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企業経営の選択肢として、MBO(マネジメント・バイアウト)という手法が注目を集めています。経営陣が自ら株式を取得して経営権を握るこの手法は、上場企業の非公開化や事業承継の場面で活用されるケースが増えています。
しかし、MBOという言葉を耳にしても、具体的にどのような仕組みなのか、TOBや自社株買いとどう違うのか、実施するメリットやリスクは何なのか、詳しく理解している方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、MBOの基本的な仕組みから、類似用語との違い、実施のメリット・デメリット、具体的な流れ、成功のポイント、そして近年の実施事例までを網羅的に解説します。MBOについて正しく理解し、自社の経営戦略に活かすための情報をお届けします。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次

MBOを理解するには、まずその基本的な定義や仕組みを把握することが重要です。この章では、MBOとは何か、どのような目的で実施されるのか、そしてビジネス用語として混同されやすい「目標管理制度」との違いについて解説していきます。
MBOとは、企業の経営陣が金融機関や投資ファンドなどから資金を調達し、既存の株主から自社の株式を買い取ることで経営権を取得する手法を指します。英語では「Management Buyout」と表記され、直訳すると「経営陣による買収」となります。
この手法の最大の特徴は、買収の主体が外部の第三者ではなく、企業内部の経営陣であるという点にあります。経営陣自身が株主となることで、短期的な株価変動や外部株主の意向に左右されることなく、自らが描く長期的なビジョンに基づいた経営を実現できるようになります。
MBOは上場企業だけでなく非上場企業でも実施可能ですが、特に上場企業が非公開化を目指す際に用いられることが多い傾向にあります。資金調達の規模が大きくなるため、通常は特別目的会社(SPC)を設立し、そこを通じて金融機関からの借入や投資ファンドからの出資を受けるスキームが採用されます。
このように、MBOは経営陣が企業の将来に強いコミットメントを示し、自らの手で経営権を掌握する戦略的な選択肢となっています。
上場企業がMBOを実施する場合、多くのケースで株式の非公開化(上場廃止)が伴います。これは、経営の自由度を最大限に高めることを目的としています。
上場企業は株主に対する説明責任があり、四半期ごとの業績報告やIR活動、株主総会の開催など、さまざまな開示義務と維持コストが発生します。また、多数の株主が存在することで、短期的な利益を重視する圧力にさらされやすく、中長期的な視点での大胆な経営判断が難しくなるという側面があります。
MBOによって非公開化することで、これらの制約から解放されます。経営陣は外部株主の短期的な要求に応える必要がなくなり、自社のビジョンに基づいた戦略を自由に実行できるようになります。例えば、将来の成長に向けた大規模な設備投資や、一時的に業績が悪化するような構造改革も、迅速に意思決定し実行することが可能です。
さらに、上場維持にかかるコスト(監査費用、証券代行費用、IR費用など)を削減できるため、その分の資金を本業への投資に振り向けることもできます。このように、非公開化は経営の機動性と自由度を大幅に向上させる効果をもたらします。
ビジネスの現場では「MBO」という略語が2つの異なる意味で使われることがあり、混同に注意が必要です。
本記事で解説している「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」は、経営陣による自社株式の買収を指す企業戦略上の手法です。一方、同じ「MBO」という略語は「Management by Objectives(目標管理制度)」を意味することもあります。
目標管理制度としてのMBOは、1954年に経営学者ピーター・ドラッカーが提唱した人材マネジメント手法です。組織全体の目標と個人の目標を整合させ、従業員一人ひとりが自律的に目標達成に向けて行動する仕組みを指します。企業の生産性向上やパフォーマンス評価に活用される経営管理の一手法であり、企業の所有権や経営権の移転とは全く関係がありません。
このように、同じ「MBO」でも文脈によって意味が大きく異なります。本記事では一貫して「マネジメント・バイアウト」としてのMBOを扱っていますが、ビジネスの現場で「MBO」という言葉を聞いた際には、どちらの意味で使われているのかを確認することが大切です。

MBOを正しく理解するには、類似する用語との違いを明確にすることが重要です。この章では、M&A、TOB、自社株買い、EBO、MBI、LBOといった関連用語とMBOの違いについて、それぞれ詳しく解説していきます。
MBOとM&Aの最大の違いは、買収を行う主体が誰であるかという点にあります。M&A(Mergers and Acquisitions)は「合併と買収」を意味する包括的な用語で、企業同士が統合したり、ある企業が他の企業を買収したりする取引全般を指します。一般的なM&Aでは、買い手は外部の第三者企業や投資家となります。買収後は新たな経営陣が参画し、経営方針や企業文化が変化することが少なくありません。
これに対してMBOは、買い手が企業内部の現経営陣である点が特徴です。既存の経営陣がそのまま経営を継続するため、事業運営のノウハウや企業文化、取引先との関係性などを維持しやすいメリットがあります。
ただし、MBOも広義にはM&Aの一形態として分類されます。企業の所有権が移転し経営権が変動するという点では共通しているためです。したがって、「M&Aの手法の一つとしてMBOがある」と理解するのが正確でしょう。
外部の第三者による買収を選ぶか、内部の経営陣による買収を選ぶかは、企業の状況や目的によって異なります。事業の継続性を重視するならMBO、新たな経営資源やシナジー効果を求めるなら第三者へのM&Aといった判断基準が考えられます。
MBOとTOBはしばしば混同されますが、両者は異なる概念です。違いを理解するには、何に着目した用語かを区別することが鍵となります。
TOB(Takeover Bid)は「株式公開買付」と訳され、上場企業の株式を市場外で一定のルールに従って買い付ける手法を指します。買付期間、価格、株式数などを事前に公告し、不特定多数の株主から直接株式を取得する方法です。TOBは買収の手法・手段に着目した用語であり、買い手が誰かは問いません。外部の第三者が実施することもあれば、経営陣が実施することもあります。
一方、MBOは買収の主体(経営陣)に着目した用語です。経営陣が株式を取得して経営権を握ることを指し、その際の手法は問いません。
実際には、上場企業がMBOを実施する際、TOBという手法を用いるケースが非常に多いという関係にあります。つまり、「経営陣がTOBを実施してMBOを達成する」という形です。この場合、TOBはMBOを実現するための具体的な手段として機能します。
なお、TOBには対象企業の経営陣の同意を得て行う「友好的TOB」と、同意なく行う「敵対的TOB」がありますが、MBOの文脈で用いられるTOBは当然ながら経営陣主導の友好的TOBとなります。
MBOと自社株買いは、どちらも自社の株式を取得する行為という点で共通していますが、目的と経営権への影響が大きく異なります。
自社株買いとは、企業が市場から自社の株式を買い戻す行為で、主な目的は株価の安定化、株主への利益還元、資本効率の向上などです。自社株買いによって発行済株式数が減少するため、1株あたりの利益(EPS)が向上し、株主価値が高まる効果が期待されます。ただし、自社株買いでは経営権の完全な掌握を目指すわけではなく、上場を維持したまま実施されることが一般的です。
一方、MBOは経営陣がすべての株式を取得し、経営権を完全に掌握することを目的としています。多くの場合、非公開化を伴い、外部株主が存在しない状態を目指します。経営陣が株主となることで、短期的な株価変動に左右されない自由な経営が可能になります。
つまり、自社株買いは株主還元や資本効率向上のための部分的な株式取得であり、MBOは経営権の完全な移転を伴う包括的な株式取得です。前者は上場を維持しながら株主価値を高める手段、後者は非公開化によって経営の独立性を確保する手段と捉えることができます。
MBOとEBO(Employee Buyout)は、どちらも企業内部の人間が買収を行うという点で似ていますが、誰が主体となって買収するかという点で明確に異なります。
MBOは経営陣(マネジメント層)が主体となって株式を買い取り、経営権を取得する手法です。現在の経営陣がそのまま経営を継続するため、経営方針や企業文化の連続性が保たれやすいという特徴があります。
一方、EBOは従業員(エンプロイー)が主体となって株式を買い取る手法です。経営陣ではなく一般従業員が中心となって買収を行うため、経営陣の交代が起こる可能性が高くなります。従業員が自らの雇用を守るため、あるいは企業の新たな方向性を模索するために実施されることが多く、従業員の意欲向上や会社へのコミットメント強化につながります。
日本では2020年にユニゾホールディングスが上場企業として初めてEBOを実施し、注目を集めました。
EBOは従業員主導であるため、資金調達の面で課題が大きく、実現には時間がかかるケースが少なくありません。これに対してMBOは、経営陣が既に経営資源へのアクセスを持っているため、比較的スムーズに進めやすいという利点があります。
どちらを選択するかは、後継者の有無や企業の状況によって判断されます。経営陣に適任者がいればMBO、優秀な従業員に事業を託したい場合はEBOという選択肢が考えられます。
MBOとMBI(Management Buy-In)は、経営陣が株式を取得するという点では共通していますが、その経営陣が内部出身か外部出身かという点で決定的に異なります。
MBOは既存の経営陣が自社の株式を買い取る手法であり、経営陣は企業内部から出ています。そのため、企業文化や事業の特性を深く理解しており、既存のノウハウを活かした経営を継続できるメリットがあります。
一方、MBIは外部から招聘された経営陣が、投資ファンドなどと組んで対象企業の株式を取得し、経営権を握る手法です。業績が悪化している企業や、経営人材が不足している企業に対して、外部の専門家が新たな視点やスキルを持ち込んで経営の立て直しを図ることを目的とします。
MBIでは外部経営陣による変革が期待される一方、企業文化の衝突や従業員との軋轢が生じるリスクもあります。MBOは安定性と継続性を重視する選択肢、MBIは変革と再生を重視する選択肢と言えるでしょう。
実務では、既存経営陣と外部経営陣が協力して買収を行う「MEBO(Management and Employee Buyout)」という手法も存在します。これは両者の長所を組み合わせたハイブリッド型の手法です。
MBOとLBO(Leveraged Buyout)の違いを理解するには、何に着目した用語かを区別することが重要です。
LBOとは、買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に金融機関から融資を受けて買収を行う手法を指します。「レバレッジ(てこの原理)」を効かせることで、少ない自己資金でも大規模な買収が可能になる点が特徴です。LBOは資金調達の方法に着目した用語であり、買収の主体が誰かは問いません。
一方、MBOは買収の主体(経営陣)に着目した用語です。経営陣が株式を取得する際、どのような資金調達方法を用いるかは問いません。
実際には、MBOを実施する際にLBOの手法を用いるケースが非常に多いという関係にあります。経営陣が個人資産だけで巨額の買収資金を用意することは困難なため、特別目的会社(SPC)を設立し、そのSPCが対象企業の資産を担保に金融機関から融資を受けるというLBOのスキームを活用します。
つまり、「経営陣がLBOという資金調達手法を用いてMBOを実現する」という構図です。MBOとLBOは対立する概念ではなく、むしろ組み合わせて使われることが多い関係にあります。

MBOには、経営の自由度向上や事業承継の円滑化など、さまざまなメリットがあります。この章では、企業がMBOを実施することで得られる主要な利点について、具体的に解説していきます。
MBOの最大のメリットは、短期的な株価変動や四半期業績に縛られることなく、中長期的な視点で経営戦略を描けることにあります。
上場企業の経営陣は、多数の株主に対して説明責任を負っています。特に短期的な利益を重視する機関投資家などの圧力により、四半期ごとの業績向上が求められ、長期的には企業価値を高める施策であっても、一時的に利益が減少するような大胆な投資や構造改革に踏み切りにくい状況があります。
MBOによって非公開化すれば、こうした短期的な圧力から解放されます。経営陣は自らが株主となるため、5年後、10年後の企業の姿を見据えた戦略的な投資を自由に実行できるようになります。例えば、将来の成長に向けた大規模な研究開発投資、新規事業への参入、事業ポートフォリオの大幅な見直しなど、一時的に業績が悪化しても将来の競争力強化につながる施策を迅速に実行できます。
また、経営陣自身が株主としてのリスクとリターンを直接負うため、経営への責任感とコミットメントが高まり、より真剣に企業価値の向上に取り組むインセンティブが働きます。これは、持続的な企業成長を実現するための重要な要素となります。
MBOは、親族以外の信頼できる経営陣への事業承継を円滑に進める有効な手段として注目されています。
日本では少子化やキャリアの多様化により、親族内に適切な後継者が見つからないという後継者問題が深刻化しています。廃業を選択すれば、設備の廃棄費用や専門家への依頼など多額のコストが発生し、従業員の雇用も失われてしまいます。
MBOを活用すれば、長年企業を支えてきた役員や幹部社員など、事業内容を深く理解し信頼できる人物に経営権を譲渡することができます。新たな経営陣は企業の強みや課題を熟知しているため、引継ぎがスムーズに進み、取引先や従業員との関係性も維持されやすくなります。
さらに、創業者や現オーナーは株式売却によって対価を得ることができるため、老後の生活資金を確保できるというメリットもあります。また、企業秘密や独自のノウハウが外部に流出するリスクも最小限に抑えられます。
特別目的会社(SPC)を活用したMBOスキームを用いれば、後継者自身が多額の資金を用意できない場合でも、金融機関からの融資を受けて事業承継を実現することが可能です。このように、MBOは後継者問題の解決策として実務上非常に有効な選択肢となっています。
上場企業は株式市場で自由に株式が売買されるため、敵対的買収のリスクに常にさらされています。望まない買収者が株式を大量に取得し、経営権を奪われる可能性があるのです。
MBOを実施して非公開化することで、こうした敵対的買収のリスクを根本的に回避できます。非上場株式には譲渡制限が設けられることが一般的であり、株主の同意なしには第三者への譲渡ができなくなります。これにより、経営陣が望まない相手に株式が渡ることを防ぐことができます。
また、MBOによって経営陣が一定の株式シェアを確保することで、仮に一部の株式が外部に流出しても、経営権を掌握し続けることが可能になります。議決権の過半数を経営陣が保有していれば、重要な経営判断において外部の影響を排除できるためです。
特に、企業の技術やノウハウに強みがあり、それが競合他社に狙われやすい場合、MBOは企業の独立性を守り、経営の継続性を確保する防衛手段として機能します。経営陣は安心して自社のビジョンを追求し、長期的な価値創造に集中することができるでしょう。
上場企業には知名度の向上や資金調達の容易さといったメリットがある一方で、上場を維持するための継続的なコストと業務負担が発生します。
具体的には、監査法人への報酬、証券代行費用、株主総会の運営費用、IR活動の費用などが年間で数千万円から億単位にのぼることもあります。また、四半期ごとの決算開示、有価証券報告書の作成、適時開示対応など、膨大な事務作業が求められ、これに対応する人員も必要です。
さらに、コーポレートガバナンス・コードへの対応や内部統制の整備など、上場企業として求められる体制構築にも相当のリソースが必要となります。
MBOによって非公開化すれば、これらのコストと業務負担を大幅に削減できます。削減された資金と人的リソースを、本業への投資や新規事業の開発、人材育成など、より生産的な活動に振り向けることが可能になります。
特に、上場によるメリットを十分に享受できていない企業(資金調達の必要性が低い、知名度向上の効果が限定的など)にとっては、非公開化によるコスト削減効果は非常に大きな魅力となります。経営資源を効率的に配分し、企業競争力を高めるための戦略的選択肢と言えるでしょう。
MBOによって株主が経営陣に集約されることで、意思決定のスピードが飛躍的に向上します。
上場企業では、重要な経営判断を行う際に株主総会の承認を得る必要があるケースが多く、多数の株主の意見調整に時間がかかります。株主間で利害が対立する場合、決議に至るまでに長期間を要することもあり、ビジネス機会を逃してしまうリスクがあります。
例えば、急速に変化する市場環境に対応して事業再編を行いたい場合、業績が悪化している事業からの撤退や新規分野への大胆な投資など、迅速な判断が求められます。しかし、株主の利害調整に時間を取られると、競合他社に先を越されてしまう可能性があります。
MBO後は経営陣が主要な株主となるため、取締役会レベルで迅速に意思決定を行い、即座に実行に移すことが可能になります。市場の変化に素早く対応し、機動的に戦略を転換できることは、現代のビジネス環境において大きな競争優位性となります。
また、意思決定プロセスが簡素化されることで、組織内のコミュニケーションも円滑になり、現場レベルでの実行スピードも向上します。経営陣のビジョンが組織全体に素早く浸透し、一丸となって目標達成に向けて動ける体制が整います。
MBOは現経営陣が引き続き経営を担うため、従業員からの理解と協力を得やすいという大きなメリットがあります。
外部の第三者によるM&Aでは、新たな経営陣が参画することで、雇用条件の変更、配置転換、事業所の統廃合などが行われる可能性があります。従業員は雇用の継続性や労働環境の変化に対して不安を抱き、優秀な人材が流出してしまうリスクがあります。また、企業文化が大きく変わることで、従業員のモチベーションが低下することも懸念されます。
一方、MBOでは株主構成が変わるだけで、経営陣、従業員、取引先との関係性は基本的に維持されます。従業員にとっては、知っている経営陣が引き続き会社を率いるため、安心感があり、不利な変化が起こりにくいと感じられます。
さらに、経営陣が自らリスクを取って会社を買い取ったという事実は、従業員に対して強いコミットメントを示すことになります。これにより、経営陣と従業員の信頼関係が深まり、組織全体の一体感が高まる効果も期待できます。
大規模な経営改革を実施する際にも、従業員の理解と協力が得られやすいため、改革をスムーズに進めることができるでしょう。人材という最も重要な経営資源を維持できることは、MBOの大きな強みです。

MBOには多くのメリットがある一方で、実施に伴うデメリットやリスクも存在します。この章では、MBOを検討する際に必ず考慮すべきリスクについて、具体的に解説していきます。
MBO実施における最大の課題の一つが、経営陣と既存株主との間で生じる利益相反です。このリスクは構造的に避けられないため、適切な対応が不可欠です。
MBOでは、本来株主の利益を最大化すべき立場にある経営陣が、自ら株式の買い手となるため、構造的に利益相反が発生します。
経営陣は買い手として、できるだけ安い価格で株式を取得したいと考えます。一方、既存株主は売り手として、できるだけ高い価格で株式を売却したいと考えます。この両者の利害は真っ向から対立します。
特に問題となるのは、経営陣が企業の内部情報を熟知している立場にあるという点です。企業価値を左右する情報を持つ経営陣が、意図的に企業価値を低く見せることで、安い価格で株式を取得しようとするインセンティブが働く可能性があります。例えば、MBO発表前に悪いニュースを開示して株価を下げる、将来の収益見通しを控えめに発表するといった行為が考えられます。
このような利益相反は、既存株主の利益を不当に損なう行為であり、倫理的にも法的にも問題となります。既存株主、特に少数株主からの反発を招き、MBOが難航したり、最悪の場合には不成立に終わるリスクがあります。
経営陣が利益相反への適切な対応を怠った場合、株主代表訴訟などの法的リスクが発生する可能性があります。
会社法では、取締役が利益相反取引を行う場合、株主総会に重要な事実を開示し、その承認を得なければならないと定められています(会社法第356条第1項)。MBOは典型的な利益相反取引であるため、経営陣は株主に対して透明性の高い情報開示と十分な説明責任を果たす必要があります。
具体的には、独立した第三者機関(フィナンシャル・アドバイザーや株式価値算定機関)による公正な企業価値評価を実施し、その結果に基づいた適正な価格設定を行うことが求められます。また、価格決定のプロセスや根拠を明確に開示し、株主が判断するための十分な情報を提供しなければなりません。
これらの対応を怠り、不透明なプロセスで低い価格設定を行った場合、株主から訴訟を起こされるリスクがあります。実際に過去には、買い取り価格が不当に低いとして株主がMBOの差し止めを求めた事例も存在します。訴訟に発展すれば、MBOの進行が大幅に遅れるだけでなく、企業の評判にも悪影響を及ぼします。
したがって、利益相反対策を徹底し、公正性と透明性を確保することが、MBO成功の大前提となります。
MBOを実施する際、経営陣が個人資産だけで巨額の買収資金を用意できることは稀です。そのため、多くの場合、金融機関からの借入や投資ファンドからの出資により資金調達を行います。この多額の負債が企業の財務状況に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。
特別目的会社(SPC)を利用したMBOスキームでは、SPCが金融機関から融資を受けて株式を取得し、その後SPCと対象企業が合併します。この結果、対象企業がSPCの債務を承継することになります。
つまり、MBO後の企業には、株式取得のために調達した巨額の借入金が重くのしかかります。この借入金には当然利息が発生し、毎年の返済負担が企業のキャッシュフローを圧迫します。特に近年は金利が上昇傾向にあるため、利息負担がさらに増大するリスクがあります。
業績が順調に推移し、十分なキャッシュフローを生み出せれば問題ありませんが、市場環境の悪化や想定外の事業不振が発生した場合、返済が滞るリスクがあります。最悪の場合、債務超過に陥り、倒産に至る可能性もゼロではありません。
このため、MBO実施前には、綿密な返済計画とシミュレーションが不可欠です。楽観的なシナリオだけでなく、悲観的なシナリオも想定し、どのような状況でも返済を継続できる体力があるかを慎重に検討する必要があります。
借入金の返済が優先されることで、本来企業の成長に必要な投資が制限されるリスクもあります。
企業が持続的に成長するためには、新製品の研究開発、設備の更新、人材への投資、新規市場への進出など、継続的な投資が必要です。しかし、多額の借入金を抱えている状態では、毎年の返済に資金が回され、こうした成長投資に十分な資金を配分できなくなる可能性があります。
その結果、競合他社に技術や市場シェアで遅れを取り、中長期的な競争力が低下してしまうという悪循環に陥るリスクがあります。MBOの本来の目的である「中長期的な視点での経営」が、皮肉にも債務負担によって制約されてしまうのです。
このリスクを回避するには、適切な資本構成の設計が重要です。借入に過度に依存するのではなく、投資ファンドからのエクイティ投資を組み合わせるなど、バランスの取れた資金調達を行うことが求められます。また、MBO後の事業計画において、返済と成長投資の両立が可能なキャッシュフロー計画を立案することが不可欠です。
MBOによって非公開化すると、外部株主や市場からの監視が弱まるため、経営の透明性が低下し、ガバナンス(企業統治)が機能しにくくなるリスクがあります。
上場企業では、多数の株主、取締役会、監査役、外部監査人など、複数のステークホルダーによる監視・牽制機能が働いています。経営陣は定期的に業績や戦略について説明責任を果たし、不適切な経営判断に対してはチェックが入る仕組みが整っています。
しかし、MBO後は経営陣自身が主要株主となるため、経営陣を監視・牽制する主体が事実上不在になる可能性があります。経営陣が独善的な判断を行ったり、個人的な利益を優先する決定を行ったりしても、それを指摘・是正する外部の目が少なくなります。
特に、経営陣が同質的なメンバーで構成されている場合、集団思考(グループシンク)に陥り、重要なリスクや課題を見落とす危険性が高まります。外部からの批判的な意見がなくなることで、経営判断の質が低下するリスクがあるのです。
このリスクを軽減するには、MBO後も内部監査機能の強化、外部専門家の積極的な活用、透明性の高い情報開示を継続することが重要です。また、経営陣自身が謙虚な姿勢を保ち、外部の意見に耳を傾ける文化を維持する努力が求められます。ガバナンスの仕組みを意識的に構築し、経営の健全性を保つことが、MBO後の持続的成長の鍵となります。
MBOは既存の経営陣が経営を継続するため、経営の安定性や継続性が保たれる一方で、経営体質が大きく変わらず、必要な変革が進まないリスクも存在します。
外部の第三者によるM&Aでは、新たな経営陣が参画することで、新しい視点や手法が導入され、時には大胆な経営改革が行われます。これにより、非効率な業務プロセスの改善、不採算事業からの撤退、新たな成長戦略の実行など、企業に必要な変化がもたらされることがあります。
しかし、MBOでは経営陣が変わらないため、既存の経営方針や企業文化がそのまま引き継がれることになります。もし従来の経営に問題があった場合、その問題点も引き継がれてしまい、結果として望ましい変化が生まれない可能性があります。
特に、経営陣が過去の成功体験に固執していたり、業界の変化に対する認識が甘かったりする場合、MBO後も旧態依然とした経営が続き、競争力を失っていくリスクがあります。外部からの刺激がない閉鎖的な環境では、イノベーションが生まれにくく、市場の変化に取り残されてしまう危険性があります。
このリスクに対応するには、MBO後も外部の視点を積極的に取り入れる仕組みを構築することが重要です。例えば、社外取締役やアドバイザリーボードを設置し、客観的な意見を経営に反映させることが考えられます。また、経営陣自身が常に自己変革を意識し、学び続ける姿勢を持つことも不可欠です。
MBOはゴールではなく、新たなスタートです。経営の自由度が高まった環境を活かして、積極的に変革に取り組む意思と能力が、経営陣には求められます。

MBOを実際に実行する際には、複数のステップを踏む必要があります。この章では、特別目的会社(SPC)を活用した一般的なMBOの流れについて、各段階を詳しく解説していきます。
MBOの第一歩は、対象企業の適正な企業価値を算定することです。この企業価値評価は、株式の買い取り価格を決定する基礎となるため、非常に重要なプロセスです。
企業価値の算定には、主に以下のような手法が用いられます。
DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)は、企業が将来生み出すと期待されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法です。企業の収益力を最も直接的に反映できるため、広く使われています。
純資産価額法は、企業の資産から負債を差し引いた純資産額をベースに企業価値を評価する方法です。安定した資産を持つ企業や、収益性が低い企業の評価に適しています。
類似会社比準法は、同業種の上場企業の株価や財務指標を参考に、対象企業の価値を相対的に評価する方法です。市場での評価を反映できるメリットがあります。
実務では、これらの複数の手法を組み合わせて総合的に企業価値を算定します。重要なのは、独立した第三者機関に評価を依頼し、公正性を担保することです。経営陣が自ら評価を行うと、恣意的に低く評価しているのではないかという疑念を招き、既存株主との対立を生む原因となります。
また、著しく低い価格で株式を取得した場合、税務上のみなし贈与として課税されるリスクもあるため、適正な価格設定は法的にも重要です。専門家のサポートを受けながら、慎重に企業価値を算定することが求められます。
企業価値の算定が完了したら、次に株式を取得するための受け皿となる特別目的会社(SPC: Special Purpose Company)を設立します。
SPCとは、特定の目的(この場合は対象企業の株式取得)のためだけに設立される法人です。MBOにおいてSPCを活用する主な理由は以下の通りです。
まず、倒産隔離効果が得られます。経営陣個人とSPCの財産を分離することで、万が一経営陣個人が破産などの状態に至っても、SPCの事業には影響が及ばないようにできます。逆に、MBOが失敗してSPCが破綻しても、経営陣個人の他の財産は保護されます。
次に、資金調達の容易性が挙げられます。経営陣個人名義で金融機関から巨額の融資を受けることは困難ですが、SPC名義であれば、対象企業の資産や将来キャッシュフローを担保とした融資を受けやすくなります。金融機関にとっても、事業リスクが限定されたSPCへの融資の方が審査しやすいという利点があります。
SPCの株式は、MBOを実施する経営陣(後継者)が保有します。通常、株式会社や合同会社の形態で設立され、設立手続きは通常の法人設立と同様に進められます。ただし、SPCの設計には法律・税務の専門知識が必要となるため、弁護士や税理士などの専門家のサポートを受けることが一般的です。
SPCの設立が完了したら、株式を取得するための資金をSPC名義で調達します。経営陣が個人資産のみで全額を用意できることは稀であり、外部からの資金調達が不可欠です。
資金調達の主な方法としては、以下があります。
金融機関からの借入は、最も一般的な方法です。対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に、銀行などの金融機関から融資を受けます。この形態はLBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれ、少ない自己資金でも大規模な買収が可能になります。ただし、返済負担が大きくなるため、慎重な返済計画が必要です。
投資ファンドからの出資も重要な選択肢です。プライベートエクイティファンドなどが、SPCに対してエクイティ投資(株式出資)を行います。借入と異なり返済義務はありませんが、ファンドは将来的に高いリターンを期待するため、一定期間後のエグジット(株式売却)を前提とした投資となります。ファンドは経営支援や戦略的アドバイスも提供してくれるメリットがあります。
実務では、借入とエクイティ投資を組み合わせた資本構成を設計することが一般的です。全額を借入で賄うと返済負担が過大になり、全額をエクイティで賄うと経営陣の持ち株比率が低下してしまうため、バランスが重要です。
資金調達にあたっては、対象企業の事業計画、返済能力、担保価値などを詳細に説明する必要があります。金融機関やファンドとの交渉には時間がかかるため、早い段階から準備を進めることが求められます。
資金調達が完了したら、いよいよSPCが既存株主から株式を買い取る段階に入ります。
上場企業の場合、一般的にTOB(株式公開買付)という手法が用いられます。TOBでは、買付期間、価格、買付予定株数などを事前に公告し、既存株主に対して株式の売却を募ります。買付価格は通常、市場価格に一定のプレミアム(上乗せ価格)を加えた水準に設定されます。このプレミアムが既存株主にとっての売却インセンティブとなります。
TOBを成立させるには、一定数以上の株式が応募される必要があります。もし応募が予定数に達しなければ、TOBは不成立となり、MBO全体が失敗に終わる可能性があります。そのため、適正な価格設定と丁寧な説明が重要です。
非上場企業の場合は、株主と個別に交渉して株式を買い取ることになります。株主が少数であれば比較的スムーズに進みますが、株主が多数いる場合や、価格に納得しない株主がいる場合は、交渉が難航することもあります。
いずれの場合も、既存株主に対してMBOの目的、買付価格の根拠、今後の経営方針などを丁寧に説明し、理解と協力を得る努力が不可欠です。株主との信頼関係を維持しながら、公正なプロセスで買い取りを進めることが、MBO成功の鍵となります。
SPCが株式の大部分を取得した後、最終的に100%の株式を取得し、SPCと対象企業を合併させることでMBOが完了します。
TOBで全株式を取得できなかった場合、残った少数株主の株式を強制的に取得するスクイーズアウトという手続きが行われます。具体的には、株式併合や株式等売渡請求といった法的手続きにより、少数株主から株式を買い取ります。これにより、SPCは対象企業の100%株主となります。
その後、SPCを消滅会社、対象企業を存続会社として合併を行います。この合併により、SPCが保有していた株式は対象企業の資産として組み込まれ、経営陣(SPCの株主)が対象企業の株主となります。同時に、SPCが抱えていた借入金などの債務も対象企業が承継することになります。
合併が完了すると、経営陣は対象企業の支配株主として経営権を掌握し、MBOのプロセスは終了します。上場企業の場合、一連の手続きを経て株式は上場廃止となり、非公開企業となります。
合併後は、新たな経営体制のもとで事業が展開されます。MBO後の経営ビジョンを実現するために、借入金の返済計画を着実に実行しつつ、成長戦略を推進していくことが求められます。
このように、MBOは複数の段階を経て進められる複雑なプロセスです。各段階で専門的な知識と慎重な対応が必要となるため、経験豊富なアドバイザーのサポートを受けながら進めることが成功への近道となります。

MBOを単に実行するだけでなく、真に成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。この章では、MBO成功のために特に注意すべき3つのポイントについて解説します。
MBO成功の最重要ポイントは、公正な価格設定と透明性の高いプロセスによって、既存株主の理解と協力を得ることです。
前述の通り、MBOには構造的に利益相反の問題があります。この問題に適切に対処しなければ、株主との対立を招き、MBOが頓挫するリスクがあります。
具体的な対応策としては、まず独立した第三者機関に企業価値評価を依頼することが不可欠です。経営陣から独立したフィナンシャル・アドバイザーや株式価値算定機関に評価を委託し、その結果に基づいて買取価格を設定します。複数の評価手法を用いて多角的に企業価値を算定し、その根拠を明確に開示することが重要です。
次に、特別委員会の設置も有効な手段です。社外取締役や独立した専門家から構成される特別委員会を設置し、MBOの条件や価格の妥当性を客観的に審査してもらいます。特別委員会の意見書を取得することで、プロセスの公正性を担保できます。
さらに、丁寧な情報開示とコミュニケーションも欠かせません。MBOの目的、価格決定のプロセス、今後の経営方針などを、株主に対して分かりやすく説明します。特に少数株主に対しても、質問の機会を設けるなど、十分な配慮が必要です。
これらの対応を徹底することで、株主からの信頼を獲得し、円滑にMBOを進めることができます。公正性と透明性は、MBOの成否を左右する最も重要な要素であることを認識しておきましょう。
MBOはゴールではなく、新たなスタートです。MBO自体を成功させることに目が向きがちですが、真に重要なのはMBO後にどのような経営を実現するかという点にあります。
MBO実施前に、以下の点について明確なビジョンと具体的な計画を策定しておくことが不可欠です。
MBO後の成長戦略については、非公開化によって得られる経営の自由度をどう活かすのか、具体的な施策を描く必要があります。例えば、どの事業に経営資源を集中するのか、どのような新規事業に挑戦するのか、事業ポートフォリオをどう再編するのか、といった戦略を明確にします。単に「自由な経営をしたい」という抽象的な目標ではなく、3年後、5年後の具体的な姿を描くことが重要です。
借入金の返済計画も、現実的かつ詳細に策定する必要があります。MBOでは多額の借入を行うことが一般的であり、この返済が経営の大きな制約となります。楽観的なシナリオだけでなく、業績が悪化した場合のシナリオも想定し、どのような状況でも返済を継続できる計画を立てます。必要に応じて、事業資産の売却や追加資金調達などの対応策も検討しておきます。
さらに、ステークホルダーへのコミュニケーション計画も重要です。従業員、取引先、金融機関などに対して、MBO後のビジョンをどう伝えるのか、どのように理解と協力を得るのかを考えます。特に従業員に対しては、MBOによって雇用が守られること、企業がより良い方向に向かうことを丁寧に説明し、モチベーションを維持・向上させる取り組みが必要です。
明確なビジョンと計画があってこそ、MBOは真の意味で成功します。MBO実施前から、その後の経営を見据えた準備を進めることが、成功への鍵となります。
MBOは高度に専門的なプロセスであり、経営陣だけで全てを進めることは極めて困難です。成功率を高めるためには、経験豊富なM&Aアドバイザーや専門家のサポートを受けることが不可欠です。
MBOには、以下のような専門的な知識とスキルが必要となります。
企業価値評価においては、財務分析、将来予測、各種評価手法の適用など、高度な専門知識が求められます。不適切な評価は、株主との対立や税務リスクにつながります。
法務・税務対応も重要です。会社法、金融商品取引法、税法などの関連法規を遵守しつつ、最適なスキーム設計を行う必要があります。利益相反対策、開示義務、スクイーズアウト手続きなど、法的に適切な対応が求められます。
資金調達交渉では、金融機関やファンドとの交渉において、最適な条件を引き出すためのノウハウが必要です。資本構成の設計、返済条件の交渉など、財務的な専門性が求められます。
株主対応・交渉においても、既存株主との価格交渉、TOBの実施、少数株主への対応など、豊富な経験に基づいた対応が成功の鍵となります。
プロジェクトマネジメントの面では、複数の関係者を調整しながら、スケジュール通りにMBOを進行させるマネジメント能力が必要です。
これらすべてを経営陣だけでカバーすることは現実的ではありません。M&Aアドバイザー、弁護士、税理士、フィナンシャル・アドバイザーなど、各分野の専門家から成るチームを組成し、プロジェクトを推進することが成功への最短ルートです。
特に、MBOの経験が豊富なアドバイザーは、過去の事例から得たノウハウを持っており、想定されるリスクや課題に対して事前に対策を講じることができます。専門家への報酬は決して安くはありませんが、それはMBO成功のための必要投資と考えるべきでしょう。

MBOの具体的なイメージを掴むため、近年日本で実施された代表的なMBO事例を3つ紹介します。それぞれ異なる業界・目的でMBOが実施されており、参考になるでしょう。
2023年11月、大正製薬ホールディングス株式会社がMBOの実施を発表し、大きな注目を集めました。
同社は、総合感冒薬「パブロン」やドリンク剤「リポビタンD」など、消費者に広く知られるOTC医薬品を展開する業界大手企業です。
MBOを実施した主な目的は、インターネットを通じた医薬品販売体制の構築や、海外の有力医薬品ブランドの買収といった、将来を見据えた成長戦略の実行でした。こうした大胆な戦略転換には、一時的な業績悪化や多額の投資が伴う可能性があり、上場を維持したままでは短期的な株価への影響を懸念して実行が難しいと判断されました。
非公開化によって中長期的な視点で経営戦略を実行できる環境を整えることが、MBO実施の狙いでした。
株式取得を目的に設立された「大手門株式会社」により、TOB(株式公開買付)が実施され、買付総額は約7,100億円に達しました。これは日本のMBO史上最大規模の取引となり、大きな話題となりました。
この事例は、業界トップクラスの企業でも、環境変化に対応するためにMBOという選択肢を取ることを示しています。上場企業としての制約から解放され、自由な戦略実行を目指す姿勢が明確に表れた事例と言えるでしょう。
2023年11月、株式会社ベネッセホールディングスもMBOの実施を発表しました。同社は、通信教育「進研ゼミ」や学習塾運営、介護・保育事業など、教育と生活支援サービスを幅広く展開する企業グループです。
MBOを選択した背景には、通信教育事業を取り巻く環境の急速な変化と、介護事業における深刻な人材不足という課題がありました。デジタル化の進展により教育サービスのあり方が大きく変わる中、従来型の通信教育モデルからの転換が急務となっていました。また、介護事業では人材確保と定着が大きな経営課題となっていました。
これらの課題に対応するためには、短期的な利益を犠牲にしても中長期的な投資と構造改革を断行する必要があり、そのためには非公開化が最適な選択と判断されました。創業家がスウェーデンの投資会社EQTと連携し、特別目的会社「ブルーム1株式会社」を通じてTOBを実施しました。TOBは成功し、同社は上場廃止となりました。
この事例は、歴史ある企業が時代の変化に対応するため、大胆な経営改革の手段としてMBOを活用したケースです。創業家と外部投資家が連携するという形態も特徴的で、MBOの多様な実施形態を示しています。
2024年2月、アウトドア用品メーカーの株式会社スノーピークがMBOの実施を発表しました。
同社は、高品質なキャンプ用品で知られ、熱心なファン層を持つブランドです。近年のアウトドアブームで業績を伸ばしてきましたが、さらなる成長のために海外展開の強化が重要な経営課題となっていました。
MBOの主な目的は、上場を廃止することで短期的な業績プレッシャーから解放され、アウトドア事業の海外展開に大胆に投資できる環境を整えることでした。また、スノーピークが大切にしてきたブランドイメージや企業文化を維持しながら、長期的な視点で事業を展開することも重要な狙いでした。
米投資ファンド「ベインキャピタル」と組んでTOBを実施し、その結果、買付予定数の下限を上回る応募がありました。全株式を取得するためにスクイーズアウト(強制買取)を実施し、2024年4月にMBOが成立、株式が非公開化されました。
この事例は、中堅規模の企業が、ブランド価値を守りながら成長戦略を推進するためにMBOを活用したケースです。外部投資ファンドの経営支援を受けながら、海外展開という新たなステージに挑戦する姿勢が示されています。
これら3つの事例からわかるように、MBOは企業規模や業種を問わず、中長期的な成長戦略を実現するための有力な選択肢として活用されています。それぞれの企業が置かれた状況や課題に応じて、MBOという手段を戦略的に選択していることが理解できるでしょう。
本記事では、MBOについて、基本的な仕組みから実施のメリット・デメリット、具体的な流れ、成功のポイント、そして近年の実施事例まで解説してきました。
MBOとは、企業の経営陣が金融機関や投資ファンドから資金を調達し、既存株主から自社の株式を買い取って経営権を取得する手法です。多くの場合、上場廃止を伴う非公開化によって、短期的な株価変動に左右されない自由度の高い経営を実現します。
主なメリットは、中長期的な経営戦略の実行、スムーズな事業承継、敵対的買収の回避、コスト削減、迅速な意思決定などです。一方、デメリットとしては、既存株主との利益相反、多額の債務による財務悪化、ガバナンスの低下、経営体質の固定化などのリスクがあります。
MBOを成功させるためには、公正な価格設定と透明性の高いプロセス、MBO後の明確なビジョンと返済計画、専門家のサポートという3つのポイントが特に重要です。近年、大正製薬ホールディングス、ベネッセホールディングス、スノーピークなど、さまざまな企業がMBOを実施しており、成長戦略や経営改革の有力な手段として注目されています。
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「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。