題解決への第一歩となります。
カスハラ被害に遭った際、従業員が一人で対応することは精神的な負担が大きく、非常に危険です。そのため、異変を感じたら速やかに上司や他の従業員に助けを求め、必ず複数人で対応する体制を整えるべきです。複数人で対応することにより、主担当者の心理的負担を軽減できるだけでなく、客観的な視点を保ちやすくなります。
役割分担を明確にすることも効果的で、一人が顧客との対話に専念し、もう一人が会話の内容や顧客の言動、時間を記録する「記録役」を担うといった方法が考えられます。組織として対応しているという姿勢を示すことは、相手の過激な言動を抑制する効果も期待できるでしょう。
カスハラ顧客とのやり取りは、後々の事実確認や法的措置を検討する際の重要な証拠となるため、正確に記録することが不可欠です。会話を録音・録画することは、そのための最も有効な手段の一つです。
記録を取る際は、「お客さまのご意見を間違って認識することがないよう、録音させていただけますか?」のように、相手を刺激しないよう丁寧に許可を求めるとよいでしょう。記録を残す姿勢を見せること自体が、相手の言動を冷静にさせる効果を持つ場合もあります。もし相手が記録を拒否した場合は、「交渉の経緯を正確に記録するためのものですが、記録に残せないご要望ですか?」と冷静に問い返すことも有効な対応策です。

暴言や威嚇、長時間の拘束など、迷惑行為がエスカレートし、これ以上話し合いでの解決が困難だと判断した場合は、勇気を持って対応を打ち切ることが重要です。従業員や他の顧客の安全を確保するため、きっぱりとした態度で「これ以上そのようなことをされるなら、警察を呼びます」「私どもとしては、断じて応じることはいたしません」といったフレーズを用いて、迷惑行為を許容しない姿勢を明確に伝えましょう。
また、店舗やオフィスに居座り続ける顧客に対しては、退去を求めることができます。それでも退去に応じない場合は「不退去罪」にあたる可能性があるため、ためらわずに警察へ通報することが適切な対応です。
現場の従業員一人でカスハラへの対応を完結させようとせず、判断に迷った場合や危険を感じた際には、速やかに上司や責任者に報告し、対応を引き継ぐことが重要です。企業は、どのようなケースで上司や本部に連絡すべきかを定めたエスカレーションフローを事前に整備し、全従業員に周知しておく必要があります。
現場の担当者が安易に謝罪文を書いたり、金銭の支払いを約束したりすると、問題がさらに複雑化する恐れがあります。特に法的な対応が必要となる可能性がある場合は、法務担当部署や顧問弁護士といった専門家の判断を仰ぐべきです。組織全体で連携し、一貫した対応をとることが、カスハラ問題の適切な解決につながります。
カスハラは、被害に遭った従業員個人の問題ではなく、企業が組織全体で取り組むべき重要な経営課題です。企業には、従業員の生命や身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する「安全配慮義務」があり、カスハラから従業員を守るための体制を整備する責任を負っています。具体的な対策としては、カスハラを許さないという方針を明確にし、対応マニュアルの策定や従業員研修を徹底することが基本となります。
さらに、社内相談窓口の設置や被害従業員のメンタルヘルスケア、弁護士や警察との連携体制構築も不可欠です。本章では、企業が講じるべきこれらの具体的な対策を詳しく解説します。
企業がカスハラ対策を進める上でまず行うべきは、組織としてカスハラを容認しないという明確な方針を定め、それを社内外に示すことです。社内に対しては、どのような行為がカスハラに該当するのか、そしてそのような行為には毅然と対応するという共通認識を醸成します。これにより、従業員は安心して業務に取り組むことができます。
社外、つまり顧客に対しては、公式ウェブサイトや店舗内の掲示物などを通じて、従業員の人権を尊重する旨のポリシーを明示することが有効です。このような方針をあらかじめ周知しておくことで、理不尽な要求に対する抑止力となるだけでなく、万が一トラブルが発生した際に、企業の対応の正当性を主張しやすくなります。
いつ発生するかわからないカスハラに対し、全ての従業員が適切に対応できるよう、事前の準備が不可欠です。具体的な対応手順を定めたマニュアルを策定し、組織全体で共有することが非常に重要となります。マニュアルには、現場での初期対応の手順、責任者や本部への連絡フロー、記録の取り方、判断が難しいケースの基準などを盛り込みましょう。
さらに、マニュアルの内容を全従業員が実践できるよう、定期的な研修を実施することが求められます。研修では、カスハラの具体例を学ぶケーススタディや、顧客役と従業員役に分かれて対応を練習するロールプレイングなどを取り入れると、より実践的なスキルが身につきます。

カスハラを経験した従業員が一人で問題を抱え込まないように、安心して相談できる窓口を社内に設置することが重要です。この窓口は、被害の事実を報告するだけでなく、対応に悩んだ際にアドバイスを求めたり、精神的なサポートを受けたりする役割を担います。相談を受けた担当者は、内容に応じて産業医や臨床心理士などの専門家と連携し、従業員の心のケアにあたることが望ましいです。
また、顧客からセクハラを受けた従業員には同性の相談員が対応するなど、被害者の心情に配慮した運用を心がけることも大切になります。相談しやすい体制を整えることは、問題の早期発見と従業員の精神的負担の軽減に直結します。
カスハラは、対応した従業員の心に大きな傷を残す可能性があります。企業は、労働契約法に基づく安全配慮義務の観点からも、従業員のメンタルヘルスを守るための体制を整備する責任があります。具体的な対策としては、被害を受けた従業員が専門家によるカウンセリングを受けられる制度を導入したり、ストレスマネジメントに関する研修を実施したりすることが挙げられます。
また、上司や同僚が日頃から従業員の様子に気を配り、異変があればすぐに声をかけられるような職場環境づくりも重要です。従業員が精神的なダメージから回復し、安心して働き続けられるよう、組織全体でサポートする仕組みを構築することが求められます。
悪質なカスハラ行為に対しては、社内での対応に限界があります。そのため、日頃から弁護士や警察といった外部の専門機関と連携できる体制を整えておくことが、従業員と企業を守る上で不可欠です。「自分たちだけで解決しなければ」と抱え込まず、脅迫や暴力、業務妨害など犯罪行為に該当する可能性がある場合は、ためらわずに警察に相談しましょう。器物破損などがあった場合は、証拠となる写真などを準備しておくとスムーズです。
また、顧問弁護士に相談できる体制があれば、法的な観点から適切な対応方針を決定したり、「弁護士を通じて相談させていただきます」と相手に伝えたりすることで、事態の鎮静化を図れる可能性もあります。

度を超えた悪質なカスハラ行為は、単なる迷惑行為では済まされず、刑法上の犯罪に問われる可能性があります。どのような行為が犯罪となり得るのかを従業員が知っておくことは、毅然とした対応をとるための精神的な「後ろ盾」となります。
例えば、大声を出して業務を妨げる行為は「威力業務妨害罪」、土下座を強要すれば「強要罪」、金品を脅し取ろうとすれば「恐喝罪」に該当する可能性があります。また、帰るように伝えても居座り続ける行為は「不退去罪」にあたります。本章では、こうしたカスハラ行為に適用されうる法律について、具体的な罪名と成立しうる状況を分かりやすく解説します。
威力業務妨害罪(刑法234条)は、威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。カスハラの文脈における「威力」とは、大声で怒鳴り続ける、机を叩いたり蹴ったりする、暴力を振るうといった、相手を威圧し、恐怖させるような行為を指します。
これらの行為によって、店舗の正常な営業が妨げられたり、他の従業員が恐怖で業務に集中できなくなったりした場合に、この罪が適用される可能性があります。罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。従業員や他の顧客がいる前でこのような行為に及ぶことは、企業の業務を直接的に妨害する悪質な行為とみなされます。
偽計業務妨害罪(刑法233条)は、人を欺いたり、誘惑したり、あるいは人の不知や錯誤を利用したりして業務を妨害する犯罪です。カスハラの事例では、顧客が自ら商品を破損させたにもかかわらず、「最初から壊れていた」と嘘のクレームを入れて返品や交換を要求するようなケースが考えられます。
このような虚偽の申し立てに対応するために、企業は本来不要な調査や手続きに時間や人員を割かざるを得なくなり、結果として正常な業務が妨害されることになります。この罪は、威力業務妨害罪と同様に、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。暴力的な行為だけでなく、狡猾な手段による業務妨害も犯罪となり得ます。
脅迫罪(刑法222条)は、相手本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合に成立します。「担当者の名前は把握した。組の者には話をつけてある」「SNSで悪い評判を拡散してやる」といった発言は、相手に恐怖心を生じさせるものであり、脅迫罪に問われる可能性があります。
この罪が成立するためには、実際に危害を加える意思は不要で、相手が畏怖するような内容を伝えるだけで十分です。たとえ金品の要求がなくても、このような言動自体が犯罪となり、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。
強要罪(刑法223条)は、脅迫や暴力を用いて、人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりした場合に成立します。カスハラの現場で頻繁に見られる土下座の要求は、この罪の典型例です。「今すぐここで土下座しろ」と怒鳴りつけて無理やり土下座をさせたり、「謝罪文を書け。他の客にも聞こえるように読め」と義務のない文書の作成や朗読を強いたりする行為が該当します。
企業側に何らかの落ち度があったとしても、土下座や過剰な謝罪表明は法律上の義務ではなく、それを強要することは許されません。この罪には3年以下の懲役という比較的重い罰則が定められています。
不退去罪(刑法130条)は、正当な理由なく他人の住居や建造物などから退去するように要求されたにもかかわらず、その場に居座り続けた場合に成立する犯罪です。「要求を飲むまでここを動かない」「責任者を呼ぶまで帰らない」などと主張して、営業時間後も店舗やオフィスに居座り続ける行為がこれに該当します。従業員や管理者から明確に「お帰りください」と退去を求められた後もその場にとどまることで、この罪が成立します。
「客に向かって帰れとは何事だ」という反論は、正当な理由にはなりません。罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金となっています。
カスタマーハラスメントは、個人の問題ではなく企業全体で取り組むべき経営課題です。従業員が安心して働ける環境を整えるためには、マニュアルの整備や相談体制の構築といった事前の対策が欠かせません。本記事で解説したポイントを参考に、組織としてカスハラに毅然と対応できる体制づくりを進めていきましょう。
そうした体制構築にリソースを集中させるためにも、ノンコア業務のアウトソーシングは有効な選択肢です。DYMの事務代行事業では、煩雑な事務作業を専門スタッフが代行し、貴社が本来注力すべき業務に集中できるよう支援いたします。ぜひ一度ご相談ください。
「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。