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運送業界では2024年問題や後継者不足が深刻化し、M&Aが経営課題解決の有効な手段として注目されています。本記事では、運送業を営む中小企業の経営者や後継者がM&Aを検討する際に押さえておくべき「メリット」「注意点」「仲介会社の選び方」を体系的に解説。将来の事業承継や成長戦略を考える方にとって、実行判断の参考となる具体的な情報を得られます。
<この記事で紹介する3つのポイント>
目次
運送業界では近年、M&Aが急速に増加しています。その背景には、業界が直面する構造的な課題が深く関わっています。経営者の高齢化に伴う後継者不足、2024年4月から施行された働き方改革関連法による労働時間規制、そして燃料費の高騰とデジタル化への対応の遅れという三つの大きな要因が、企業の存続と成長を脅かしているのです。
これらの課題は個別の企業努力だけでは解決が困難であり、M&Aという戦略的な選択肢が注目を集めています。実際に、事業承継や経営基盤の強化、リソースの確保を目的としたM&Aが活発化しており、業界全体の再編が進んでいます。以下では、運送業界でM&Aが急増している三つの主な理由について詳しく解説します。
運送業界における後継者不足は年々深刻さを増しています。全日本トラック協会の調査によると、60代以上の経営者が全体の3割以上を占めており、そのうち約6割は後継者が決まっていない状況です。東京商工リサーチのデータでは、運輸業の後継者不在率は2022年に55.8%となり、前年の54.6%から1.2ポイント上昇しました。
特に注目すべきは、休廃業や解散した企業のうち、約6割が黒字企業であるという事実です。これは、事業自体は健全であるにもかかわらず、後継者がいないために廃業を選択せざるを得ない企業が多いことを示しています。長年築いてきた顧客基盤や従業員の雇用、そして地域の物流インフラを支える役割が失われることは、経済全体にとっても大きな損失となります。
このような状況下において、M&Aは事業承継の有効な解決策として注目されています。第三者への事業譲渡により、企業の存続と発展が図られ、従業員の雇用維持や取引先との関係継続も可能となるのです。
2024年4月1日から施行された働き方改革関連法により、自動車運転業務の時間外労働が年960時間に制限されました。この規制により、ドライバーの時間外労働が制限され、会社の売上や利益が減少するリスクが顕在化しています。厚生労働省の予測では、2028年度には約27.8万人のドライバー不足が発生すると見込まれており、人材確保が急務となっています。
特に中小規模の運送会社への影響は深刻です。全日本トラック協会の報告によると、車両保有台数が10台以下の事業者は経常利益率がマイナスの状態が続いており、規制への対応がさらなる経営圧迫要因となっています。長時間労働で収益を確保してきた従来のビジネスモデルは通用しなくなり、業務効率化や労働環境の改善が不可欠となりました。
こうした環境変化に対応するため、M&Aを通じて経営資源を統合し、規模の経済を実現する動きが加速しています。大手企業の傘下に入ることで、労務管理体制の整備や設備投資が可能となり、規制への適応力を高めることができるのです。
原油価格の高騰により、軽油などの燃料価格が上昇し、運送事業者の収益を直接的に圧迫しています。中小企業庁の調査によれば、トラック運送業のコスト上昇分に対する価格転嫁率は全業種中で最も低い19.4%であり、多くの事業者が燃料費の上昇分を運賃に反映できていません。実際に、燃料価格と道路貨物運送業の倒産件数の推移には相関関係が見られ、経営への影響は深刻です。
さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応も大きな課題となっています。国土交通省は物流DXを推進していますが、中小事業者にとっては資金力の問題に加え、社内でIT導入に対応できる人材がいないことも障壁となっています。配車管理システムや運行管理のデジタル化は業務効率化に不可欠ですが、個別企業での導入は困難な状況です。
これらの課題を背景に、M&Aによる業界再編が進んでいます。資本力のある企業との統合により、燃料の共同調達によるコスト削減や、DX投資の実現が可能となり、競争力の強化につながっています。
運送業界のM&Aは、売り手・買い手双方にとって経営課題を解決する有効な手段となっています。売り手企業は後継者問題の解決や事業の継続を実現でき、買い手企業は人材や車両などの経営資源を効率的に獲得できます。
M&Aは単なる企業売買ではなく、双方の課題を解決し、シナジー効果を生み出す戦略的な選択です。以下では、売り手と買い手それぞれの視点から、運送業界のM&Aがもたらす具体的なメリットを詳しく解説します。
運送業界でM&Aを選択する売り手企業には、事業承継の実現、雇用の維持、経営基盤の強化という三つの大きなメリットがあります。後継者不在や経営環境の悪化に直面する中小運送会社にとって、M&Aは企業の存続と発展を可能にする重要な選択肢です。以下では、それぞれのメリットについて具体的に解説します。
後継者問題に悩む運送会社にとって、M&Aは事業承継の有効な解決策となります。第三者への事業譲渡により、後継者を探したり育成したりする必要がなくなり、事業を継続することができます。長年築いてきた事業価値や地域での役割を維持しながら、次世代へ確実に引き継ぐことができるのです。
M&Aにより事業を継続することで、従業員の雇用が維持されるとともに、取引先との関係性も維持されます。廃業を選択した場合、従業員は職を失い、取引先にも大きな影響を及ぼすことになりますが、M&Aではこれらの問題を回避できます。また、経営体力のある企業への譲渡により、むしろ従業員の労働環境改善や取引条件の向上も期待できるでしょう。
一定の資本力を有する大手・中堅企業のグループ会社となることで、設備投資やシステム投資、専門人員による労務管理体制の整備などが可能となります。安定した経営基盤を確保することで、単独では困難だった2024年問題への対応や、DX化の推進も実現できます。資金調達力の向上により、事業拡大の機会も広がるでしょう。
運送業界でM&Aを実施する買い手企業は、人材と設備の確保、事業エリアの拡大、規模の経済によるメリットを享受できます。特に2024年問題でドライバー不足が深刻化する中、M&Aは短期間で経営資源を獲得する有効な手段となっています。以下では、買い手の主なメリットについて詳しく説明します。
すでにトラックを保有し、ドライバーを雇用している会社を買収することで、一から顧客開拓や人員・設備の確保を行う手間が省けます。採用コストや車両購入費用を削減できるだけでなく、経験豊富なドライバーと整備された車両を即座に事業に活用できます。時間とコストを大幅に節約しながら、事業拡大を実現できるのです。
譲渡企業が培ってきた経営資源を獲得することで、時間とコストを抑えて、他エリアへの参入、シェアの拡大、商圏の拡大を図ることができます。地域に根付いた顧客基盤や配送ネットワークをそのまま引き継げるため、新規参入のリスクを最小限に抑えながら、事業領域を効率的に拡大することができます。
同業種の企業間でM&Aを行えば、燃料の調達や外注の共通化が可能になり、原価圧縮による収益性向上が期待できます。また、グループ全体で交渉を行うことで、荷主や元請企業に対する不利な立場からの脱却を図りやすくなります。規模の経済を活かし、運営コストの削減と価格交渉力の強化を同時に実現できるのです。
運送業M&Aを成功させるためには、トラック運送業特有の事情を踏まえた慎重な準備と検証が不可欠です。企業価値評価において押さえておくべき事柄や、交渉・手続きを進めるうえで重要な点を事前に把握することで、M&A後のトラブルを防ぐことができます。
売り手は従業員への配慮や労務管理体制の整備が求められる一方で、買い手は人材や設備の実態を詳細に調査する必要があります。以下では、双方が注意すべき具体的なポイントを解説します。
運送業M&Aを進める売り手企業は、従業員への配慮、労務管理体制の整備、業務体制の見直しが重要な課題となります。これらの準備が不十分だと、M&Aの交渉が難航したり、成約後にトラブルが発生したりする可能性があります。以下では、売り手側が注意すべき三つのポイントを詳しく説明します。
検討中の情報漏洩を防止することはもちろん、M&Aの告知を行う際にも十分な注意と慎重な対応が必要です。従業員の退職やモチベーション低下を防ぐためには、M&Aが必要だった理由や雇用条件への影響についての丁寧な説明が不可欠です。アドバイザーと相談の上で告知シナリオを作成し、適切な伝え方やタイミングを検討しましょう。
中小規模のトラック運送企業では、コンプライアンスの徹底が不十分であるケースも見受けられます。時間外労働の管理状況や未払残業代の有無など、労務管理が適切に機能しているかどうかを確認することが重要です。買収監査で労務管理上の問題が発覚すると、評価が下がったり破談になったりする可能性があるため、事前の整備が不可欠です。
取引先や外部の協力業者への営業活動をを現経営者が一手に担っているなど、経営者個人への業務の依存度が高い傾向があります。こうした業務の属人化を解消して組織体制を整えておくことで、円滑な引継ぎが可能となります。重要な業務を文書化し、複数の従業員で対応できる体制を構築することが、M&A成功の鍵となるでしょう。
運送業M&Aを検討する買い手企業は、人材、設備、収益性の三つの観点から詳細な調査を行う必要があります。表面的な数字だけでなく、実態を正確に把握することが、M&A後の事業運営の成否を左右します。以下では、買い手が重点的に確認すべきポイントについて解説します。
トラックドライバーの人数・年齢構成、勤続年数(定着率)の確認は必須です。組合加入者の有無も重要な確認事項となります。高齢化が進んでいる場合は近い将来の大量退職リスクがあり、定着率が低い場合は労働環境に問題がある可能性があります。人材の質と量を正確に把握することが、M&A成功の前提条件です。
車両の台数・車両総重量・年式・走行距離に加え、整備状況の確認が重要です。設備面においては、車両のほかにガソリンタンクの状態も確認しましょう。万が一破損がありガソリンが流出していれば、土壌汚染への対策コストも発生します。車両の実態を詳細に調査することで、追加投資の必要性を正確に見積もることができます。
荷主の構成、配送ルート・エリア、元請け比率、庸車比率の度合いを確認します。トラックの実働率・実車率・積載率なども重要な指標です。現在の収益性だけでなく、配送エリアや拠点の立地も踏まえてM&A後の事業計画への影響を評価する必要があります。取引条件の改善余地があるかどうかも、買収判断の重要な要素となるでしょう。
運送業のM&Aを成功に導くためには、適切な仲介会社の選定が重要です。物流・運送業のM&Aに詳しい専門家は、業界特有のリスクを把握しており、交渉を進める前に的確なアドバイスを提供できます。M&Aアドバイザーは最後までサポートし、告知シナリオの作成から交渉まで幅広く支援します。仲介会社選びでは、業界の専門性、料金体系、担当者との相性という三つの観点から検討することが大切です。以下、それぞれのポイントを詳しく解説します。
物流・運送業のM&Aに詳しい専門家であれば、想定されるリスクを把握しているため、交渉を進める前に的確なアドバイスを提供できます。運送業界に特化した仲介会社は、財務内容だけでなく、運送会社特有の要素である立地、トラック、荷主、ドライバー、安全などにも重点を置いたM&Aを提案できます。実績が豊富な仲介会社やアドバイザーは、業界の商習慣や課題を深く理解しており、最適な相手企業とのマッチングを実現します。
M&A仲介会社を選ぶ際は、料金体系の透明性を確認することが重要です。完全成功報酬型を採用している会社では、希望条件のヒアリングからの提案や会社の売却金額の査定などは無料で受けられます。着手金の有無、成功報酬の算定方法、追加費用の可能性など、事前に明確にしておくことで、予期せぬ費用負担を避けることができます。料金体系が明確な仲介会社を選ぶことで、安心してM&Aを進められるでしょう。
M&Aの交渉は一人では進められません。M&Aアドバイザーが最後までサポートし、成功に導きます。アドバイザーと相談の上で告知シナリオを作成し、適切な伝え方やタイミングなども十分に検討する必要があります。担当アドバイザーがアドバイザリーの立場で成立まで話し合いをしながら徹底サポートしてくれるかどうかが重要です。信頼関係を築ける相性の良いアドバイザーを選ぶことが、M&A成功の鍵となります。
運送業界は2024年問題、後継者不足、燃料費高騰という三重の課題に直面しており、M&Aが有効な解決策として注目されています。事業承継の実現、経営基盤の強化、人材や車両の効率的な確保など、売り手・買い手双方に明確なメリットが存在するため、業界全体でM&Aが急増しているのです。
M&Aを成功させるためには、労務管理の整備や車両の実態把握など、運送業特有の注意点を押さえることが不可欠です。業界に精通した仲介会社を選び、専門的なサポートを受けることで、リスクを最小限に抑えながら最適な相手企業とのマッチングを実現できます。運送業界の構造的な課題は、個別企業の努力だけでは解決が困難です。M&Aという戦略的な選択により、企業の存続と発展を図ることができるでしょう。
DYMのM&Aコンサルティング事業では、5,000社超のオーナー経営者ネットワークを活用し、運送業界に最適なM&Aソリューションを提供しています。運送業のM&Aをご検討の際は、ぜひDYMのM&Aコンサルティングをご活用ください。
「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。