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Web広告の成果を思うように得られていない場合、その原因は「アドフラウド」かもしれません。アドフラウドとは、botなどを利用して不正に広告表示やクリックを発生させ、広告費をだまし取る詐欺行為です。気づかぬうちに広告予算が無駄になるだけでなく、ブランドイメージの低下にもつながります。本記事では、アドフラウドの仕組みや具体的な対策を分かりやすく解説します。
<この記事で紹介する3つのポイント>
アドフラウドとは、Web広告においてbotなどのプログラムを用いて広告の表示回数やクリック数を不正に増加させ、広告費を不当に詐取する「広告詐欺」行為全般を指します。広告主にとっては、意図しない形で広告予算が搾取される深刻な問題です。この問題の根深さを示すデータとして、デジタルメディア品質を調査するIntegralAdScienceが2022年4月に発表した「メディアクオリティレポート第16版」では、2021年下半期の日本におけるディスプレイ広告のアドフラウド率が、デスクトップで2.6%、モバイルで1.5%に達し、世界でワースト2位であったことが報告されています。
アドフラウドは、広告配信の健全性を検証する「アドベリフィケーション」の一要素であり、ブランドイメージの毀損を防ぐ「ブランドセーフティ」や、広告が実際にユーザーに見られたかを測る「ビューアビリティ」と並び、近年その対策の重要性が高まっています。
アドフラウドは、広告主に対して単一の被害だけでなく、多岐にわたる深刻な悪影響を及ぼします 。直接的な金銭的損失はもちろんのこと、広告戦略の根幹を揺るがすデータの汚染や、時間をかけて築き上げてきたブランドイメージの毀損など、その被害は広範囲に及びます。広告主は、アドフラウドがもたらすこれらのデメリットを正しく認識し、自社のビジネスにどのようなリスクが存在するのかを把握しておくことが不可欠です。ここでは、アドフラウドが広告主に与える具体的な4つの影響について詳しく解説します。
アドフラウドがもたらす最も直接的かつ最大のデメリットは、成果に一切つながらない不正な広告表示やクリックに対して、広告費を支払わされてしまうことです。botや悪意のある第三者によって水増しされたインプレッションやクリックは、本来のターゲット顧客にリーチする機会を奪い、広告予算を無駄に消費させます。その結果、コンバージョンに至らないクリックばかりが増加し、コンバージョン率(CVR)が低下することで、顧客獲得単価(CPA)の悪化に直結します。
多くの広告担当者は、計上された数値が不正によるものだと気づくことが難しく、知らないうちに費用対効果が著しく低下しているケースが少なくありません。これは、本来得られたはずの事業機会の損失にほかならないのです。
アドフラウドは、広告キャンペーンの効果測定を著しく歪めます。不正に水増しされたクリック数や表示回数といったデータを分析しても、それは広告の真の成果を反映したものではないため、キャンペーンの評価を正しく行うことができません。例えば、実態を伴わないクリック数の多さを見て「この広告はユーザーの関心を引いている」と誤って判断し、本来は改善が必要なクリエイティブやターゲティングを継続してしまう可能性があります。
このように、アドフラウドによって汚染されたデータに基づいた意思決定は、広告戦略を誤った方向へ導き、効果的な改善サイクルを妨げることで、結果的にさらなる広告費の浪費と顧客獲得機会の損失を招くことになります。
アドフラウドは、金銭的な損失やデータ汚染だけでなく、企業のブランドイメージを深刻に毀損する危険性をはらんでいます。アドフラウドの温床となるサイトには、著作権を無視した違法アップロードサイトや、公序良俗に反するコンテンツ、あるいは広告表示回数を稼ぐことだけを目的とした質の低いサイトなどが含まれます。自社の広告が意図せずして、このような不適切なサイトに表示されてしまうと、それを見た消費者は企業に対して「このようなサイトを支持する企業なのか」といった不信感や嫌悪感を抱きかねません。
一度損なわれたブランドイメージや企業としての信頼を回復するには多大な時間とコストを要するため、広告がどこに掲載されているかを管理することは極めて重要です。
近年の運用型広告では、過去の配信実績データを機械学習させ、広告効果を自動で最適化する自動入札システムが広く活用されています。しかし、アドフラウドはこのシステムの精度を著しく低下させる要因となります。
システムは、不正なクリックやコンバージョンもすべて正規のデータとして学習してしまうため、アドフラウドによるノイズが含まれたデータは、効果的な学習を妨げます。その結果、最適化の精度が上がらず、本来リーチすべきでないユーザー層に配信を強化したり、効果的なはずのターゲットへの配信を抑制したりするなど、システムの判断が誤った方向へ進む可能性があります。これは、最新技術を活用した効率的な広告運用を阻害し、顧客獲得の機会損失につながります。
アドフラウドと一括りに言っても、その手口は一つではありません。技術の進化とともに次々と新しい手法が生まれており、その種類は多様化しています。広告主が効果的な対策を講じるためには、まずどのような種類の不正行為が存在するのかを把握することが非常に重要です。botによる単純なクリック数の水増しから、ユーザーのデバイスを乗っ取る悪質なもの、巧妙にドメインを偽装するものまで様々です。ここでは、代表的なアドフラウドの手法とその特徴について具体的に解説していきます。
クリック洪水(クリックスパム)、またはフローディングとも呼ばれるこの手口は、アドフラウドの中でも特に代表的なものです。botなどの自動化プログラムを利用して、実際にはユーザーがクリックしていないにもかかわらず、大量のクリックがあったかのように偽装する行為を指します。これにより、クリック数だけが異常に増加しますが、その後のコンバージョンやサイト内での意味のあるアクションには全くつながりません。
手口としてはプログラムによる自動実行が主ですが、報酬目的で雇用された人々が人力でクリックを繰り返すケースも存在します。レポート上で特定の広告のクリック数が短期間に急増している場合、このアドフラウドの被害に遭っている可能性を疑う必要があります。
隠し広告(HiddenAds)は、Webサイトを訪れたユーザーの目には触れないように広告を設置し、広告の表示回数(インプレッション)だけを不正に水増しする悪質な手法です。具体的には、Webサイトの制作に使われるCSSという技術を悪用し、広告を1ピクセル四方のような極めて小さいサイズで表示したり、透明にして見えなくしたり、あるいは画面の表示領域の外側に配置したりします。
ユーザーは広告の存在を一切認識できないため、当然クリックされることはなく、広告主にとってはコンバージョンにつながる可能性がゼロの、全く意味のない広告費の支払いを強いられることになります。サイト運営者は不正に広告収入を得られる一方で、広告主はただ予算を浪費するだけという厄介な手口です。
過度な自動リロードは、Webページに設置された広告枠のみを、ユーザーの操作とは無関係に、数秒単位という非常に短い間隔で何度も自動的に更新(リロード)することで、広告の表示回数を不正に稼ぐアドフラウドです。ページ全体がリロードされるわけではないためユーザーは気づきにくいですが、裏ではインプレッションが不正にカウントされ続けています。
この手法は、価値のない広告表示を繰り返すことでサイトの品質を低下させるだけでなく、高頻度なリロードが広告配信サーバーに過大な負荷をかけるという技術的な問題も引き起こします。例えば、ユーザーがページ上部の動画コンテンツを長時間視聴している間に、画面下部の広告枠だけが何度も更新されるといった巧妙な手口も存在します。
アドフラウドの中でも特に悪質とされるのが、一般ユーザーのPCやスマートフォンといったデバイス自体を乗っ取る手口です。これは、ユーザーがフリーソフトやアプリをダウンロードする際に、マルウェア(悪意のあるプログラム)を同時にインストールさせることで行われます。
「インストールジャック」とも呼ばれるこの手法では、マルウェアに感染したデバイスが、ユーザーが知らない間にバックグラウンドで広告を強制的に表示したり、クリック情報を送信したりします。また、端末の識別IDを連続でリセットし、あたかも多数の異なるユーザーがアプリをインストールしているかのように見せかける手口もあり、広告主を巧みに欺きます。
偽ドメインは「ドメインなりすまし」や「DomainSpoofing」とも呼ばれ、信頼性の高い著名なニュースサイトや人気メディアのドメインになりすまし、広告費を詐取する手法です。広告主は、品質の高い優良なサイトを指定して広告を出稿したつもりでも、実際にはそのドメインを偽装した価値の低い、あるいは悪質なサイトに広告が配信されてしまいます。当然ながら、偽のサイトでは広告が本来のターゲットに届くことはなく、コンバージョンは期待できません。
それだけでなく、「なりすましサイトに広告を掲載している企業」として、広告主のブランドイメージや社会的信用が大きく傷つくリスクも伴うため、非常に危険なアドフラウドと言えます。
広告の差し替えは「アドインジェクション」とも呼ばれ、Webサイトの運営者が正規に設置した広告枠の広告を、第三者が不正に別の広告に差し替えたり、新たな広告を挿入したりする手法です。この不正は、ユーザーがブラウザの拡張機能やフリーソフトをインストールした際に、同時に組み込まれる「インジェクタ」というプログラムによって実行されるケースが多く見られます。
この手口の被害は広告主だけにとどまりません。本来広告収入を得るはずだったサイト運営者(メディア)の収益が、不正を働く第三者に横取りされてしまうため、メディア側にとっても深刻な問題となります。ユーザー自身も、意図せずして不正行為の踏み台にされてしまう可能性があります。
データセンタートラフィックは、サーバーやクラウドサービスなどを提供するデータセンターが保有している、通常は一般ユーザーが利用しないIPアドレスから、botなどが広告に対して不正なアクセスを行うアドフラウド手法です。広告配信のアクセス元ログを解析した際に、特定のデータセンターからのアクセスが不自然に集中している場合、この手口の被害を受けている可能性が考えられます。
以前は、IPアドレスの種類から比較的検知しやすいアドフラウドでしたが、近年では技術が巧妙化しており、不正なアクセスを一般ユーザーからのアクセスであるかのように偽装する手口も出現しているため発見がより困難になっているのが現状です。
アドフラウドの手口は巧妙化し続けており、完全に撲滅することは困難ですが、広告主が被害を最小限に抑えるために実施できる対策は数多く存在します。対策は、すぐにでも始められる知識の習得や日々の分析から、専門的なツールを導入する本格的なものまで多岐にわたります。
重要なのは、一つの対策に頼るのではなく、複数のアプローチを組み合わせ、多角的な防御壁を築くことです。ここでは、明日からでも実践できるものを含め、マーケティング担当者が知っておくべき7つの効果的なアドフラウド対策をご紹介します。
あらゆるアドフラウド対策の根幹となるのが、広告運用担当者自身がアドフラウドの存在とその手口について、正確な知識を身につけることです。どのような詐欺行為があり、それが広告配信データにどう影響するのかを理解していれば、日々のレポート数値の些細な異常に気づき、「これはアドフラウドかもしれない」と疑うきっかけになります。この初動の気づきが、被害の拡大を防ぐ上で極めて重要です。
知識がないままでは、不正によって歪められたデータを信じ込み、誤った広告改善を続けてしまうことにもなりかねません。社内での知見蓄積が難しい場合は、専門知識を持つ外部の広告代理店などに相談することも有効な手段となります。
配信先の「量」よりも「質」を重視し、アドフラウドのリスクを低減する効果的な手法が、ホワイトリストの作成と活用です。これは、自社の広告を掲載するにふさわしいと判断した、安全で信頼性の高いWebサイト(メディア)をあらかじめリストアップし、そのリストに含まれるサイトに限定して広告を配信する方法を指します。これにより、素性の知れないサイトや低品質なサイトへの広告掲載を未然に防ぎ、ブランドセーフティを確保できます。
ただし、リストは一度作成したら終わりではありません。広告の配信規模を維持・拡大するためには、新規の優良サイトを定期的に追加すること、そしてリスト内のサイトが現在も安全であるかを継続的にチェックし、メンテナンスしていくことが不可欠です。
日々の広告配信結果を注意深く分析することは、アドフラウドの兆候を早期に発見するための基本的な対策です。具体的には、広告の掲載サイトごとのレポートを確認し、特定のサイトだけCTR(クリック率)が異常に高かったり、逆にクリックは多いもののコンバージョンが全く発生していなかったりするなど、不自然な傾向を示すサイトがないかを探します。
もし不正が強く疑われるサイトを発見した場合は、速やかにそのサイトへの広告配信を停止し、再配信されることがないよう「ブラックリスト」に追加する対応が必要です。この地道な分析と対処の繰り返しが、無駄な広告費の流出を食い止め、広告運用の健全化につながります。
アクセス解析ツールなどを利用して、自社サイトを訪れるユーザーの行動(挙動)を監視することも、アドフラウドの検知に役立ちます。botなどのプログラムによる不正アクセスは、人間ではありえない特異な動きを見せることが多いためです。例えば、単一のデバイス(IPアドレス)から短時間に膨大なアクセスが繰り返されたり、特定のユーザーのアクティブ率が異常に高かったり、常識では考えられない速度でページのリロードが行われたりといった挙動がこれにあたります。
このような不審な動きをするIPアドレスを特定し、Google広告などのプラットフォームが提供する除外機能を活用して、そのIPからのアクセスをブロック(ブラックリスト化)することが有効な対策となります。
特にスマートフォンアプリのインストールを促す広告において有効なのが、CTIT(ClicktoInstallTime)を計測する方法です。CTITとは、ユーザーが広告をクリックしてからアプリのインストールが完了するまでにかかった時間を示します。
正規のユーザーであれば、広告クリック後にアプリストアへ遷移し、内容を確認してからダウンロードするため、インストール完了までには通常1分以上の時間がかかると言われています。しかし、マルウェアに感染したデバイスが自動でインストールを行うようなアドフラウドの場合、このプロセスが機械的に実行されるため、CTITが10秒を切るなど、不自然なほど短くなります。この時間を監視し、極端に短いインストールが多発していないかを確認することで、不正を検知できます。
進化を続ける巧妙なアドフラウドに対し、人手だけで完全に対策するのは困難です。そこで、アドフラウド対策に特化した専門ツールを導入することは、非常に効果的かつ確実な手段と言えます。これらのツールは、担当者のスキルレベルに関わらず、膨大な広告配信データの中から不正なクリックやインプレッション、悪質なサイトへの出稿などをリアルタイムで自動的に検知し、ブロックしてくれます。
導入には当然コストが発生するため、まずは自社の広告費のうち、どれくらいがアドフラウドの被害にあっている可能性があるかを試算し、費用対効果を検討してから導入を決めると良いでしょう。主要なツールベンダーとしては、SpiderAFやIAS、Momentumなどが知られています。
自社での対策と並行して、利用するDSP(広告配信プラットフォーム)や広告媒体自体が、アドフラウド対策にどれだけ真摯に取り組んでいるかを見極めることも極めて重要です。事業者を選定する際には、アドフラウド対策を専門とする外部ベンダーと連携しているか、JICDAQ(デジタル広告品質認証機構)のような第三者機関による「ブランドセーフティ」や「無効トラフィック対策」の認証を取得しているか、などを確認すると良いでしょう。
また、広告主と掲載媒体を事前に厳しく審査し、許可された参加者間でのみ広告取引を行うPMP(プライベート・マーケット・プレイス)を利用することも、アドフラウドを回避する上で有効な選択肢の一つです。
Web広告の健全な運用において、アドフラウド対策は避けて通れない重要な課題です。botによる不正クリックやインプレッションは、広告予算を無駄にするだけでなく、正確な効果測定を妨げ、ブランドイメージをも毀損します。本記事で紹介した対策を実践し、自社の広告活動を守りましょう。
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「世界で一番社会を変える会社を創る」というビジョンのもと、WEB事業、人材事業、医療事業を中心に多角的に事業を展開し、世界で一番社会貢献のできる会社を目指しています。時代の変化に合わせた新規事業を生み出しながら世界中を変革できる「世界を代表するメガベンチャー」を目指し、日々奮闘しています。