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M&Aとは日本語で「合併と買収」という意味です。さまざまなM&A手法があり、成功によって得られるメリットも異なります。この記事では、M&Aとは具体的にどのようなことを意味するのか、手法ごとの流れやメリット、成功ポイントを解説します。
目次
M&A(エムアンドエー)とは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略です。M&Aの意味は、文字通り「企業の合併・買収」のことで、2つ以上の会社がひとつになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)です。つまり、企業または事業の全部または一部の移転を伴う取引を指し、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。M&Aと聞くと、以前は外資系企業やファンド(ハゲタカ)が会社を乗っ取るというある種「負」のイメージもありましたが、近年においては、企業が既存事業を強化したり、新規事業を自前で育てるのではなく、既に事業として成立しているものを買収するなど、企業の「成長戦略の手段」としての意味合いが強くなってきています。
売却、買収のそれぞれの立場におけるM&Aの目的について、解説します。買い手サイドは事業の強化、新規事業の獲得、既存事業とのシナジー発揮が主な目的となります。売り手サイドは後継者不在による事業承継、経営強化、創業者利益の享受が主な目的となります。それぞれ、詳しく解説します。
▼既存事業の規模の拡大や強化
M&Aによる既存事業の拡大は、自社の弱みを補い、強みを最大化するような相乗効果(シナジー)の実現が期待できます。M&Aにより新たな事業エリアを開拓することで、既存のノウハウや資金力では限界があった事業の収益性アップも見込むことができます。また、M&Aにより、顧客基盤も手にいれることが可能なことから、既存事業の新たな顧客獲得につなげることも可能になります。
▼ライバル企業の買収
M&Aの活用により業界内の市場シェアを拡大し、自社のブランド力を高めることで、その後の事業拡大での優位性を高めることができます。シェアの拡大には、ライバル企業と熾烈な競争をしつつ画期的な新製品やサービスなどを開発、発売しなくてはなりませんが、そういったプロセスは当然、競合他社も積極的に取り組んでいます。
一方で、日本国内の多くの市場はすでに成熟し、今後は縮小していくことが予測されているため、特定の企業が新製品や新サービスの開発などでシェアを拡大させることは困難ともいわれています。そのため、シェアを広げる方法としてM&Aによるライバル企業の買収などによる戦略は有効な手法となっています。その好例が、教育業界でありました。
少子化が進み子どもの数そのものは減少傾向にありますが、子ども一人あたりにかける教育費は増えています。しかし将来的な少子化の影響は避けられないため、教育業界では生き残りのための業界再編が進んでいます。教育業界におけるリーディングカンパニーであるベネッセホールディングスは、2006年にお茶の水ゼミナールを買収し、さらに2007年には東京個別指導学院を連結子会社にしています。
▼海外進出
少子高齢化により、日本国内の生産人口は減少し続けています。成長率の高い国外の市場を求めて海外進出を志向している企業では、M&Aを足掛かりにするケースが増えています。外国の企業とM&Aをする「クロスボーダーM&A」で海外の同業を買収することにより、国外の取引先や新しい技術の獲得などのメリットがあります。また、新興国などに展開することで、人件費や原材料費などを抑えることができるほか、日本より税率が低い国や地域へ進出により法人税などを削減することも可能になります。
▼新規事業への参入
新規事業参入時には、新たに設備投資や工場用地の取得といった大きな手間や労力、資金など、膨大なリソースが必要になります。ゼロから新規に事業参入するよりも、M&Aで既存の事業やこれまでの自社組織では持っていなかったようなリソースを既に有している企業を買収することで、自社の成長に必要な新しい研究開発の能力や新製品開発のパイプラインなどを確実に得ることが可能になります。また、M&Aにより買収先の人材を確保することで、展開したい事業や将来的に伸ばしたい事業に精通している人材を効率的に獲得できるという、人材確保面でのメリットもあります。
▼後継者不在に伴う、事業承継
地方などの中小企業や後継者不足に悩まされている企業が、代替わりの際にM&Aを活用することが増えています。株式譲渡により自社の事業を第三者に譲渡することで、廃業せずに法人として存続でき、思い入れのある事業を継続させることができるようになっています。また、従業員の雇用継続という点からも、自社にとっては不採算事業であっても、M&Aで売却することによって、その事業に従事する従業員の雇用を確保することができます。特に、サービス業やコンサルティング業などの労働集約的なビジネスでは、人材は最も重要な資産。雇用継続や待遇維持は、優秀な人材流出を防ぐための有効な手法になります。
▼事業の選択と集中(事業整理)
新型コロナウイルスの感染拡大以降のM&Aで多いのは、事業ポートフォリオの整理に伴うM&Aです。売り手にとっては経営のスリム化、また不採算事業やノンコア事業を整理するため、プライベートエクイティファンドや競合他社に売却することが一般的です。これは不確実な経営環境のなか、自社のコア事業への注力やキャッシュの獲得、競争力のある事業に対する投資を加速させることが目的であると考えられます。
▼創業者利益の享受
創業者やオーナー系企業の事業のイグジットの場合、最適なタイミングでプライベートエクイティファンドや同業他社などに譲渡することで、多額のキャッシュを得ることができ、利益を確保できます。スタートアップ企業がイグジットとして、株式を上場させずに、M&Aで会社を売却することで、創業者が利益を獲得するケースもあります。
メリット① スピーディーな事業展開
新規事業に参入したり、既存事業を拡大させようとした場合、事業計画の段階から事業を軌道に乗せるまでには、膨大な時間とコストがかかります。例えば、土地や建物、設備、資材、人員など、リソースが膨大です。また、事業を運営するためのノウハウを蓄積し、従業員を育成し、さらに、取引先を開拓していく必要があり、時間とコストがかかります。
しかし、M&Aで、すでにその事業を行っている企業を買収すると、これらのリソースがまとめて手に入り、自社で一から事業に投資する場合と比較して、時間とコスト、さらに、途中で事業が失敗するリスクを大幅に削減することができるメリットがあります。
メリット② 事業規模の拡大
メリット①でもお伝えした通り、M&Aを行うと、売り手側が保有する、不動産や設備といった有形の資産だけでなく、優秀な人材、技術、ノウハウ、流通網、顧客基盤といった無形の資産も取り込むことができます。そのため、M&Aで、同業の企業を買収することで、短期間で事業規模を拡大することができ、さらに、マーケットのシェアも拡大することが可能です。
事業規模が拡大すると、生産量が増え、製品1個あたりのコストが下がるため(規模の経済性)、利益を増大させることができます。また、シェアが拡大すれば、知名度やブランド力が向上し、ライバル企業により大きな差をつけることも可能となります。
メリット③ 事業の多角化・弱点強化
自社の経営戦略や取引先のニーズにマッチした企業をM&Aで買収することで、事業の多角化や弱点強化ができます。買収した企業を足がかりに新規事業へ参入することで、収益の安定化やリスクの分散、さらに、シナジー効果を実現することができます。また、買収により、自社の主要事業のバリューチェーンの中で弱い部分、あるいは、外部へ委託している部分を自社事業として強化することできるため、自社の競争力を上げ、利益を増大させることも可能です。
メリット④ 商圏の拡大
自社とは異なるエリアで事業展開している企業を買収することで、商圏の拡大を狙うことが可能です。自社で新しく拠点を立ち上げるとなると、拠点設置にかかる費用だけでなく、営業体制の見直しや管理部門の調整など様々なコストがかかりますが、M&Aであれば、そういった諸々のコストを削減することができます。また、そのエリアで長年事業を継続してきた企業を買収すれば、独自かつ強固な販路や顧客基盤のほか、エリア特有の事業ノウハウや人材を引き継げることも大きなメリットとなります。
メリット① 事業承継問題の解決
近年、中小企業における経営者の高齢化を背景に、後継者不在に伴う事業承継問題が深刻化しています。M&Aは、子息等の親族や、親族以外の役員・従業員の中に後継者が見つからない、でも、従業員や取引先、コストなどを考えると、廃業も難しいという場合に、事業承継問題を解決するための有効な手段の一つです。第三者に事業を譲渡・売却することで、廃業を防ぎ、事業を継続させることが可能となります。
メリット② 雇用維持・取引維持
M&Aであれば、不動産や設備、従業員、技術、取引先といった全ての資産を引き継ぎ、従業員の雇用や取引先との取引関係を維持することが可能です。廃業を選択すると、従業員は、職を失い路頭に迷ってしまいますし、取引先は、最悪の場合、事業継続が不可能となってしまう可能性もあります。
新たな後継者に事業を承継することで、従業員や取引先への影響を最小限に抑え、迷惑をかけずに引退することができます。
メリット③ 売却による金銭的収入
M&Aにより会社を売却すれば、金銭的なメリット(事業の現金化)を享受することができます。獲得した現金を、残っている借入金の返済や引退後の生活資金に充当し、経営者としてハッピー・リタイアが可能となります。もちろん、企業価値が高く評価されればされるほど、享受できるメリットは大きくなります。一方、廃業・清算する場合は、有形資産を処分する費用や解雇する従業員への補償など、多くのコストがかかります。
メリット④ 経営者というプレッシャーからの解放
特に中小企業では、経営者やその家族が、金融機関借入の連帯保証を負っていたり、個人資産を担保として提供していたりする場合も多くあります。M&Aの成約によって、経営権が買い手側に移動すると、それらの連帯保証や担保提供が解除されるのが一般的です。また、経営者は年齢を重ねるにつれ、事業の承継や自身の健康面などへの不安を抱え、それがプレッシャーとなってしまうことも。M&Aであれば、そういった経営者の責から解放され、リタイア後の生活を楽しむことができます。
メリット⑤ 事業の成長や発展の実現
M&Aにより会社を売却すれば、売上アップやコストダウンなど、買い手側との間で事業上のシナジー効果が期待でき、事業の更なる成長・発展を実現することができます。また、自社よりも規模が大きく、堅実な企業の傘下に入り、その企業が持つ資本やインフラを活用できれば、円滑な資金調達や生産体制の強化、販路の拡大など、自社の弱点を補い、激化する市場競争に勝ち残ることが可能となります。もし、先行きに不安がある事業であれば、M&Aによって従業員に安心や希望を与えることもできます。
売却サイドの注意点としては、従業員の雇用条件の変更や組織文化が合わず、想定のシナジーが出ない可能性もあることに注意が必要です。買収サイドは、想定のシナジーが出ない可能性や簿外債務が発生する可能性、のれんの減損が発生するリスクも考慮しておく必要があります。売り手、買手の双方の立場から、それぞれの注意点を解説します。
最初に、売り手、買い手の双方に共通する注意点について、お伝えします。
M&Aの目的を明確にすることは最も重要といえます。人材不足・後継者問題の解決、事業の拡大・多角化、経営基盤の強化など、M&Aの目的は企業によってさまざまです。達成したい目的によって適したM&A手法は異なるため、目的が不明確なままでは、効果的なM&A戦略を策定・実行することは難しいでしょう。M&Aの先にある目的は何か考え、それに合わせてM&A戦略を考えます。ただし、M&Aの実施自体が目的となってしまうと、M&A後のリスクに備えられないため注意が必要です。
M&Aを実施する相手企業選びにも慎重さが求められます。相手企業を選び間違えれば、業績が悪化する可能性も考えられます。M&Aの成否は、自社と相手企業との関係性に大きく左右されます。両社間でシナジー効果を生み出せれば大きな利益につながりますが、必ずしも上手くいくとは限りません。相手の利点を有効活用できない、自社の欠点をカバーしてもらえない、といった関係性ではM&Aの効果は得られません。それどころか、M&Aによる体制変更で生じたコストだけが残ってしまう可能性もあります。相手企業によってM&Aの成果は大きく異なるため、慎重に選ぶことが、非常に大切です。
M&Aの実施には、ある程度まとまった資金が必要です。そのため、買い手企業・売り手企業に関わらず、必要資金の見積もり・確保は事前に行う必要があります。買い手企業であれば、相手企業を買収するための資金調達が欠かせません。また、M&Aのプロセス・手続きは複雑であるため、専門知識が求められます。そのため売り手企業においても、弁護士や会計士、税理士といった専門家への依頼費は発生することを想定しておく必要があります。相手企業の価値や、自社の状況によって必要資金は異なります。予算を大幅に超過する事態を防ぐためにも、できる限り早期に必要資金の見積もりをとることが大切です。
M&A候補企業との交渉を行う前に、秘密保持契約(NDA)を締結する必要があります。NDAを締結せずに交渉を行ってしまうと、機密情報の漏えいや悪用のリスクが高まります。買い手企業と売り手企業の交渉において、機密情報のやり取りは避けられません。NDAを締結していれば、交渉決裂後に機密情報の漏えいや悪用が発覚した場合でも法的な手続きが可能です。自社の機密情報を保護するために、NDAを締結することをおすすめします。
M&Aには、従業員や取引先、株主など、さまざまなステークホルダーが存在します。M&Aの手続きを本格的に進める前に、ステークホルダーとの意思疎通を図りましょう。理解が得られないままM&Aを実施すると、人材の流出や取引先との関係悪化など、さまざまな問題に発展する可能性があります。
2つの異なる企業が1つに統合されるM&Aは、経営者のみならず多くの関係者に影響を及ぼします。そのため、経営者の一存で意思決定することは避けるのが望ましいです。ステークホルダーにM&Aの狙いや必要性を周知し、事前に理解を得ることが求められます。
次に、売り手(譲渡企業)サイドの注意点について、お伝えします。
売り手企業は、可能な限り企業価値を高めておくことが大切です。売り手企業の価値が低ければ、自社に合った買い手企業を見つけることは難しくなります。企業価値を高めることで、相手企業の選択肢が増えます。また、自社を売却する際の利益の増加も期待できます。
M&Aの契約締結前には、買い手・売り手間でさまざまな情報を共有します。このとき、不利な情報を隠したり、偽ったりすることはしないようにしてください。不利な情報をごまかしてM&Aの契約締結に至ったとしても、後で発覚すれば訴訟に発展するリスクもあります。また、十分なデューデリジェンスを行う買い手企業が相手であれば、簿外債務をはじめとした情報は、すぐに気づかれてしまいます。不利な情報でも隠さず開示することがリスク低減につながります。
売り手企業は、適正な価格を提示するようにしましょう。買い手企業はできる限り少ない資金でM&Aを実現しようと考えます。売り手企業がただ受け身になっているだけでは、買い手企業に低価格で買い叩かれてしまうおそれがあります。自社の企業価値を正確に算出し、その根拠を示せるようにすることが大切です。
譲渡先企業で、給与が下がる、賞与が出ないなどの従業員にとって不利益な雇用条件の変更があれば、退職するリスクが高まります。本来は技術や資格等を有する従業員が、譲渡先企業でも、力を発揮することで、相乗効果が出ますので、譲渡先企業においての、雇用条件の確認を事前にしっかりとしておくことが大切です。
最後に、買い手(譲受企業)サイドの注意点について、お伝えします。
買い手企業は、最終契約の締結前に十分な「デューデリジェンス(DD)」を行いましょう。デューデリジェンスとは、売り手企業の価値やリスクに関して調査を行う、買い手企業側のプロセスです。例えば、売り手企業に高額な債務があった場合、M&A戦略によっては買い手企業が引継ぐことになってしまいます。デューデリジェンスを行えば、こうしたリスクを検出可能です。デューデリジェンスを行う際は、売り手企業の設立当時の状況から綿密に調査する必要があります。また、企業価値算定において、試算が甘い結果、のれんの減損処理を余儀なくされるケースもありますので、デューデリジェンスを踏まえ、適正な企業価値算定が求められます。
M&Aを実施するにあたって、コンプライアンス違反とならないように注意が必要です。例えば、M&Aを実施することで生じる税金について把握していないと、払い漏れにつながる場合があります。コンプライアンス違反となれば、罰則を受けるだけでなく、企業への信頼感を失ってしまうことになりかねないです。コンプライアンスを遵守するには、M&Aを熟知した専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
M&Aの実施後には、両社間の経営統合プロセスである「PMI」を行わなければなりません。PMIとはポスト・マージャー・インテグレーションの略です。M&A(合併・買収)後の統合プロセスを指し、経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなります。PMIとは、当初計画したM&A後の統合効果を最大化するための統合プロセスです。統合の対象範囲は、経営、業務、意識など統合に関わるすべてのプロセスに及びます。このPMIへの準備が不足していると、自社と相手企業のシステムが上手く統合できない、といったトラブルが多発してしまいます。そのため、最終契約を締結する前に、PMIに備えておくことが求められます。具体的には、システム統合や体制変更などの計画を事前に立てておくとよいでしょう。
情報収集~候補社の選定~トップ面談~基本合意書の締結~デューデリジェンス~最終契約の締結までの流れをプロセスごとに解説します。
まずは、相手探しです。「ロングリスト」と呼ばれる、譲受けの候補先リストを作成します。仲介会社の方でロングリストを作成しますが、1案件に対して、少なくとも10社以上の候補先企業が出てきます。その中にはオーナーの知り合い、同業、取引先も含まれていることもあります。この中から、実際にどの候補先企業に提案していくのかをオーナーと仲介会社で決めていきます。提案先が決まれば、「ノンネーム」と言われる、企業が特定できない範囲での情報開示資料を用いて、提案を行い、興味関心の度合いを測ります。その中で、興味をもった企業と秘密保持契約書を交わし、企業概要をはじめ、詳しい情報を開示していきます。興味をもった会社が現れれば、次のステップに進みます。
両社の社長と仲介会社で、トップ面談をおこないます。ここでは、条件交渉をする場というよりは、お互いの人柄にもふれ、創業の経緯や会社の組織風土を知ることに重心が置かれます。オーナー社長の直観も含め、自身が育ててきた会社を託せそうな相手であるかを見極める場となります。通常は1~2時間の面談で、工場見学や職場見学をおこなう場合もあります。このトップ面談を複数社おこなうことも多く、より最適な相手を見つけます。
譲渡企業と譲受企業の両社で、合意がなされた場合は、条件交渉を経て、基本合意の締結に進みます。結婚でいうところの婚約にあたり、ここからは1社と交渉をしていきます。基本合意書は株価や取締役の処遇をはじめとした付帯条件、スケジュール、秘密保持、独占交渉権の内容となっています。この後にデューデリジェンスがありますが、基本的にこの時点で公表している情報や取り決め事項につき、理由なく変更することはできません。基本合意書には法的拘束力があり、しっかりとした両社の話し合いと合意のもと、作成する必要があります。
買収監査と呼ばれるもので、最終契約締結前に、譲受企業が「これまで共有された情報に大きな間違いがないか」を確認する場となります。コストを気にして、自社の経理部門や顧問税理士、公認会計士など、慣れていない人に任せると、様々な意味でリスクがあります。M&AのDDを専門にしているプロフェッショナルに任せることで、業種ごとの押さえるべきポイントやヒアリングもまとを得ているため、必要な情報を漏れなく確認できるという大きなメリットがあります。慣れていない人がDDをすると、往々にして、相手方への質問のポイントがずれていたり、あら捜しのような質問で、相手の心象を悪くしてしまうことがあるので、注意が必要です。
デューデリジェンスでしっかりと確認をし、最終の条件交渉を経て、最終契約書の締結に入ります。最終契約書の締結と決済(株式譲渡)を同日に実行するのが一般的です。これ以後、社員や取引先に情報を開示し、丁寧に説明をしていきます。開示される側は「寝耳に水」の状態のため、今後どうなっていくのか、とても不安になっていく場面です。特に、経営幹部社員や重要な取引先については、膝詰めで丁寧に、経緯も含め説明することが大切です。
M&Aはこのように、買い手先企業の選定から、最後のクロージングまで、押さえるべきポイントが多くあります。M&Aは関わる人が多く、1つでもおろそかにすると、微妙な認識のずれが生まれ、大きなトラブルになることもあります。上記の手順を順守することが、M&Aを成功させることにつながります。
M&Aの手法で、多く用いられる株式譲渡をはじめ、買収・合併・分割について、それぞれ詳しく解説します。
会社買収では、「株式譲渡」というスキームが用いられます。株式譲渡は、特定の株主と取引をする「相対取引」と、不特定多数を相手にする「買付」に大別されます。
▼相対取引
相対取引とは、市場を通さずに、売り手と買い手が1対1で取引をする方法です。非上場企業のM&Aで多く用いられ、売り手と買い手が「株式譲渡契約書」を締結することで取引が成立します。売り手は株式を譲渡する代わりに、買い手から譲渡対価を受け取ります。株式譲渡は、資産・負債・雇用契約・その他の許認可などを包括的に承継するのが特徴です。会社の経営権が買い手側に移るだけなので、他のスキームに比べると手続きが簡便です。中小企業の場合、M&Aのマッチングサイトや仲介会社などを通して、候補先を探すのが一般的です。
▼証券取引所を経由した買付や公開買付(TOB)
上場企業は相対取引のほかに、通常の「証券取引所を経由した買付」や「公開買付」を通して株式の取得を行うことが可能です。証券取引所を経由した買付では、買付後の株式所有割合が5%以上になる場合(5%ルール)や、特定条件の買付で5%ルールが適用されないケースでも買付後の株券等所有割合が3分の1を超える場合(3分の1ルール)は、公開買付(TOB)による方法を選択しなければなりません。公開買付とは、あらかじめ買付株数・買付期間・買付価格を公開した上で、取引所以外で不特定多数の株主から株式を買い付ける方法です。経営陣の合意を得ずに買収を仕掛ける「敵対的買収」では、公開買付が用いられます。
合併は、複数の会社を一つの会社に統合することです。会社分割と同じく、会社法上の組織再編にあたります。新しく会社を設立するかどうかで、「吸収合併」と「新設合併」の2パターンに区別されます。
▼吸収合併
吸収合併は、一つの会社(存続会社)がその他の会社(消滅会社)を吸収する合併方法です。吸収された会社は法人格が消滅するため、株式譲渡による会社買収のように親会社・子会社の従属関係は生じません。消滅会社と存続会社の株式の合併比率が1:1の場合、社内外に「対等な立場」であることをアピールできます(対等合併)。吸収合併を行うと会社の規模が大きくなるため、販売や生産、物流などのさまざまな面でスケールメリットが得られます。技術やノウハウ、人材の共有によるシナジー効果も期待できるでしょう。消滅会社の資産や負債は存続会社が包括的に引き継ぎます。
▼新設合併
新設合併は、新設する会社に会社の権利義務の全てを承継させる方法です。新設会社が存続会社となり、そのほかの会社の法人格は消滅します。全ての当事会社が解散するという点において、社内外に対等な関係性をアピールできるでしょう。新設合併のデメリットは、会社設立の手続きや許認可の申請などに多くの時間やコストが費やされる点です。組織文化の違う複数の会社をまとめて一つの会社として新設されるため、社内規程や人事制度を新たに作り直す必要があります。実務的な負担が大きくなることから、新設合併よりも吸収合併の方が多く採用されています。
会社分割は、事業に関する権利義務の全部または一部を自社から切り離し、他の会社に包括的に承継させるM&A手法です。事業譲渡は事業資産を売買する行為であるのに対し、会社分割は会社法上の「組織再編」に該当します。
▼新設分割
既存会社に事業を承継する吸収分割に対し、新設分割では新たに企業を設立した上で、事業の権利義務を引き継ぎます。原則的に、新設分割では「株式」が対価として交付されるため、承継会社は分割会社の子会社となるのが特徴です(全株式を取得する場合には100%の親子関係が成立)。会社分割は、会社法上の「組織再編行為」です。M&Aだけでなく、グループ内で事業を再編したい場合や事業を子会社化したい場合、組織を整理してスリム化したい場合などにも採用されます。株式を対価にできるため、潤沢な資金がなくても事業の承継を行えるのがメリットです。
▼吸収分割
吸収分割は、分割した事業を「既存の会社」に承継させ、その対価として金銭や株式を受け取るのが特徴です。事業の権利義務が包括的に引き継がれるため、契約を個別に結び直す必要はありません。吸収分割はグループ内の再編や子会社化のほかに、「合弁企業(ジョイントベンチャー)」を立ち上げる際にも用いられます。合弁企業は、複数の企業がそれぞれのリソースを出し合い、共同で事業を展開する形態です。
M&Aにおけるバリュエーションと呼ばれる企業価値評価について、代表的なインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3つのアプローチについて、解説します。
過去よりも将来に生み出す利益に着目し、リスク等を考慮した割引率で割り引いて事業価値を導き出す方法です。この方法では、企業の将来性や収益性が重視されます。M&Aでの企業価値評価の他に、銀行などの金融機関の融資判断や、事業や設備投資への投資判断のために使われることもあります。
(1)収益還元法
企業の正しい利益を推測し、そこに企業リスクを加えて割引率を適用して企業価値を算定する方法です。
(2) 配当還元法
株主が受け取る株式配当(配当金)に注目して企業評価する方法です。
(3) DCF(Discounted Cash Flow)法
事業を行うことによって将来生み出されるキャッシュフローに着目し、一定の割引率を用いてそれを現在価値に引き直した上で”事業価値”を算定します。そこに”非事業用資産の価値”と”有利子負債等の価値”を考慮して株式価値を導く方法です。
類似企業や株式市場における上場会社の株価に着目した評価方法です。市場において成約する価格をベースとして、対象会社の株式価値を評価します。
(1) 類似会社比準法
自社と類似した企業の財務指標を参考に評価する方法です。M&Aにおいて評価対象の会社が非上場の場合によく使われる評価方法です。
(2) 類似業種比準法
自社と類似した業種の財務指標を参考に評価する方法です。経営者の相続税が対策として株価を抑えたい時に活用されることが多いスキームです。
(3)市場株価法
上場企業のみ用いることできる企業評価方法です。過去半年程度の平均株価を評価額とする手法です。非上場企業では活用できない評価方法です。
貸借対照表(バランスシート)の純資産に着目した企業の評価方法で「純資産法」とも呼ばれています。ここでいう純資産とは、貸借対照表の資産の額より負債額をマイナスしたもので、この純資産額をベースに評価します。非上場の中小企業において、よく用いられる手法です。
(1) 簿価純資産価額法
帳簿上の資産から負債を差し引いて株式を評価する方法です。一般的には取得原価に基づいているため、帳簿上記載されている資産や負債の評価額は、現時点の価値である時価と乖離していることが多いのがデメリットです。
(2) 時価純資産価額法
特に中小企業では帳簿上の資産や負債を取得時における評価で計上されたままになっているケースが多くあります。そのため、より評価時点での実態を表すために資産・負債の各項目を精査し、現時点での価値で再評価し、株価算定をおこないます。
(3) 時価純資産価額法+営業権(のれん)法
上記(2)の時価純資産価額に会社の超過収益力である営業権を考慮することによって、清算価値あるいは再調達価値だけではなく、将来の企業価値を加味した継続企業価値を表す方法です。
M&Aを実施するには、企業価値評価やデューデリジェンスなど、高度なファイナンスや法律の知識が必要であり、高い専門性が求められます。多くの場合は、M&Aの仲介会社を活用することが多く、仲介会社の役割や手数料について、解説します。
M&A仲介とは、同一のM&Aアドバイザーが売り手と買い手の間に立って、M&A交渉の仲介を行うことです。つまり、M&Aの仲介会社は買い手と売り手の間に着任し、当事者双方に対して、原則として中立的かつ客観的な立場でM&A交渉の仲介・助言を行い、M&Aを成約に導くことを任務としています。
ポイントは同一の仲介会社が買い手と売り手の間に立っていることであり、どちら側の利益最大化を目指すわけではなく、双方の条件のバランスをとって、それぞれの利益のバランスを考えたM&Aを目指している点です。買い手と売り手の経営者の同意を得て進める、友好的なM&A成立のためには、M&A仲介会社に仲介を依頼して、M&Aの交渉を進めることが一般的です。
M&A仲介会社を利用するメリットは主に以下の4点です。
M&Aの仲介を依頼するためには、仲介費用がかかります。総額や内訳は仲介会社によって異なりますが、一般的な内訳は以下のとおりです。
相談料~中間金までは、M&Aの成約に関わらず、返金されないのが一般的です。デューデリジェンス費用は買い手(譲受企業)が負担するもので、仲介会社ではなく、外部の弁護士・会計士・税理士などに支払う費用となります。最後の成功報酬が最も金額が大きいものです。M&A取引の最終契約締結のあとに仲介会社に支払う費用です。一般的にはレーマン方式と呼ばれる計算式で成功報酬を計算します。取引金額に一定の料率を掛けて算出されます。
M&A仲介会社は数多くがありますが、各社の特色や強み、案件と同業種のサポート実績があるかが、選ぶ上での大きなポイントになります。同時に、M&Aは比較的時間要し、プロセスが数多くあるため、担当するコンサルタントとの相性も大切だといえます。
M&Aの実績、コンサルタントとの相性、予算感、自社の規模との親和性を見て、複数の仲介会社を比較検討した上で、決めるのがよいでしょう。M&Aは交渉~最終契約まで、数カ月と長い期間を要するため、仲介会社の担当コンサルタントとのいわゆる、相性も大切です。
本稿では、M&Aの目的、メリット、実施手順、成功のポイントについて、解説をしました。M&Aを成功させるためには、パートナーともいえるM&A仲介会社の存在が大きいです。自社の規模と支援会社の規模感のバランス、予算感、自社と同業種でのM&A実績などを、各社の特徴を理解し、仲介会社を決めることが大切です。その際に、複数の仲介会社を比較して、どの会社とパートナーを組むことが、M&Aの成功につながるか、社内でよく検討、見極める必要があります。
M&Aのプロセスは企業価値算定やデューデリジェンスなど数多くあり、非常に高度な専門知識を要するものもがあります。そのため、自社だけで完結することは非常に難しく、専門知識を有するM&A仲介会社がM&Aの成否を決める要素もあるため、非常に大切な存在となります。
株式会社DYMには、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。M&Aにおける交渉・契約や企業価値算定やデューデリジェンスといった高度な専門知識を求められる分野にも対応しており、M&Aが完了するまで一貫したサポートを提供することが可能です。
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