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飲食店の売却は、方法や価格相場が複雑なため、知識なく進めると安く買い叩かれるリスクが伴います。本記事では、売却の全手順から少しでも高く売るための具体的なコツまで、後悔しないために知っておくべき全知識を網羅的に解説します。まずはこの記事で売却の全体像をつかみ、大切な店舗の価値を最大化する一歩を踏み出しましょう。
<この記事で紹介する3つのポイント>

飲食店の売却方法は、主に「M&A」と「居抜き売却」の2種類に大別されます。M&Aは経営権や事業そのものを包括的に譲渡する方法であり、居抜き売却は店舗の設備や内装といった物理的な資産のみを譲渡する方法です。どちらを選ぶかによって、売却価格の決まり方、手続きの流れ、引き継がれる資産の範囲が大きく異なります。ご自身の状況や売却の目的に合わせて、最適な方法を選択することが重要です。
M&Aは、会社の経営権や事業全体を第三者に引き継ぐ売却手法です。主な方法として「株式譲渡」と「事業譲渡」があります。株式譲渡は、会社の株式を売買することで経営権を移転させる方法で、従業員の雇用や許認可なども原則としてそのまま買い手に引き継がれます。
一方、事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を個別に売却する方法です。事業譲渡では、どの資産や契約を引き継ぐかを個別に選べるため、柔軟な取引が可能です。
居抜き売却は、店舗の内装、厨房設備、空調、什器といった物理的な資産(造作)をそのままの状態で売却する方法です。事業そのものではなく、あくまで店舗という「ハコ」と「中身」を売買の対象とします。この取引は、売主と買主の間で「造作譲渡契約」を結ぶことで成立します。買い手は初期投資を抑えてスピーディーに開業できるメリットがあり、売り手は原状回復費用を削減できるのが大きな特徴です。

飲食店の売却価格は、売却方法によって算出の考え方が全く異なります。M&Aの場合は、店舗の収益力やブランド価値といった無形の資産も評価対象となるため、高額になる可能性があります。一方、居抜き売却は、あくまで店舗に残された物理的な資産の価値が基本となります。それぞれの算出方法を理解し、自店の価値を正しく把握することが適正価格での売却につながります。
M&Aにおける飲食店の売却相場は、一般的に「時価純資産+営業権(のれん代)」という計算式で算出されます。営業権は、その店が持つブランド力や収益力を示すもので、目安として「営業利益の2年~5年分」で評価されることが一般的です。例えば、時価純資産が500万円、年間の営業利益が300万円の店舗であれば、営業権は600万円~1,500万円となり、売却相場は1,100万円~2,000万円と計算できます。黒字経営で安定した収益を上げている店舗ほど、営業権は高く評価されます。
居抜き売却の価格は、店舗の内装や設備の価値を評価した「造作譲渡代金」として決まります。明確な計算式はなく、設備の人気メーカーや新しさ、内装のきれいさ、店舗の立地などを総合的に判断して価格が設定されます。多くのケースで造作譲渡価格は300万円以下に収まることが多く、状態によっては100万円以下になることも珍しくありません。ただし、人気エリアの好立地な物件であれば、場所の価値が加味されて高値が付くこともあります。

飲食店のM&Aによる売却は、専門的な知識と交渉が必要となるため、計画的に進めることが成功の鍵です。一般的には、専門の仲介会社に相談してから最終的な引き渡しまで、半年から1年以上の期間を要します。各段階で何をすべきかを正確に理解し、一つずつ着実に進めていくことが円滑な売却につながります。 ここでは、M&Aによる売却の標準的な流れを5つのステップで解説します。
売却活動を始める前に、まずは自社の状況を客観的に把握し、希望条件を整理する準備が必要です。最低限の希望売却価格、売却の時期、従業員の処遇などを明確にしておきます。M&A仲介会社への相談時にスムーズな査定ができるよう、決算書や確定申告書(3期分)、賃貸借契約書などの必要書類を事前に準備しておきましょう。これらの書類は、自社の価値を正確に評価してもらうための重要な資料となります。
準備が整ったら、飲食業界に詳しいM&A仲介会社に相談します。初回相談では、売却理由や希望条件を伝え、専門家からアドバイスを受けます。本格的に依頼することを決めたら、まずは秘密保持契約を締結し、詳細な資料を提出します。その後、仲介会社は企業の魅力やリスクをまとめた「企業概要書(インフォメーション・メモランダム)」を作成し、売却に向けた具体的な戦略を立てていきます。この段階で信頼できる仲介会社を見つけることが、売却の成否を大きく左右します。
仲介会社は、独自のネットワークを活用して買い手候補を探します。この際、企業名が特定されないように、事業内容やエリアなどの限られた情報だけをまとめた「ノンネームシート」を使い、買い手の関心度を測ります。関心を示した買い手候補とは秘密保持契約を結んだ上で企業概要書を開示し、買収の意欲が高まれば経営者同士の「トップ面談」が設定されます。トップ面談は、お互いの経営理念やビジョンを共有し、信頼関係を築くための重要な機会です。
トップ面談後、買い手が本格的に買収を検討する意思を示すと、条件交渉が始まります。売却価格やスケジュールなどの基本的な条件がまとまったら、「基本合意書(LOI)」を締結します。基本合意書に法的な拘束力は弱いものの、その後の交渉の土台となります。その後、買い手側は公認会計士や弁護士などの専門家を交え、売り手企業の財務や法務に問題がないかを詳細に調査する「デューデリジェンス(買収監査)」を実施します。売り手は、この調査に誠実に対応し、正確な情報開示を行う必要があります。
デューデリジェンスで大きな問題がなければ、最終的な条件交渉を行い、「最終契約書(DA)」を締結します。この契約書には法的な拘束力があり、調印をもって売買契約が正式に成立します。契約締結後、代金の決済や株式の譲渡、役員の変更登記といった引き継ぎ手続きを行う「クロージング」を経て、売却の全手順が完了します。クロージングの日に、会社の経営権が正式に買い手へ移転します。

飲食店の売却価格は、準備次第で大きく変わる可能性があります。買い手は、投資した資金を回収できるか、将来性があるかという視点で店を評価します。そのため、自店の魅力を最大限に高め、買い手にとって「買いたい」と思わせる状態に整えておくことが重要です。日頃の店舗運営から財務状況の整理まで、計画的な準備が高値売却につながります。
買い手が最も重視する点の一つが、正確な財務状況です。売却を考え始めたら、まず決算書の内容をクリーンにすることが不可欠です。 例えば、経営者個人の支出と会社の経費が混同している場合は明確に分離し、不要な経費を削減して営業利益を高く見せる努力が求められます。税理士などの専門家と相談しながら、誰が見ても分かりやすい財務諸表を作成しておくことで、買い手の信頼を得やすくなります。
自店の強みは何かを客観的に分析し、具体的にアピールできるように整理しておくことが重要です。駅からの距離や周辺環境といった「立地」の良さはもちろん、長年かけて築き上げた「ブランドイメージ」や、常連客が多いことを示す「リピート率の高さ」なども大きな強みとなります。これらの強みを言語化・数値化し、企業概要書に盛り込むことで、買い手は投資後の成功イメージを描きやすくなります。
熟練した料理長や店長、優秀な接客スタッフの存在は、飲食店の価値を大きく高める要素です。優秀な従業員が売却後も継続して勤務してくれることは、買い手にとって非常に魅力的です。
そのため、従業員の不安を取り除き、スムーズな引き継ぎができる体制を整えておくことが求められます。また、調理方法や接客の流れなどをマニュアル化し、誰でも一定の品質を保てる仕組みを構築しておくことも、事業の安定性を示す上で有効です。
飲食店を高く売るためには、売却のタイミングが極めて重要です。一般的に、業績が好調で、売上が右肩上がりの時期が最も高く評価されます。業績が悪化してから慌てて売却しようとすると、買い手が見つかりにくく、買い叩かれる原因にもなります。経営者自身の年齢や健康状態、後継者の有無などを考慮し、店舗が最も輝いているタイミングで売却を決断するのが理想的です。

飲食店の売却は、メリットだけでなく、注意すべきリスクも存在します。特に居抜き売却や営業中のM&A活動では、特有のトラブルが発生しがちです。事前に注意点を把握し、対策を講じておくことで、円滑で安全な取引が可能になります。安易な判断や準備不足が、後々の大きなトラブルに発展する可能性があります。
特に居抜き売却の場合、店舗の賃貸借契約が関わるため、物件の貸主(大家)の承諾が絶対条件です。賃借権は勝手に第三者へ譲渡できないため、貸主に無断で売却話を進めても、最終的に貸主が新しい借主との契約を拒否すれば、売買契約そのものが白紙になってしまいます。売却を検討する早い段階で、貸主に居抜き売却の意向を伝え、承諾を得ておくことが不可欠です。
売却を検討している情報が、正式決定前に従業員や取引先、顧客に漏れてしまうと、深刻な事態を招く恐れがあります。従業員は雇用への不安からモチベーションが低下し、離職につながる可能性があります。また、取引先が取引を停止したり、店の評判が落ちて客足が遠のいたりすることも考えられます。売却活動は、信頼できるM&A仲介会社を通じて、秘密裏に進めるのが鉄則です。
飲食店の価値は、決算書に記載される資産だけではありません。長年かけて開発した秘伝のレシピ、常連客の顧客リスト、地域でのブランドイメージといった「帳簿に載らない資産(無形資産)」こそが、競争力の源泉です。
売却交渉の際は、これらの無形資産の価値を具体的にリストアップし、売却価格に正しく反映させるよう主張することが重要です。 これらの価値が買い手に伝われば、より高い価格での売却が期待できます。
売買契約においては、口約束は絶対に避けるべきです。どの厨房機器を引き継ぐのか、食材の在庫はどうするのか、従業員の処遇はどうなるのかなど、合意した内容は些細なことでも全て書面に残す必要があります。後になって「言った」「言わない」のトラブルに発展するのを防ぐため、最終契約書や覚書に詳細な条件を明記しましょう。特に、故障しやすい機器の状態や修繕義務の所在については、明確に定めておくことが肝心です。

飲食店の売却、特にM&Aを成功させるためには、専門知識と経験が豊富なパートナー(仲介会社)選びが最も重要です。仲介会社は、自社の価値を正しく評価し、最適な買い手を見つけ、複雑な交渉を円滑に進めるための羅針盤となります。数多くの仲介会社の中から、自社に最適な一社を見極めるための5つの視点を紹介します。
M&A仲介会社には、全業種を扱う大手から、特定の業界に特化したブティック型までさまざまです。飲食店業界には、許認可の取り扱いや無形資産の評価など、特有の商慣習や論点が存在します。そのため、飲食店業界のM&Aに関する専門知識や成功実績が豊富な仲介会社を選ぶことが望ましいです。業界に精通していれば、価値を正しく評価し、業界内の広いネットワークから最適な買い手候補を見つけてくれる可能性が高まります。
仲介会社に相談すると、まず企業価値の簡易査定が行われます。このとき、ただ高い査定額を提示するだけでなく、その金額に至った算出根拠を明確に説明してくれるかを確認しましょう。納得のいく客観的な根拠を示してくれる仲介会社は、企業価値を正しく評価する能力が高いと判断できます。 あいまいな根拠で高値だけをアピールする会社は、契約後に売却価格の引き下げを求めてくる可能性もあるため注意が必要です。
より良い条件で売却するためには、できるだけ多くの買い手候補の中から最適な相手を見つけることが重要です。仲介会社がどれだけ広く、質の高い買い手候補のネットワークを持っているかは、必ず確認すべきポイントです。 大手企業だけでなく、事業拡大を目指す中小企業や、新規参入を狙う異業種の企業など、多様な販路を持っている仲介会社ほど、思いがけない好条件の相手が見つかる可能性があります。
長期間にわたる売却活動を二人三脚で進める上で、担当者との相性は非常に重要です。M&Aに関する専門知識や経験はもちろんのこと、自社の事業内容や売却理由に真摯に耳を傾け、親身に相談に乗ってくれるかも見極めましょう。レスポンスの速さや丁寧さ、話しやすさなど、コミュニケーションが円滑に取れる信頼できる担当者でなければ、大切な会社の売却は任せられません。
M&Aは、契約を締結して終わりではありません。従業員や取引先、店舗運営をスムーズに買い手へ引き継ぐ「PMI(Post Merger Integration)」と呼ばれる統合作業が非常に重要です。契約後の引き継ぎまで手厚くサポートしてくれる体制が整っているかどうかも、仲介会社選びの重要な基準となります。 売り手と買い手の双方が「良いM&Aだった」と思えるよう、最後まで責任を持って伴走してくれる会社を選びましょう。

ここでは、飲食店の売却を検討されている経営者の方から、特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。赤字経営や売却期間、リース物件の取り扱いなど、具体的な疑問を解消するためにお役立てください。多くの方が抱く共通の悩みであり、事前に知っておくことで不安を軽減できます。
はい、赤字であっても売却できる可能性は十分にあります。買い手は、現在の赤字という状況だけでなく、将来性や潜在的な価値も評価します。例えば、立地が非常に良い、独自の技術や人気レシピがある、特定の顧客層から強い支持を得ているといった場合、買い手側のノウハウで黒字化できると判断されれば、売買が成立します。赤字だからと諦めずに、まずは専門家に相談することが重要です。
売却方法によりますが、一般的にM&Aの場合は半年~1年以上、居抜き売却の場合は1ヶ月~半年程度が目安です。M&Aは、買い手探しからデューデリジェンス、契約交渉など多くの工程を踏むため、時間がかかります。居抜き売却は、買い手が見つかり次第、比較的スムーズに話が進むことが多いですが、こちらも希望条件に合う買い手がすぐに見つかるかどうかに左右されます。
リース物件の扱いは、リース会社との契約内容によって決まります。一般的な選択肢として、
といった方法が考えられます。まずはリース契約書を確認し、リース会社に相談する必要があります。
本記事では、飲食店の売却について、M&Aと居抜き売却という2つの方法を軸に、相場、手順、高く売るコツ、注意点を網羅的に解説しました。飲食店の売却は、単に店を手放すことではなく、これまで育ててきた事業の価値を未来につなぎ、経営者自身が次のステップへ進むための重要な経営戦略です。正しい知識を持って計画的に準備を進め、信頼できる専門家をパートナーに選ぶことが、納得のいく売却を実現する鍵となります。
DYMコンサルティングでは、飲食店業界のM&Aに精通した専門家が、お客様の状況に合わせた最適な売却戦略をご提案します。秘密厳守で無料相談を承っておりますので、飲食店の売却に関するお悩みやご不安があれば、まずはお気軽にご連絡ください。
「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。