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残業代の適切な管理は、企業の法令遵守と労働者の満足度向上の両面で重要です。しかし、複雑な労働法規や多様な雇用形態に対応した正確な計算は、多くの企業にとって悩みの種となっています。残業代の計算ミスは、労使トラブルや罰則のリスクを高めるだけでなく、企業の評判にも影響を与えかねません。
本記事では、経営者や人事担当者が知っておくべき残業代計算の基本と注意点を解説します。残業代の算出方法について知りたい方にも有益な内容となっていますので、適切な労務管理にぜひお役立てください。
<この記事で紹介する3つのポイント>
残業とは、企業が定めた通常の勤務時間を超えて労働することを指します。多くの場合は、業務量の増加や納期の厳守などの理由で発生する時間外の労働時間です。
残業には法定内残業と法定外残業があり、それぞれに適切な管理と対価の支払いが求められます。残業の理解には、所定労働時間と法定労働時間の概念を把握することが重要です。
所定労働時間は、企業が独自に設定する労働者の標準的な勤務時間です。就業規則や雇用契約書に明記されて、通常は法定労働時間の範囲内で定められます。例えば、9時から17時までの勤務で1時間の休憩がある場合、所定労働時間は7時間となります。
所定労働時間は企業によって異なり、フルタイム労働者の場合は、一般的に1日7〜8時間、週35〜40時間程度に設定されるケースが多いです。パートタイム労働者の場合は、より短い時間で設定されることがあります。
所定労働時間を超えて働く場合は、その超過分が残業となります。ただし、所定労働時間を超えても法定労働時間内であれば、必ずしも割増賃金の支払い義務は生じません。
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限です。原則として1日8時間・週40時間と定められており、これを超える労働は法律上の残業(時間外労働)となります。
所定労働時間との主な違いは、以下のとおりです。
法定労働時間を理解することにより、労働者の権利保護や適切な労務管理が可能です。
参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」2019.4
残業には、法定労働時間を基準として2種類存在します。
法定時間内残業と法定時間外残業の違いを理解することは、適切な労務管理や残業代の計算において重要です。それぞれの特徴について以下に説明します。
法定時間内残業とは、所定労働時間を超えて働くものの、法定労働時間(1日8時間、週40時間)内に収まる残業を指し、労働基準法上の「残業」には該当しません。
法定時間内残業の特徴は、以下のとおりです。
ただし、就業規則や労働契約で残業代の支払いが定められている場合は、規定に従う必要があります。多くの企業では、労働者のモチベーション維持や公平性の観点から法定時間内残業にも手当を支給しています。
法定時間外残業(時間外労働)は、法定労働時間を超えて行われる残業を指し、労働基準法で定められた残業です。企業側には以下の義務が生じます。
法定時間外残業には上限規制があり、原則として月45時間・年360時間を超えてはいけません。特別条項を設けた場合でも、年720時間を超えるのは違反です。
法定時間外残業の規制は、労働者の健康を守り、ワークライフバランスを確保するために設けられています。企業は、適切な労務管理を行って過度な残業を防ぐ必要があるのです。
参考:厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」2018.9
労働基準法では、特定の条件下で働く労働者に対し、通常の賃金に上乗せして支払う割増賃金が定められています。主な割増賃金は、以下のとおりです。
上記の割増賃金は、労働者の権利を守り、過度な労働を抑制する役割を果たしています。
以下にそれぞれの種類と割増率について詳しく説明します。
時間外手当(残業手当)は、法定労働時間を超えて働いた場合に支払われる割増賃金です。割増率は以下のように定められています。
時給1,000円の労働者が2時間の残業をした場合、残業代は1,000円×2時間×1.25=2,500円となります。1カ月60時間を超える残業の割増率50%以上は、労働者の過重労働を防ぐために設けられた規定です。企業は、労働者の健康管理と適切な労務管理に注意しなければいけません。
休日手当は、法定休日に労働した場合に支払われる割増賃金です。法定休日とは、労働基準法で定められた週1日または4週4日の休日を指します。割増率は以下のとおりです。
時給1,000円の労働者が法定休日に6時間働いた場合、休日手当は1,000円×6時間×1.35=8,100円となります。休日労働は労働者の心身に大きな負担をかけるため、できる限り避けるべきでしょう。やむを得ず休日労働を行う場合は、代休の付与など、労働者の健康に配慮した対応が求められます。
深夜手当は、深夜時間(午後10時から午前5時まで)に労働した場合に支払われる割増賃金です。割増率は以下のとおりです。
時給1,000円の労働者が深夜2時間働いた場合、深夜手当は1,000円×2時間×1.25=2,500円です。
深夜労働が時間外労働や休日労働と重なる場合は、それぞれの割増率を加算して計算します。法定労働時間を超えた深夜残業の場合、割増率は50%(25%+ 25%)以上となります。
深夜労働は労働者の生活リズムを乱す可能性があるため、必要最小限に抑えることが望ましいでしょう。
参考:厚生労働省「しっかりマスター労働基準法 割増賃金編「残業手当」「休日手当」「深夜手当」」2018.9
残業代の計算方法は、労働者の給与形態によって異なります。適切に残業代を支払うことは、労働者の権利を守り、公平な労働環境を維持するために重要です。次からは、主な給与形態ごとの残業代の計算方法について説明します。
時給制の残業代の計算式は、以下のとおりです。
残業代 = 時給 × 残業時間 × 割増率
時給1,000円の労働者が2時間の残業(割増率25%)をした場合は、以下の計算になります。
1,000円 × 2時間 × 1.25 = 2,500円
時給制の場合は、残業代の基礎となる賃金が明確なため計算が容易です。
なお、深夜労働や休日労働の場合は、それぞれの割増率を適用する必要があります。また、みなし残業(固定残業)制度を採用している場合は、実際の残業時間がみなし残業時間を超えた分について別途計算が必要です。
日給制の残業代計算では、時間当たりの賃金(時間単価)を算出する必要があります。計算式は以下のとおりです。
日給10,000円、1日の所定労働時間が8時間の労働者が2時間の残業(割増率25%)をした場合、計算は以下のようになります。
日給制の場合、1日の所定労働時間を超えた分が残業となります。ただし、法定労働時間(1日8時間)を超えない場合は、必ずしも割増賃金を支払う必要はありません。
月給制の残業代計算は、時間当たりの賃金(時間単価)を算出する必要があります。計算式は以下のとおりです。
月給250,000円、1カ月の平均所定労働時間が160時間の労働者が20時間の残業(割増率25%)をした場合、計算は以下のようになります。
月給制の場合、残業代の計算基礎となる賃金から、住宅手当や家族手当などの除外すべき手当を控除する必要があります。みなし残業制度を採用している場合は、実際の残業時間がみなし残業時間を超えた分について別途計算が必要です。
年俸制の残業代計算は、月給制と同様の方法で行います。年俸を12で割って月額に換算し、それをもとに時間単価を算出します。計算式は以下のとおりです。
年俸600万円、1ヶ月の平均所定労働時間が160時間の労働者が20時間の残業(割増率25%)をした場合の計算は、以下の計算を参考にしてください。
年俸制の場合、残業代が年俸に含まれているとみなされることがありますが、法律上は別途残業代を支払う必要があります。なお、管理監督者については、残業代の支払い義務が免除される場合があります。
歩合制の残業代計算は、基本給と歩合給を合わせた総支給額をもとに時間単価を算出します。計算式は以下のとおりです。
基本給150,000円、歩合給100,000円、1カ月の平均所定労働時間が160時間の労働者が20時間の残業(割増率25%)をした場合の計算は、以下の計算を参考にしてください。
歩合制の場合、歩合給の変動によって残業代の計算基礎となる賃金も変動するため、毎月の歩合給に応じて残業代を再計算する必要があります。このとき、最低賃金を下回らないように注意しましょう。
参考:厚生労働省「割増賃金の計算方法」
残業代の計算は、通常の勤務形態以外の働き方にも対応する必要があります。
特殊な勤務形態や雇用条件下における残業代計算では、それぞれ独自の考え方が必要です。特殊なケースにおける残業代計算の考え方について、以下で説明します。
フレックスタイム制とは、一定の範囲内で労働者が始業・終業時刻を自由に選択できる勤務形態です。フレックスタイム制での残業代計算は以下の考え方になります。
1カ月の法定労働時間が160時間の場合、実労働時間が180時間であれば、20時間分が残業です。フレックスタイム制では、労働者の自己管理能力が求められますが、同時に企業側も適切な労働時間管理を行う必要があります。また、過度な長時間労働を防ぐためには、コアタイムや上限時間の設定などの工夫が重要です。
参考:厚生労働省「フレックスタイム制の適正な導入のために」2014.3
管理職(管理監督者)の残業については、労働基準法上の規定が一部適用除外となります。主な特徴は以下のとおりです。
ただし、以下の点に注意が必要です。
管理職の定義や処遇については企業の裁量が大きいものの、実態を伴わない「名ばかり管理職」は法的問題になる可能性があります。そのため、適切な権限と責任、処遇を伴う管理職の設定が重要です。
参考:厚生労働省「労働基準法における労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」2008.10
みなし残業は、あらかじめ一定時間の残業を想定し、基本給とは別に固定の残業代を支払う制度です。主な特徴と注意点は以下の通りです。
月20時間のみなし残業で30,000円のみなし残業代を支払う場合、実際の残業が25時間であれば、5時間分の追加残業代を支払う必要があります。
みなし残業制度は、残業代の計算を簡素化できるメリットがありますが、実態と乖離したみなし残業時間の設定や、追加残業代の不払いなどのトラブルが発生しやすい点に注意が必要です。また、労働基準監督署の指導対象となることもあるため、適切な運用が求められます。
参考:厚生労働省「労働条件をめぐる悩みや不安・疑問は 労働条件相談 ほっとラインへ」
残業代の計算は以下の注意点を守りながら、労働法規に基づいて正確に行う必要があります。適切な残業代の支払いは、労働者の権利を守り、労使間のトラブルを防ぐ上で重要です。
不明な点がある場合は、労働基準監督署や社会保険労務士に相談することをおすすめします。以下では、残業代を計算する際の主な注意点について説明します。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える残業を行わせる場合、企業は労働者の過半数代表と「36協定」を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定で締結する主な内容は、以下のとおりです。
36協定を締結せずに法定外残業をさせると、労働基準法違反となり、罰則の対象となる可能性があります。また、36協定で定めた上限時間を超えて残業をさせることも違法です。
2019年4月より、働き方改革関連法が施行され、36協定で定める時間外労働の上限が厳格化されました。原則として、月45時間・年360時間を超えてはいけません。特別条項を設けた場合でも、年720時間を超えてはいけません。
残業代の計算は労働者の権利を守り、正確な賃金支払いを行うため、原則として1分単位で行う必要があります。
主な注意点は、以下のとおりです。
1日の残業時間が8分の場合は、8分として計算して月末に合計します。8分の残業が20日間あった場合では、8分×20日=160分(2時間40分)です。
参考:厚生労働省「労働時間の「切り捨て」はダメ!~適切な端数処理をしましょう~」2022.10
2010年4月から、1カ月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。この規定の主なポイントは、以下のとおりです。
月80時間の残業をした場合、60時間までは25%、残りの20時間は50%の割増率で計算します。この規定は、長時間労働を抑制し、労働者の健康を守ることを目的としています。企業には労働時間の管理を徹底し、過度な残業を防ぐ取り組みが求められます。割増賃金の支払いに代えて、代替休暇を付与することも可能です。
参考:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」2022.4
残業代の計算基礎となる賃金には、原則としてすべての賃金が含まれますが、一部の手当は除外されます。
主に除外される手当は、以下のとおりです。
これらの手当を除外した金額をもとに、残業代の計算を行います。
例えば、基本給200,000円、家族手当10,000円、通勤手当15,000円の場合、残業代計算の基礎となる賃金は、家族手当と通勤手当を除外した200,000円です。
ただし、名目上は除外手当であっても、実態によっては残業代計算に含める必要があるケースも存在します。例えば、住宅手当であっても実質的に基本給の一部と認められる場合や、通勤手当が実費を大きく上回る場合などです。
参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」
最後に、残業代の計算についてよくある質問に回答します。残業代を正確に理解することは、公正な労働環境の維持と法令遵守につながるため、参考にしてみてください。
残業代も課税対象となります。残業代は給与所得の一部として扱われるため、以下の税金や社会保険料の対象となります。
残業代に対する課税は、通常の給与と合算して計算されます。月給30万円で残業代が5万円の場合、課税対象となる金額は合計金額の35万円です。
残業代を計算するためのツールは多数存在します。主に以下のツールがあります。
残業代を計算するツールは便利ですが、あくまで参考値であることに注意しなければいけません。正確な残業代計算には、企業の就業規則や労使協定、個別の雇用契約の内容を考慮する必要があります。
また、法改正にも注意を払い、最新の計算方法に基づいているか確認しましょう。複雑なケースや大規模な計算が必要な場合は、専門家や社会保険労務士に相談することをおすすめします。
残業代計算は、労働法規に基づいて正確に行う必要があり、企業と労働者にとって重要な課題です。法定労働時間を超える残業には36協定の締結が必須であり、1分単位での計算や月60時間超の割増率引き上げなど、細かな規定にも注意が必要となります。
残業代の課税対象や計算ツールの活用など、実務的な側面も理解しておくことも大切です。適切な残業代管理は、労使間のトラブル防止や労働者の権利保護につながります。
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