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SESのM&Aを徹底解説|メリット・デメリットや成功事例

公開日:2025.09.18  更新日:2025.09.18

SES業界では、IT人材不足の深刻化や競争激化を背景に、M&Aが活発化しています。事業承継の実現や経営基盤の強化、優秀な人材確保など、M&Aには売り手・買い手双方に多くのメリットがあります。この記事では、SES企業のM&Aにおける売却価格の相場や具体的なメリット・デメリット、成功事例、さらに成功に導くための重要ポイントについて詳しく解説します。

<この記事で紹介する3つのポイント>

  • SES企業のM&A売却価格は営業利益の3~5年分が相場の目安となる
  • 売り手は事業承継の実現、買い手は優秀な人材確保など双方にメリットがある
  • M&A成功には企業価値の最大化と信頼できる専門家の選定が不可欠

SES業界でM&Aが活発化する背景

SES業界におけるM&Aの活発化には、大きく3つの背景があります。

まず、IT人材の深刻な不足が挙げられます。経済産業省の試算によると、2030年までに40~80万人規模のIT人材不足が生じる懸念があるとされています。この状況下で、企業は優秀なエンジニアを効率的に確保する手段としてM&Aを選択しています。

次に、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速による需要拡大があります。企業のデジタル化やAI・IoTなどの先端技術導入が進む中、SES企業への需要は年々増加しています。2023年の国内ソフトウェア市場は前年比9.5%増の4兆6,824億8,200万円に達し、今後も堅調な成長が見込まれています。

最後に、経営者の高齢化と後継者不足の問題があります。優良な技術力を持ちながら、後継者不在により廃業を余儀なくされる企業も少なくありません。M&Aは、こうした企業にとって事業継続の有効な選択肢となっています。

これらの要因が複合的に作用し、SES業界では同業他社による買収や、異業種からの参入を目的としたM&Aが増加しているのです。

SES企業のM&A売却価格の相場

SES企業のM&Aを検討する際、最も関心が高いのが売却価格の相場です。適正な価格での売却を実現するためには、企業価値がどのように評価されるのか、どのような指標が重視されるのかを理解しておくことが重要です。

企業価値評価の3つの基本手法

SES企業の売却価格を決定する際は、以下の3つの評価手法が用いられます。

コストアプローチは、企業の純資産を基準として企業価値を算出する方法です。貸借対照表に記載されている資産から負債を差し引いて計算するため、客観性が高いという特徴があります。ただし、将来的な収益力を反映できないという課題もあります。

インカムアプローチは、将来期待される収益やキャッシュフローを基に企業価値を評価する手法です。DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)が代表的で、企業の成長性や収益性を反映できる利点があります。一方で、将来予測に基づくため、主観的な要素が入りやすいという側面もあります。

マーケットアプローチは、類似する上場企業や過去のM&A取引事例を参考に企業価値を算出する方法です。市場の実勢価格を反映できるため客観性が高い反面、適切な類似企業を見つけることが難しい場合があります。

SES企業の評価で重視される指標

SES企業のM&Aにおいて、買い手企業が特に重視する評価指標があります。

第一に、エンジニアの人数と質です。SES業界では「エンジニアの人数×単価」で企業価値を算出することもあり、優秀なエンジニアを多数抱える企業は高く評価されます。特に、AIやクラウド、セキュリティなどの先端技術に精通したエンジニアの在籍は、企業価値を大きく押し上げる要因となります。

第二に、顧客基盤の質と安定性です。大手企業との長期契約や、複数の優良顧客を持つ企業は、安定した収益が見込めるため高評価を得やすくなります。また、特定の業界に特化した専門性の高いサービスを提供している企業も、差別化要因として評価されます。

第三に、稼働率と利益率です。エンジニアの稼働率が高く、効率的な事業運営を行っている企業は、収益性の観点から高く評価されます。一般的に、稼働率85%以上、営業利益率10%以上が優良企業の目安とされています。

営業利益の3〜5年分が目安

SES企業のM&A売却価格の相場は、一般的に以下の計算式で算出されます。

売却価格 = 時価純資産額 + 営業利益 × 3~5年

この計算式は、企業の現在の資産価値に加えて、将来の収益力を評価するものです。営業利益の倍数は、企業の成長性や市場環境、買い手のニーズによって変動します。成長性の高い企業や希少性の高い技術を持つ企業では、倍数が5年を超えることもあります。

実際の売却価格は、この基準額をベースに、デューデリジェンスの結果や交渉によって最終決定されます。近年の事例では、数千万円から数十億円まで幅広い価格帯での取引が行われており、企業規模や事業内容によって大きく異なります。

SESのM&Aにおけるメリット

SES企業のM&Aは、売り手・買い手双方に多くのメリットをもたらします。経営環境が大きく変化する中、M&Aは単なる企業の売買ではなく、新たな成長機会を創出する戦略的な選択肢となっています。それぞれの立場から見たメリットを理解することで、M&Aの真の価値を見出すことができるでしょう。

売り手側のメリット

SES企業を売却する経営者にとって、M&Aは企業の新たな可能性を開く重要な選択肢です。後継者問題の解決だけでなく、経営の安定化や事業の発展など、さまざまなメリットが期待できます。

事業承継を実現する

経営者の高齢化が進む中、後継者不在は多くのSES企業が直面する深刻な課題です。東京商工リサーチの調査によると、休廃業する企業の56.5%が黒字であることが判明しています。つまり、業績は良好でありながら、後継者がいないために廃業を選択せざるを得ない企業が多数存在するのです。

M&Aを活用することで、こうした企業は事業を継続できます。長年培ってきた技術力やノウハウを次世代に引き継ぎ、顧客との信頼関係も維持できます。さらに、従業員の雇用も守られるため、社会的責任を果たしながら円滑な事業承継が実現可能です。

経営リスクから解放される

SES事業の経営には、さまざまなリスクが伴います。技術の急速な進化への対応、優秀な人材の確保と育成、大口顧客への依存、資金繰りの管理など、経営者が抱える責任と負担は決して小さくありません。

M&Aによる売却を選択することで、これらの経営リスクから解放されます。特に、個人保証を行っている経営者にとっては、精神的・経済的な負担から解放される大きなメリットがあります。また、売却によって得た資金を元手に、新たな事業への挑戦や、ゆとりある老後生活の実現も可能となります。

事業基盤を強化する

大手企業や資金力のある企業への売却により、事業基盤の大幅な強化が期待できます。買い手企業の持つ豊富な経営資源を活用することで、これまで単独では難しかった大規模プロジェクトへの参画や、新技術への投資が可能になります。

また、買い手企業のブランド力や信用力を背景に、新規顧客の開拓や既存顧客との関係強化も図れます。グループ企業としての安定した経営基盤の下、より積極的な事業展開が可能となり、企業価値のさらなる向上につながります。

買い手側のメリット

SES企業を買収する企業にとって、M&Aは成長戦略の重要な手段となっています。自社だけでは実現困難な目標を、M&Aによって短期間で達成することが可能です。

優秀な人材を即座に確保する

IT業界における人材不足は年々深刻化しており、優秀なエンジニアの採用は困難を極めています。新卒採用から育成するには多大な時間とコストがかかり、中途採用市場でも人材獲得競争は激化しています。

M&Aによって、すでに実績のある優秀なエンジニアチームを一度に獲得できます。これにより、採用コストの削減はもちろん、即戦力として事業に貢献できる人材を確保できます。特に、特定の技術領域に精通したエンジニアや、豊富なプロジェクト経験を持つ人材の獲得は、企業の競争力強化に直結します。

技術領域を拡大する

買い手企業は、M&Aを通じて新たな技術領域への参入や、既存サービスの強化を実現できます。例えば、AI開発に強みを持つSES企業を買収することで、自社のAI関連サービスを短期間で立ち上げることが可能です。

また、特定の業界に特化したSES企業を買収することで、その業界特有のノウハウや顧客基盤を獲得できます。これにより、ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、はるかに効率的に事業領域を拡大できます。さらに、買収した企業の技術と自社の技術を融合させることで、新たなサービスの創出も期待できます。

シナジー効果を創出する

M&Aの最大の魅力は、シナジー効果の創出にあります。買い手企業と売り手企業の経営資源を組み合わせることで、単純な足し算以上の価値を生み出すことができます。

営業面では、両社の顧客基盤を相互に活用することで、クロスセルやアップセルの機会が増加します。技術面では、それぞれの強みを組み合わせた新サービスの開発が可能となります。また、管理部門の統合による間接コストの削減や、規模の経済を活かした調達コストの低減など、コスト面でのシナジーも期待できます。

SESのM&Aにおけるデメリット

M&Aには多くのメリットがある一方で、慎重に検討すべきデメリットも存在します。これらのリスクを事前に認識し、適切な対策を講じることが、M&Aの成功には不可欠です。売り手・買い手それぞれが直面する可能性のある課題を理解することで、より現実的な判断が可能となります。

売り手側のデメリット

M&Aによる売却を選択した場合、売り手企業は新たな環境への適応という課題に直面します。これまで築いてきた企業文化や経営の自主性など、失われるものも少なくありません。

企業文化の違いに直面する

M&A後、売り手企業は買い手企業の企業文化に適応する必要があります。これまで築いてきた独自の社風や価値観が、買い手企業の方針と異なる場合、従業員にとって大きなストレスとなる可能性があります。

特に、意思決定プロセスの変更や評価制度の統一、就業規則の変更などは、従業員の働き方に直接影響を与えます。長年親しんできた職場環境の変化に戸惑い、モチベーションの低下や生産性の減少につながるリスクがあります。

従業員の離職リスクを抱える

M&Aの発表後、将来への不安から優秀な従業員が離職するリスクがあります。特にSES業界では、エンジニア個人の技術力が企業価値の源泉となるため、キーパーソンの離職は企業価値の大幅な毀損につながります。

従業員は、待遇の変化、キャリアパスの不透明さ、新しい経営陣への不信感などから転職を検討することがあります。実際、M&A後1年以内に20~30%の従業員が離職するケースも報告されています。このため、早期の情報開示と丁寧なコミュニケーション、適切な処遇の保証が不可欠です。

交渉力を失う可能性がある

一度M&Aのプロセスが始まると、売り手企業の交渉力は徐々に低下する傾向があります。特に、財務状況が厳しい企業や、早期の売却を希望する企業は、買い手優位の交渉になりやすいのが実情です。

デューデリジェンスで問題が発見された場合、当初の提示価格から大幅な減額を要求されることもあります。また、契約条件についても、買い手側に有利な内容を受け入れざるを得ない状況に陥ることがあります。

買い手側のデメリット

SES企業の買収には大きな可能性がある一方で、想定外のリスクや困難も伴います。投資に見合った成果を得るためには、これらのデメリットを事前に把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。

簿外債務を引き継ぐ

M&Aにおける最大のリスクの一つが、簿外債務の存在です。デューデリジェンスで発見できなかった債務や、潜在的な法的リスクが買収後に顕在化することがあります。

SES企業特有のリスクとして、偽装請負や多重派遣などのコンプライアンス違反、未払い残業代、社会保険の未加入などが挙げられます。これらの問題が買収後に発覚した場合、多額の追加コストが発生する可能性があります。

統合作業に労力を要する

M&A後の統合作業(PMI:Post Merger Integration)は、想定以上の時間と労力を要します。システムの統合、業務プロセスの標準化、人事制度の統一など、あらゆる面で調整が必要となります。

特にSES企業の場合、顧客との契約形態や単価設定、プロジェクト管理手法などが企業ごとに異なるため、統合には細心の注意が必要です。性急な統合は現場の混乱を招き、顧客離れや従業員の離職につながる恐れがあります。一般的に、完全な統合には1~2年程度の期間が必要とされています。

想定したシナジーを得られない

M&Aの検討段階で描いたシナジー効果が、実際には実現できないケースは少なくありません。市場環境の変化、競合他社の動向、技術トレンドの変化など、外部要因によって当初の計画が狂うことがあります。

また、両社の企業文化の違いが想定以上に大きく、協業がうまく進まないこともあります。顧客基盤の重複が多く、期待したほどの売上拡大が見込めない場合もあります。

SESのM&A成功事例

実際のM&A事例を知ることは、自社のM&A戦略を検討する上で非常に有益です。成功事例からは、どのような目的でM&Aが実施され、どのようなシナジー効果が生まれたのかを具体的に学ぶことができます。

事業拡大を目的とした買収

旅行関連サービスを展開する企業グループが、HRテックを活用したソリューションを提供するSES企業を買収した事例があります。買い手企業の子会社は、IT産業に限らず医療・介護・観光業など多様な分野で必要なスキルを持つ人材を提供し、企業のプロジェクト推進を支援していました。

一方、買収されたSES企業は、HRテックを活用した独自のソリューションで「生きがいで溢れる社会の実現」を目指しており、特にリモート案件に特化した事業展開を行っていました。買い手企業グループは、パートナー企業の募集や積極的な採用による人員増強で事業拡大を図っており、今回の買収もその戦略の一環として実施されました。

M&A後、買い手企業グループは、買収企業の持つIT技術とノウハウを活用し、グループ内のITオフショア開発事業部の開発力と組み合わせることで、さらなる事業拡大を実現。特に、リモートワークに対応したSESサービスの需要増加に対して、迅速な対応が可能となりました。このケースは、異業種からの参入により、既存事業とのシナジー効果を最大化した成功例といえるでしょう。

販路拡大を目的とした売却

Java系のITエンジニアを中心に活動するSES企業が、建設技術者派遣を主力事業とする大手人材派遣企業グループに売却された事例があります。売却企業は優秀なエンジニアを多数抱え、安定した顧客基盤を持っていましたが、さらなる成長のためには営業力の強化と顧客基盤の拡大が課題となっていました。

一方、買い手企業は建設技術者派遣で培った全国規模のネットワークと強力な営業基盤を持ち、近年はエンジニア派遣事業にも注力してIT領域でのM&Aを積極的に推進していました。買い手企業にとって、IT業界の上流工程への参入と人材育成力の強化が戦略的な目標でした。

M&A後、売却企業は買い手グループの持つ広範な顧客ネットワークを活用することで、これまでアプローチが困難だった大手企業との新規取引を次々と開始。グループの営業力と顧客基盤の共有により、売上高は買収前と比較して大幅に増加しました。また、グループ内での技術交流により、エンジニアのスキルアップ機会も拡大し、より高単価の案件獲得にもつながっています。このケースは、販路拡大という明確な目的を持った売却により、双方にとってWin-Winの結果を実現した好例といえるでしょう。

SESのM&Aを成功に導く重要ポイント

M&Aの成功は、適切な準備と戦略的なアプローチにかかっています。多くの企業がM&Aで期待した成果を得られない中、成功企業に共通するのは、事前の入念な準備と専門家の活用、そして誠実な姿勢です。

企業価値を最大化する準備

M&Aを成功させるためには、売却前の入念な準備が不可欠です。まず、財務面では直近3期分の決算書を整理し、可能な限り黒字化を図ることが重要。赤字企業でも売却は可能ですが、交渉において不利になることは避けられません。

次に、人材面での準備も欠かせません。エンジニアのスキルシートを最新化し、保有技術や資格、プロジェクト実績を明確に示せるようにしておきます。特に、AI、クラウド、セキュリティなどの需要の高い分野の技術者については、詳細な情報を整備することで企業価値の向上につながります。

信頼できるM&A仲介会社の選定

SES業界に精通したM&A仲介会社の選定は、成功の鍵を握る重要な要素です。IT業界特有の評価基準や商慣習を理解している仲介会社であれば、適正な企業価値評価と最適な買い手候補の選定が期待できます。

優良な仲介会社を選ぶポイントとして、まずSES業界でのM&A実績を確認することが重要です。過去の成約事例や、取り扱った案件の規模、成約までの期間などを具体的に確認しましょう。また、担当アドバイザーがIT業界の知識を持っているか、エンジニアの価値を適切に評価できるかも重要な判断基準となります。

料金体系についても事前に確認が必要です。着手金の有無、中間金の設定、成功報酬の料率など、各社で大きく異なります。完全成功報酬型の仲介会社であれば、売却が成立するまで費用が発生しないため、リスクを抑えることができます。複数の仲介会社と面談し、相性や専門性を見極めた上で選定することをお勧めします。

デューデリジェンスへの誠実な対応

デューデリジェンスは、買い手が売り手企業を詳細に調査するプロセスです。この段階での対応が、最終的な売却条件に大きく影響するため、誠実かつ迅速な対応が求められます。

デューデリジェンスでは、財務、法務、人事、IT、ビジネスなど多岐にわたる調査が行われます。要求される資料は膨大になることが多く、過去3年分の決算書、税務申告書、従業員名簿、就業規則、顧客との契約書、エンジニアのスキルシートなど、数百点に及ぶこともあります。

まとめ

SES業界のM&Aは、IT人材不足や後継者問題、競争激化といった業界課題を解決する有効な手段として、今後さらに活発化することが予想されます。売り手にとっては事業承継の実現や経営リスクからの解放、買い手にとっては優秀な人材の獲得や事業領域の拡大など、双方に大きなメリットがあります。

一方で、企業文化の違いによる摩擦や統合作業の困難さなど、克服すべき課題も存在します。M&Aを成功に導くためには、十分な準備期間を設け、企業価値を最大化する努力を行うとともに、信頼できる専門家のサポートを受けることが不可欠です。

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「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。

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